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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第1章
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君と昼寝日和

 ベランダから青空を見上げるとお日様が眩しくて、私は思わず目を細めた。同時に柔らかな暖かさに眠気が刺激され、私は柵に腕を預けて瞼を閉じる。遠くから聞こえる踏切のリズム、雀の囀り、近隣住民の庭の花の香り、今まで意識していなかったそれらが、一気に身近に感じられた。

 やはり人間は五感のうちどれかを封じると、他の感覚が敏感になるんだなぁと実感する。まぁそうだよね、だから夜の営みも電気消すんだよね。

「おーい寝るなよ。早く取り込んでくれ」

「……はーい」

 部屋の中から声をかけられ、私は渋々瞼を開いた。何も急かさなくったっていいじゃんか。ミカンのせっかちー。

 ベランダに吊るされた洗濯物を回収し、籠に放り込んでいく。布巾、タオル、私の私服、仕事服、ミカンの私服、私の下着、ミカンの……。

「理不尽だよなぁ」

 ミカンのブラジャーを自分の胸に当て、その差に絶望する。この前もちょっとキツくなってきたとか言ってなかった? 私なんて中学生のころから成長してる気がしないんですけど!? どうして豊満の神は私に微笑んでくれないの!?

「何してんだ馬鹿!」

 後ろから叩かれてはっと我に返る。もう少しでこのブラを外に投げ捨てるところだった。後頭部をさすりながら他の洗濯物もすべて取り込み、それなりの重さの籠を抱えてリビングの中央へ運ぶ。ふぅと一息吐き、もう一度ベランダに戻る。次は布団類を取り込むのだ。バランスを崩して転ばないよう気を付けながら布団を抱きかかえ、リビングに運び込む。そして、倒れこむように取り込みたての羽毛布団にダイブした。

「あーお日様の匂いするー」

「……寝るなよ。もう昼ご飯できたから」

「ミカンもおいでよー」

「……炒飯が冷めるじゃないか」

 口では咎めながらも、結局私が伸ばした腕の中に身を委ねてくるミカン。胸元に埋められた灰色の髪の毛を撫で、私は目を瞑った。お日様の匂い、背に差すお日様の暖かさ、胸元の温もり。身の回りの要素すべてが、まるで私に昼寝を促しているようだ。まずい、このままでは本当に寝そうだ。

「ミカン、ご飯食べよ。……ミカン?」

 少し体をのけぞらしてミカンの顔を覗き込むと、そこには瞼を閉じて寝息を立てる美顔が。

(起こすのも悪いよね……)

 私はそっと腕の中の同居人を抱きしめ、その耳元で囁いた。


「おやすみ、ミカン」


 ◆


「林檎の馬鹿、炒飯冷めたじゃないか!」

「ミカンが爆睡しちゃうからでしょ!?」

「起こしてくれよ! 折角の炒飯が……」

 すっかり冷たくなった皿を前に、ミカンの尻尾が悲しそうに項垂れる。

「大丈夫だよ。ミカンの炒飯は冷めても美味しいから」

「そんな調子の良いこと言ってもチャラにならないからな」

「ちぇ」

 考えを見透かされ、私はわざとらしく拗ねたように唇を突き出した。 

「まったく……ふふ」

「えへへ」

 温めなおした炒飯はやっぱり美味しくて、二人で顔を見合わせて微笑むのであった。

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