君を私のものにしたくて
「鈴木さんて彼氏さんと同棲してるのかな」
「さぁ……でもよく電話してるよな。めっちゃ笑顔で」
「そういや前はコンビニ飯買って帰ってたけど、最近は買ってないよな」
「同棲相手が作ってくれるってこと? やっぱ今の時代は男も料理できなきゃか……?」
「くそ、料理勉強しようかな……。にしても料理してくれる彼氏とか……」
「そりゃあんだけ可愛ければなぇ……仕事はともかく」
「くそ、俺ひそかに狙ってたんだけどなぁ……仕事はともかく」
「にしても、鈴木さん料理できないのか……可愛いな」
そんな男性社員たちの戯言が耳に入り、私―新田苺はなんとなく鈴木さんに視線を向けた。いつも通り熱心に仕事に取り組んでいる。が、恐らく多くのミスをしているだろう。彼女はそういう子なのだ、残念ながら。
(でも、そうよね。真面目なことに変わりはないし、すごく可愛いし……)
彼らを含めた男性社員の数人は、彼女が入社した時から目をつけていただろう。かくいう私も、彼女を狙っているうちの一人ではあるのだけど……。
「あの、新田先輩。何か御用ですか?」
声を掛けられてふと我に返ると、私の後輩―鈴木林檎さんが私のデスクまでやってきていた。しまった、と反省する。
「いえ、別に用があった訳じゃ……今日も鈴木さんは熱心だなぁって」
「あ、ありがとうございます! このまま皆さんのお役に立って見せます!」
やる気は十二分なんだけどなぁ……。私は笑顔で自分のデスクに戻る彼女を見送り、再び仕事にとりかかる。
今年で二十五になる私は、今まで異性とお付き合いをしたことがない。《《異性とは》》。
初めて付き合ったのは高二の頃の同級生、同じクラスの女子生徒だ。大学進学を機に別れてしまったが、大学でも彼女はできた。この頃、私は自分がそういう人間であることに気が付いた。
その人と別れても、この会社に入社して、暫くして同期と交際を始めた。しかし彼女も異動が決まり、この関係は続けられないと別れた。そして、私が指導係として任命された新入社員の鈴木林檎さんに、今目をつけている。というか、心を奪われている。
決して嫌われてはいないし、むしろ好かれているだろう。気張った顔が多いが、私に向ける笑みはとても柔らかい。前に缶コーヒー奢ってあげたときなんか、子犬みたいな笑顔でお礼を言うもんだからつい理性を失いそうになった。
(そろそろ攻めてみようかな……)
彼女に同棲相手がいるかもしれないというのは、私も感づいていた。最近やけに早く帰るし、飲み会には参加しないし、よく電話してるし……。でも、彼氏と決まった訳じゃない。ただの友達かもしれない。もしかしたら兄弟姉妹かもしれない。可能性があるのならば、私は彼女と付き合いたかった。
昼休みになり食堂へ向かう鈴木さんを目で追い、私は少し遅れて席を立った。
「鈴木さん、今日呑み行かない?」