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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第1章
17/102

君のすべてを愛してる

「りっ、林檎! やめっ……」

「ダメ、もう我慢できない」

 ベッドに無理やりミカンを押し倒し、身動きが取れないように覆いかぶさる。顔を近づけてやると、その凛々しい顔を真っ赤にして恥ずかしがった。右手をTシャツの裾からそっと忍ばせ、程よく割れた腹筋に沿って指先を這わせる。くすぐるように撫でるたび、ミカンの身体はびくびくと反応して、それが私をさらに興奮させた。

 カーテンから零れた満月の眩い(まばゆい)明りが、ミカンの顔を照らす。頬を真っ赤にし涙目になりながらも、反抗的な目で私を睨み付けてくる。あぁ、ずっとこの顔を見たかった。腹を撫でていた指をもっと奥へ、その豊満な胸を何度か優しく撫でると、私は本命へと指先を進める。

 私の本命を察したミカンは咄嗟に腋を閉めたが、もう遅い。

「そこはっ……!」

 手に伝わる感触に、私は興奮した。その手をなぞるように脇腹へと運ぶ。腋から脇腹へかけて、その感触は続いていた。顔を両腕で隠しながら、身体を震わせるミカン。私は脇腹を撫でながら、率直に感想を述べた。


「本当に満月の日は毛深いんだね」

「っ……林檎の馬鹿!」


 ◆


 左頬に残った赤い手形をさすりながら、私は淹れたてのコーヒーに口をつける。別に、眠気覚ましではない。眠気だったら先ほどのビンタですべて吹き飛んでいる。深夜にコーヒーを飲むときの理由は、いつも大体同じだ。

 夜の営みでひと際興奮した時、その余韻に浸るためである。

 今日は実によかった。ビンタされ途中で逃げられ、最後まで行けなかったものの、後悔はしていない。ミカンはずっと満月の夜、「毛深くなるから今日はしない」「満月だから、今日は我慢してくれ」と、行為を避けてきていた。腋や下腹部を中心にが毛深くなるらしく、それを恥ずかしがって今まで見せてくれなかった。しかし、今夜とうとう我慢の限界が来た。

「今日ミカンとえっちしたい」

「きょ、今日は満月だから、その……」

「満月だからだよ」

「……え」

 その後、無理やり押し倒し、無理やり攻め、今に至るわけだ。

 コップを下げて寝室へ戻ると、ミカンは枕に顔をうずめていた。

「ミカンーそれ息苦しくない?」

 うずめるならこっち! と両腕を広げるも、ミカンはちらとこっちに目をやっただけで再び枕に顔を伏せてしまった。そんなに怒っているのかと、顔を覗き込んでみると、枕カバーに染みができていることに気が付いた。

「……え、泣いてるの?」

 ミカンの肩を掴んで身体をこちらへ向けさせると、ミカンはぼろぼろと涙を零していた。あまりにも泣きじゃくっているので、私は咄嗟に力強く抱きしめてしまった。嫌がられるかもと思ったが、ミカンは抵抗せずに私の胸の中で泣き続けた。

 それから数分してようやくミカンは泣き止み、私はどうして泣いてたのか尋ね、その理由に呆気にとられた。

「……林檎に嫌われたかと思ったから」

「へ?」

 目元を真っ赤にしたミカンの耳と尻尾は悲しそうに項垂れていた。

「なんで私が嫌うと思ったの!? どっちかというと嫌われるの私じゃない!?」

 だって、とミカンは呟く。


「林檎、前に”お父さんの身体毛だらけで気持ち悪い”って……」


 私は目を瞑ってその言葉を思い出す。結局思い出せはしなかったが、心当たりはあった。

「ねぇそれってさ、いつ言ってたの……?」

「林檎が中学生の頃」

「反抗期真っただ中!!!」

 私は噴き出した。ミカンはそんな反抗期の頃の言動ひとつで、今まで恥ずかしがって、それを見られて私に嫌われると思ったのか。なんて可愛いんだろう。

「ミカン。私はミカンが毛深くなっても気持ち悪いとか思わないよ」

「……ほんとか?」

 むしろ興奮した。とは言わないでおこう。

「ほんとほんと。それに、私はミカンの全部が好きだからね」

 安堵したのか、倒れるように抱き着いてきたミカンを受け止め、その頭を撫でてやる。

「嫌いにならないか?」

「ならないよ。私の方こそごめんね」

「……もう少し撫でてくれたら、許してやる」

「はいはい」

 私は満月の優しい光に包まれながら、少しボリュームの多くなった髪の毛を撫で続けた。

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