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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第1章
16/102

君のことを守りたくて

「たまにはどっか行くか」

 珍しくミカンが外食を提案してきた。ソファで寛いでいた私は「うぇ?」と間抜けな声をあげ、更にはソファから転げ落ちた。

 普段は「外食は身体に悪い。林檎は私が作ったバランスのいい飯を食って長生きしろ」と言っているのに。どういう心境の変化だろう……。は、もしや「もういいよ早死にしろ」と暗に伝えてるのか? そうなのか!?

「ミカン様見捨てないでくださいお願いします」

「は?」

 怪訝そうに眉をひそめるミカンに支度を促される。どうやら見捨てられたわけではないらしい。取りあえず一安心だ。

 寝間着を脱いで洗濯籠に入れ、お気に入りのワンピースに袖を通す。お化粧は……普段からしてない。不器用過ぎて、デビルフェイスと化してしまう。友達に「スッピンのほうが万倍可愛い」と切り捨てられ、以来化粧はしていない。幸い、会社でも「すっぴんのまま来てる私生活も仕事もダメな女」というレッテルは張られていないようだ。

 玄関ではすでに身支度を終えていたミカンが、耳を飾っている桜のピアスを触って待っていた。

「林檎、その黒いワンピース似合うな」

「えへへーミカンも帽子、似合ってるよ!」

 ミカンの服装は、先日買った橙色の帽子に黒いジャケット、そしてスキニージーンズだ。ミカンは背も高いし脚も長い上、それをを履くとその細さが顕著にあらわれる。羨ましいなこんちくしょー。

 同居人のスタイルの良さに劣等感を抱きながら、同時に見惚れながら、私はスニーカーを履いて玄関扉を開けた。


 ◆


 ミカンは街並みを歩きながら、外食の理由を嬉しそうに教えてくれた。

「この前林檎が寿司を買ってきてくれただろう。あれが思ってたよりも美味くて、なんか無性に食べたくなったんだ」

 だから回転寿司に行こうと、そういう訳らしい。そういえば回転寿司なんて久しく行ってないなぁと、最後に行った記憶を掘り起こす。……二年前か、うん。そりゃ久しぶりだ。割と近所にあるのに、一度も行っていなかったのが逆に不思議である。

 そんなことを考えてながら歩いていると、ふとミカンが車道側にいることに気が付く。車道側は危ないと思い、差し掛かった曲がり角で私が車道側に回った。

「……」

「……え?」

 不満そうな表情のミカンに腕を引っ張られ、私が戸惑っている間に立ち位置が再び入れ替わってしまった。

 車道側を歩きながら、満足そうに手を握ってくるミカン。しっかり繋がれたその手には、車道側は譲らないぞという意志が強くあらわれていた。

「……車道側危ないよ」

「だからだよ」

 ミカンは少し身をかがめ、私の顔を覗き込むようにして微笑んだ。

「林檎を守るのは、私の役目だからな。大人しく歩道側歩いてろ」

「はぁ彼氏かよ……ミカン大好き」

「私の方が好きだぞ」

「なんなのミカン、今日変だよ!? 尊死しちゃう!」

 熱くなった頬を空いている方の手で撫でながら、必死に平常心を保とうと試みる。ミカンはそんな私をからかうように笑っていた。

「もう……なんでそんなに好き好きオーラ出してくるの」

「寿司が楽しみで仕方なくてな」

「つまり……寿司寿司オーラ?」

「やっぱ林檎車道側歩け」

「ごめんなさい」

 繋いだミカンの手は温かかったけど、私の渾身のギャグには冷たかった。

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