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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第4章
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君の意外な好み

「あ"、あ"ー」

「声、まだちょっと掠れてるな」


 喉を抑えながら発声していると、ミカンが心配そうに覗き込んでくる。私はそんなミカンに「大丈夫だよ」と掠れた声で笑いかけた。

 いつもより掠れていてこんな低い声になっているのは、先日の鼻風邪が派生して、喉もやられてしまったのが原因だ。風邪自体は治ったので日常生活に支障はないものの、まだ流石に外出などは控えていた。


「もう少しすれば戻ると思う。ミカン、看病ありがとね」

「どういたしまして。林檎が良くなって何よりだよ」


 涼しい顔でそう答えるミカンだったが、私は見逃さない。ミカンの背後で、大きくゆらゆらと揺れている尻尾を。

 ミカンの尻尾が無意識に動くのは狼の頃の名残だろう。私はそれを見る度、幼い頃の私たちを思い出して胸の奥が温かくなる。今の尻尾の揺れ方は、甘えたい、構ってもらいたい時の合図だ。


「ふふ」

「どうした、林檎」


 ソファに座ったまま、私は思わず笑いをこぼしてしまう。昨日風邪で看病してもらっていたとはいえ、私からミカンに構うことはできなかった。それ故に、ミカンは私に甘えたがっているのだ。

 しかし素直にそれを言わないということは、病み上がりの私に気を遣っているのだろう。

 そんな優しい気遣いと、不器用な性格があまりに愛おしい。

 私は不思議そうにこちらを覗き込むミカンの腰に手を回し、ぐいと抱き寄せた。


「ちょ、うわ」


 唐突な私の行動に驚いたミカンは上擦った声を上げながらも、抵抗することなく私の膝上にストンと乗っかった。ぎゅっと背中に腕を回してミカンを抱きしめ、その肩に顔を寄せる。


「心配してくれてありがとね。でも、甘えたいときは素直に甘えていいんだよ」


 そう囁きながら、ミカンの少しクセのある髪の毛を優しく撫でる。

 反応がないのは甘えたを見抜かれた恥ずかしさからかと思っていたけれど……ちらとミカンの横顔を覗き見ると、頬がやたら赤く染まっているのに気がついた。


「ミカン?」

「ひぅっ……」


 ぴこぴこ反応していた耳に口を寄せて名前を呼ぶ。その瞬間、ミカンが変な声をあげて仰け反ってしまった。両手で狼の耳をぺたりと押さえ込み、真っ赤な顔で恥ずかしそうにこちらを見下ろしている。

 その反応から、私は察してしまった。「……へぇ」と笑みを浮かべると、やや抵抗するミカンを強引に抱きしめ直す。

 そして、もう一度耳元に口を近づけて――


「もしかして……この低い声、好き?」


 揶揄うように囁くと、分かりやすく身体を震わせ、顔を真っ赤に染めた。逃げようとするミカンを離さないよう、抱きしめる腕に力を入れる。

 ふぅん、そっか。ミカンは私の低い声が好きなのか。意外な好みの発覚に、揶揄いたくなる衝動が疼いてしまう。

 背筋に指を沿わせて焦らすように撫でながら、ミカンの欲求を誘うように耳元で囁く。


「ね、看病のお礼に、なんでもおねだりしていいよ」


 びくりと震えたミカンはもじもじと腰を揺らしながら、掻き消えるようなか細い声で呟いた。


「……耳元で、いっぱい好きって、言って欲しい」

「いつもより掠れてるし低いけど、いいの?」

「林檎の低い声、好き、だから……」


 その素直なおねだりに、私の口角は自然と上がる。「よく出来ました」と頬にキスをして、強くミカンを抱きしめてその耳に口を寄せた。


「ミカン、愛してるよ」


 息荒く肩を震わせながら興奮しているお嫁さん(ペット)を強く抱き締めて、私は愛を囁き続けた。

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