君の週末の介抱
鈴木林檎153㎝
ミカン 164㎝
「なんで私はいっつも失敗ばかり……うぅ……」
「林檎、もう何本目だ。そろそろやめておけ」
「うぅ……ミカンもこんな女やだよねぇ……」
「や、そんなこと……」
◆
小鳥が囀る爽やかな朝が来た。が、気分は最悪だ。
「あだまいだい……」
「ビールの飲みすぎだ、阿保」
ソファに丸まって横たわる私を見下ろし、ミカンは呆れたように肩を竦めた。私よりも背が10cmほど高いミカンが、今日は一段と大きく見える……。あ、私が寝転がってるからか。駄目だ、頭が回らない。
「あのな、仕事で疲れてるのは分かってるが、いくら翌日が休日だからって――」
ミカンの説教が頭に響き、私はまたうめき声をあげる。そんな私にミカンは深く溜息を吐くと、台所へと姿を消してしまった。腰から垂れた尻尾が力なく垂れ下がっているのを見て、流石に怒っただろうか、と反省する。このやり取りはほぼ毎週末に繰り返されるものだが、いい加減愛想をつかされたかもしれない。
(謝らなきゃ……もしミカンに見捨てられたら……)
先日上司に激しく怒られた記憶がフラッシュバックした。それに恐怖心をあおられ、私は壁を伝うように、おぼつかない足取りで台所へと向かう。壁からこっそり顔を出して様子を伺うと、ミカンはしゅんと耳と尻尾を垂らしながら何かを作っていた。
「ミカン……」
「台所じゃなくて部屋に行け」
そのキツイ物言いに、私は何も言い返せずにふらふらと自室へと足を運んだ。道中何度か足がもつれ、転びそうになる。頭の中は不安でいっぱいだった。これも、二日酔いのせいだろうか。
ミカンと一緒に使用している自室。二人で寝るには狭いが、一緒に寝ているシングルベッド。ミカンはいつも私が落ちないようにと、私を壁側にしてくれる。朝日が降り注ぐベッドにごろりと寝転がり、ぎゅうと羽毛布団を抱きしめた。
――ミカンの匂いがする。胸の奥が温かくなる、優しい匂いだ。
「何をそんなに布団を嗅いでるんだ」
「っ!!」
咄嗟に布団を手放し上体を起こすが、頭痛でぐらつき、またベッドに横たわってしまう。そんな私を見て、ミカンはまた肩を竦めた。
……ふと、ミカンがお盆に何か乗っけていることに気が付く。ミカンがお盆をミニテーブルに置くのを眺めながらなんとか起き上がり、ベッドの脇に腰を掛けると目の前にお椀が差し出された。
「しじみのお粥。二日酔いにはしじみが効くらしいからな」
「怒って……ないの?」
「怒ってるに決まってんだろ」
むすっと顔をしかめたミカンからゆっくりお椀を受けとる。口に運ぶとほんのり温かく、猫舌の私でも食べやすくなっていた。
「毎週のように心配かけさせやがって。さっさとこれ食って回復しろ」
その優しさの詰まった言葉に、頭の痛みがふっと軽くなる。お椀をテーブルに置き、私の隣に腰を下ろしたミカンに抱き着いた。ミカンの大きな胸に顔をうずめていると、温かな手が私の頭を優しく撫でる。
「……酒臭い」
そう言って引き剥がされるまで、私はミカンに包まれていた。
小鳥囀る爽やかな朝、気分は最高だ。