表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第1章
2/97

君の週末の介抱

鈴木林檎153㎝

ミカン 164㎝

「なんで私はいっつも失敗ばかり……うぅ……」

「林檎、もう何本目だ。そろそろやめておけ」

「うぅ……ミカンもこんな女やだよねぇ……」

「や、そんなこと……」


 ◆


 小鳥が囀る爽やかな朝が来た。が、気分は最悪だ。

「あだまいだい……」

「ビールの飲みすぎだ、阿保」

 ソファに丸まって横たわる私を見下ろし、ミカンは呆れたように肩を竦めた。私よりも背が10cmほど高いミカンが、今日は一段と大きく見える……。あ、私が寝転がってるからか。駄目だ、頭が回らない。

「あのな、仕事で疲れてるのは分かってるが、いくら翌日が休日だからって――」

 ミカンの説教が頭に響き、私はまたうめき声をあげる。そんな私にミカンは深く溜息を吐くと、台所へと姿を消してしまった。腰から垂れた尻尾が力なく垂れ下がっているのを見て、流石に怒っただろうか、と反省する。このやり取りはほぼ毎週末に繰り返されるものだが、いい加減愛想をつかされたかもしれない。

(謝らなきゃ……もしミカンに見捨てられたら……)

 先日上司に激しく怒られた記憶がフラッシュバックした。それに恐怖心をあおられ、私は壁を伝うように、おぼつかない足取りで台所へと向かう。壁からこっそり顔を出して様子を伺うと、ミカンはしゅんと耳と尻尾を垂らしながら何かを作っていた。

「ミカン……」

「台所じゃなくて部屋に行け」

 そのキツイ物言いに、私は何も言い返せずにふらふらと自室へと足を運んだ。道中何度か足がもつれ、転びそうになる。頭の中は不安でいっぱいだった。これも、二日酔いのせいだろうか。

 ミカンと一緒に使用している自室。二人で寝るには狭いが、一緒に寝ているシングルベッド。ミカンはいつも私が落ちないようにと、私を壁側にしてくれる。朝日が降り注ぐベッドにごろりと寝転がり、ぎゅうと羽毛布団を抱きしめた。

 ――ミカンの匂いがする。胸の奥が温かくなる、優しい匂いだ。


「何をそんなに布団を嗅いでるんだ」

「っ!!」

 咄嗟に布団を手放し上体を起こすが、頭痛でぐらつき、またベッドに横たわってしまう。そんな私を見て、ミカンはまた肩を竦めた。

 ……ふと、ミカンがお盆に何か乗っけていることに気が付く。ミカンがお盆をミニテーブルに置くのを眺めながらなんとか起き上がり、ベッドの脇に腰を掛けると目の前にお椀が差し出された。

「しじみのお粥。二日酔いにはしじみが効くらしいからな」

「怒って……ないの?」

「怒ってるに決まってんだろ」

 むすっと顔をしかめたミカンからゆっくりお椀を受けとる。口に運ぶとほんのり温かく、猫舌の私でも食べやすくなっていた。

「毎週のように心配かけさせやがって。さっさとこれ食って回復しろ」

 その優しさの詰まった言葉に、頭の痛みがふっと軽くなる。お椀をテーブルに置き、私の隣に腰を下ろしたミカンに抱き着いた。ミカンの大きな胸に顔をうずめていると、温かな手が私の頭を優しく撫でる。

「……酒臭い」

 そう言って引き剥がされるまで、私はミカンに包まれていた。


 小鳥囀る爽やかな朝、気分は最高だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ