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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第4章
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君と並んで夜散歩

 壁にかかった時計の針の音が、やけにうるさく聞こえる。隣りではミカンがちいさく寝息を立てている。

 一方、私は真っ暗な寝室の天井をぼぅっと眺めていた。

 枕元にある充電中のスマホを手繰り寄せ、ロック画面の時刻を確認する。1:30……明日も休みだから良いけれど、この時間帯に全く眠くないというのも不安になってしまう。


「ん……」


 不意に、ミカンがムクリと起き上がった。


「ごめん、起こしちゃった?」

「んや……トイレだ……」


 寝ぼけた声でそう答えて、のそのそトイレへ向かうミカン。スマホの明かりで起こしてしまったかと思って焦ったが、違うならまぁいいか。

 そのままスマホを弄っていると、「眠れないのか?」とミカンが声をかけながら戻ってくる。


「そう、なんか寝付けなくてさぁ……」

「ふーん、そうか」


 ミカンは壁の時計に目を凝らすと、こちらに向き直って、にっと笑った。


「んじゃ、散歩でも行こうか」


 ◆


 パジャマから軽装に着替えた私たちは、肩を並べて夜空の下へ足を踏み出した。こんな時間だというのにちらほら歩いている人もいるし、車も普通に走っている。

 ミカンの提案で、街頭の多い大通りの方へ向かう。特に目的地はなく、少し身体を動かして眠気を誘おうという魂胆だ。


「ただ……そのパーカーはどうなの」

「いいだろ別に、帽子被るのはめんどくさいんだよ」


 不満そうに口を尖らせたミカンは、黒いパーカーのフードを深く被って耳を隠している。時間帯も相まって、傍から見れば不審者でしかないと思うのだけれど……。

 私がそう言うと、ミカンがそそくさと肩を寄せてきて手をぎゅっと握られる。


「林檎が一緒に居てくれれば大丈夫だよ」


 顔を覗き込みながら柔らかな笑みを向けてくるミカンに、思わず顔が熱くなる。可愛すぎて反則だ……。


 暫く宛もなく歩いていると、遠くにコンビニの明かりが見えた。

 コンビニといえば、と思いついた私はミカンにぐいと肩を押し付けて見上げる。


「ね、コンビニでアイス買ってもいい?」


 私の提案に「えー」と健康面を懸念して渋るミカンだったが、上目遣いでもう一押ししたら「……仕方ないな」と折れてくれた。相変わらずこのおねだりの仕方に弱いので、ついつい乱用してしまう。

 軽い罪悪感からミカンの腕に強く抱きついて歩いていると、漸くコンビニの前に着いた。


「私外で待ってるから、ついでに煙草も頼んだ」


 そう言って喫煙スペースへ向かうミカンに返事をして、私は自動扉をくぐった。アイスコーナーから目的のアイスを選んで掴み取り、さっさとレジへ向かう。

 待ってるミカンの元へ早く戻ろうとしたが、レジの店員さんがやたら馴れ馴れしく声をかけてきた。


「お姉さんどうしたんすか、こんな遅い時間に」

「いえ、別に……あと煙草の28番ください」

「28番すね、俺も煙草吸うんですよ〜。あ、外で吸って行きます? 夜吸う煙草って――」


 めちゃくちゃ話しかけてきて、応対の時間を引き伸ばされている。いい加減めんどくさくなってきた時、


「おい、早くしてくれ」


 低い声が後ろから聞こえてきて、振り返るとミカンが立っていた。


「あ、ミカン」


 私の呼び掛けには反応せず、鋭い目つきで店員さんを睨みつけている。当の店員さんはミカンに気がつくと、「あっ、失礼しゃした……」と小声で謝り、素早く会計を終わらせてくれた。

 ミカンは背丈もそこそこあるし、何より深夜に黒フード被って睨まれたらそりゃあ怖いよね……。申し訳ない気もするけど、それより助けてくれたミカンへの感謝だ。

 ミカンに手を引かれるようにしてコンビニを出ると、ぎゅうと強く抱きしめられた。


「はぁ、なんか時間かかってるなと思って……見に行って良かった」

「ふふ、助けてくれてありがとね」


 恐らく吸いかけの煙草を潰してまで来てくれたのだろう。パーカーには家を出た時にはなかった煙草の匂いが付いていた。

 少し戻ってくるのが遅かっただけでこんな心配してくれるとは、深夜だからというのもあるだろうけど、素直に嬉しい。

 周りに人目がないのを確認してから、背伸びをしてミカンの唇に短くキスをする。突然の口付けに顔を赤くして狼狽えるミカンに、私はレジ袋からチューブが2個繋がったアイスを取り出して、ミカンに差し出した。


「ほら、半分こしよ」


 コンビニの外壁に肩を並べてもたれ掛かり、私たちは半分こしたアイスに口をつける。

 学生の頃にもたまに休み時間に桃とアイスを分けっこていたことを思い出した。言ったら嫉妬されるから無闇に口にしないけれど。

 夜道を眺めながらアイスを食べていると、不意に隣でミカンがふふと笑った。


「どうしたの」

「いや、たまには良いな。こういうのも」


 そう言って、なんだか嬉しそうに遠くを見つめるミカン。普段コンビニ前で食べたりなんかしないから、新鮮なのだろう。ミカンが嬉しそうだと、私も胸がぎゅんと幸せで満たされる。


「また眠れない日はお散歩来ようね」

「だな。今度は私が会計するけど」


 私を見下ろして微笑むミカンに、私は笑い返して抱きついた。

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