君に酒の勢いで
一週間に一度の飲酒解禁日、それが金曜日だ。だからといって飲み過ぎたら意味がないのだが。
「かんぱーい!」
それでも、一週間我慢したビールは堪らなく美味しい。これで飲み過ぎるなというのは酷な話だ。ミカンの持ったグラスと缶をこつんと当てると、私は缶ビールを一気に呷り半分ほど飲んで、テーブルに勢いよく缶の底を叩き付けた。
「っはーこれの為に生きてるわー!!」
「林檎、すごくおっさん臭いぞ」
向かいに座っているミカンが苦笑しながらそう突っ込んでくる。ちなみにミカンが飲んでいるのはただの烏龍茶だ。ミカンは相変わらずお酒が苦手で、たまに一口だけと挑戦しているけど、やはり渋い顔で首を振ってしまう。
「ミカンが一緒に飲んでくれたら、おっさん嬉しいのになー」
「否定しろ。もう酔ったのか?」
やれやれと呆れながらクラッカーを口に運ぶミカン。お酒は飲めないけどおつまみの類は好物で、金曜には私に合わせておつまみを沢山買ってくる。ちなみに今日のラインナップはクラッカー、ビーフジャーキー、チー鱈にポテトチップスだ。これらをつまみながら、私たちは日付が変わるまで楽しく呑み明かすのだ。呑んでるの私だけだけど。
◆
「だーかーらー! 私はミカンに攻められてみたいの!」
何本目か分からない缶ビールを飲み干し、声を大にして訴えた。いつも我慢していたのだ。今日こそはと、私は酒の勢いに任せてミカンに詰め寄った。いつになく強気な私に、ミカンは狼狽えたように頬を朱に染めて俯いていた。組んだその両手がせわしなく動いている。私は立ち上がり、向かいの椅子―ミカンの隣に腰を下ろした。ミカンの筋肉質な腕に抱き着きながら、羞恥に満ちた顔を覗き込む。
「ねぇ、ダメ?」
「ダメ、ではないが……その……」
煮え切らないその返答に、私はミカンの腕を抱く力を強めた。
「なんで! ミカン美顔だし声も格好いいから、攻められたら絶対興奮するのに!」
「こ、興奮するとか、はっきり言うな!」
熱でもあるんじゃないかと疑うほど顔を真っ赤にして、ミカンは私の腕を振りほどいた。
私は攻めでも受けでも、相手がミカンならどっちでも構わない。だが、ミカンは頑なに受けを譲ろうとしない。受けが好きなのは一向に構わないが、たまには攻めてくれたっていいじゃないか。
「ねぇなんで攻めてくれないの!?」
肩をつかみ、ぐぐっと顔を近づける。恥ずかしそうに顔を背けながらも、ミカンはついに答えた。
「……だと、……から」
「え、何?」
「林檎が下だと、可愛すぎて止まらなくなりそうだから……」
その台詞で酔いは覚め、しかし私の欲情を駆り立てた。
「ベッド行こう」
「え、ちょ」
「ベッド行こう」
有無を言わせずに寝室へ引っ張り、ベッドに私は横たわる。腕を伸ばし、躊躇った様子のミカンを誘った。
「ミカン、来て」
とうとう観念したように溜息を吐いたミカンが、私に覆いかぶさってくる。その顔は赤く、ミカンも興奮しているのが見て取れた。
「……私も遠慮しないからな。後悔するなよ」
「ミカンにされるなら、いくらでも喜んで」
カーテンの隙間から差し込む淡い月光の中、私たちはいつもと逆の位置で身体を重ねた。
夜は、まだまだ長い。