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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第4章
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君の愛が籠ったお弁当

「新田先輩、食堂行きましょ!」


 オフィスの壁にかけられた時計の針が12時を指すと、鈴木さんがランチバッグを片手にやってくる。これまで何度も頻繁にお昼に誘っていたらそれがすっかり習慣と化し、最近では鈴木さんの方から声をかけてくれることも多くなった。今では単に大事な後輩だけれども、こうして距離が縮まったことはこの上なく嬉しい。


「えぇ、行きましょうか」


 私は返事をしながら、鞄からランチバッグを取り出した。それを見て、鈴木さんが少し驚いたように目を丸くする。

 予想通りの反応に、私は思わずくすりと笑ってから「私も今日はお弁当なの」とランチバッグを掲げて微笑んだ。


 ◆


 食堂へと続く廊下を、鈴木さんと肩を並べて歩く。食堂が空いているか心配しながらも上機嫌で歩く鈴木さん。彼女の大人ながらも無邪気さの残る言動が、私の目を引く。もしかすると、そこが周りを魅了してやまない秘密の一つなのかもしれない。


「それにしても、先輩がお弁当って珍しいですね。先輩が作ったんですか?」


 不意にこちらに顔を向け、明るい笑顔で尋ねてくる。その眩さに思わず目を細めながら、私は少し照れくさく思いながらも正直に話した。


「実は……桃が作ってくれたの。あの子よくテレビとか雑誌に影響されるから、多分それね」

「え、そうなんですか!」


 鈴木さんは驚きつつも、困ったような嬉しいような不思議な表情を浮かべた。


「新田先輩と桃が仲良しなの、まだ不思議な感じですけど……なんか、凄く嬉しいです」


 職場の先輩と旧友が同居しているなんて、当人からしたら困惑や居心地悪さを感じてもおかしくないのだけれど、鈴木さんは真っ直ぐ私たちが良好な関係であることを喜んでくれているようだ。なんて良い子なのだろう。

 素直に「ありがとう」とお礼を言い、二人で微笑みあっているうちに、食堂へとたどり着いた。


 混んではいるものの、空席はいくつかあるのが見て取れる。向かい合った2席が空いてるのをいち早く見つけた鈴木さんがそこへ駆け寄り、席を確保してくれる。少し遅れて追いかけた私は鈴木さんの向かいに腰を下ろし、ランチバッグからお弁当箱を取り出した。

 私のは随分久しぶりに戸棚から引っ張り出したものに対し、鈴木さんのは普段から使っている可愛らしいお弁当箱だ。


「鈴木さんのお弁当は、相変わらず同居人さんが?」


 何ともなしに尋ねたが、すぐにしまったと後悔する。左手薬指に指輪を嵌めた彼女に対して"同居人さんが?"とわざわざ聞くのは、遠回しに結婚について触れるようなものではないだろうか。考えすぎかもしれないけれど、どうしても鈴木さん相手には心配性になってしまう。

 そんな私の心配を他所に、鈴木さんは一拍置いてから、柔らかく慈愛を含んだ微笑みで、私に真っ直ぐ向き直った。


「はい、今は――お嫁さん(・・・・)ですが」


 その言葉を聞いた私の頭には、一瞬強い後悔が過ぎる。


 が、すぐにそれは流れ去り、大事なことを正直に打ち明けてくれたその信頼が嬉しくて堪らず、思わず零れそうになる涙をなんとか押しとどめて、私はいつも通りの笑顔を作った。


「そう。お互い幸せ者ね」

「えへへ、はい!」




 さてお弁当を食べよう。そうして蓋を持ち上げた私は、対面の鈴木さんはおろか、周囲の数人がこちらを振り返る勢いで蓋を閉め直した。

 何かが、見えた気がした。

 いやいやまさか。被りを振りながらもう一度そっと開けると、そこには――


 桜でんぶのハートが広がり、その上に海苔文字で"LOVE"とでかでかと書かれていた。


 固まる私の手元をそっと覗き込んだ鈴木さんが、「あっ……」とやや気まずそうな声をあげる。そしてうろうろと目を泳がせた末、ややぎこちない微笑みで呟いた。


「えっと……幸せ者、ですね?」

「……ええ、本当に」


 私は照れくささと気まずさで頭を抱えながら、鈴木さんと昼食をよく一緒に食べることを桃に話したことは無かっただろうかと、必死に思い出そうとした。

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