君と買い物、君とお揃い
「……」
「どうした、そんなに凝視して」
私が換気扇の下で一服していると、何故か林檎が遠巻きにこちらを見つめてきた。じーーっと、何かを見定めるかのような目で。長い付き合いだが、今回は流石に何を考えてるのか読み取れない。仕方なく、私は煙草の火を灰皿で消してから林檎の脇を抜けてリビングの椅子に腰かける。後を追うように私の傍に寄ってきた林檎が、
「ミカン、ピアスとか開けないの?」
「と、唐突だな」
林檎曰く、黒ジャージと咥え煙草がこんなに似合うんだから、ピアスとかつけたら絶対格好いい。とのことだ。うーん、髪留めとか小物とか洒落たものは、人の姿になっても特に興味は抱かなかったな。でも、林檎に似合うと力説されて、少しばかり欲が出てしまった。
「じゃあ、林檎選んでくれるか?」
「うん!」
耳がばれないようにフードを被り、林檎と肩を並べて街並みを歩く。林檎の鼻歌を聴きながら、ふとカフェの窓ガラスに映った自分を見て気が付いた。
「私外出するときフードだから、ピアス見えないぞ……」
それに対し林檎は少し考えるそぶりを見せたあと、
「私が家で見れれば満足なんだけど……折角だし帽子も買お!」
と提案してくれたので、お言葉に甘えることにした。先に帽子を買ってしまおうと意気込む林檎に感謝の心と微笑ましさを感じながら、繋がれた手をぎゅっと握りしめる。それに反応して頬を緩める横顔が、堪らなく愛おしかった。
◆
「んー、これも似合いそうだし……あ、こっちも良い!」
あれこれと帽子を手に取り、それを私のもとへ持ってきては似合い不似合いを判断し、また戻っていく林檎。その様子がなんだか犬みたいで、くすりと笑みが零れる。狼女の私が何を言ってるんだか。
「ねーミカン、これ見て!」
興奮した様子で林檎が持ってきた帽子に目をやり、私の口からは無意識のうちに「おぉ」と漏れ出ていた。それは暗めの橙色の帽子―マリンキャップという種類―で、私自身、私に合いそうだと直感的に思った。流石は林檎だな。
その帽子の会計を済ませると、私は試着室で一旦フードを外し、買いたての帽子で耳を隠す。試着室を出た私を見て、林檎は満足げに頷いてくれた。鏡を見ると、私の表情も満ち足りていた。
「次はピアスだねー!」
「林檎はピアス開けないのか?」
「んー痛そうだから、私はいいかなぁ」
先ほどの衣料品店と同じ建物内のアクセサリーショップで、林檎は私のピアスを真剣に選びながらそう答えた。それならばと、私はミカンに提案する。
「林檎、イアリング買わないか」
「え、なんで?」
林檎は不思議そうに首をかしげた。少し照れくささを感じながらも、理由を答えた。
「林檎とお揃いで、何か付けたくて……」
自分でも顔が熱くなるのが分かる。そういう《《ガラ》》じゃないことは重々も承知だが、それでも、折角ならば林檎と同じものが身につけたかった。満面の笑みで賛成してくれた林檎と、どれにしようかと品定めをする。
買い物から帰って、リビングで戦利品を身に着けた。お互いの耳を飾る桜の形のアクセサリーに、自然と笑みが零れる。
「またお揃いで何か買おうね」
「あぁ、そうしよう」
顔を見合わせて、ふふふと笑いあう。桜が咲いたように、心が温かくなった。