君とぬくぬく日向ぼっこ
ジャー、カチャカチャ、カタン。
「〜〜〜♪」
食器を洗う音と、穏やかな鼻唄が台所から聴こえてくる。私はそれに耳を傾けながら、陽だまりの中で微睡んでいた。
キュッ、と水を止める音がして、台所からミカンが手を拭きながら戻ってくる。そして、
「ぉわ、な、何してるんだ……?」
窓際のフローリングに突っ伏している私を、困惑したように見下ろした。
怪訝な顔をしてるミカンに対して、私はフローリングをペチペチ叩いて「いいからここ座りなよ」と促す。ミカンは素直に私の傍に腰を下ろすと、窓から降り注ぐ日差しを全身に浴びて、暖かそうに目を細めた。
「あぁ、日向ぼっこしてたのか」
「そゆこと」
今日は天気がとても良い。窓の向こうに広がる空は適度に雲が散っていて、まるで絵本の中のお空のようだ。
日差しも適度に暖かく、日向ぼっこに最適である。
お昼ご飯を食べてお腹もいっぱいだし暖かいしで、私の瞼はすっかり重くなっていた。
うとうとしていたら、不意に頬を突かれた。顔をミカンの方に向けると、胡座をかいて太ももをぽんぽんと叩いている。
「ほら、ここ頭乗せな」
私はすっかり重くなった身体をなんとか起こすと、ミカンの膝の上に頭を乗せて再びごろんと寝転がった。高さもちょうど良く、ミカンの体温と匂いでリラクゼーション効果が増し増しだ。
おまけに髪の毛を優しく撫でられ、無意識のうちに口から「あぇぁ〜」と情けない声が漏れ出ていた。
「ふふ、なんだその声」
「安心感がやばいの……すぐ寝ちゃいそう……」
「いいぞ、このまま寝て」
口ではそう言いながらも、今度は頬を揉みしだいてくるミカン。
されるがままに揉まれていると、くすくすと愉快そうな笑い声が聞こえてくる。
「もう、寝かせたいのか寝かせたくないのか、どっちなの〜?」
私は寝返りを打ってミカンの手を振り解き、お腹あたりに顔をぐりぐりと擦り付ける。すると、両手でわしゃしゃと髪の毛を撫でくり回された。
「林檎が可愛すぎるから、構いたくなるんだよ」
「じゃあ私も構っちゃうからね!」
私は不意をついて身体を起こし、ミカンの肩を掴んで押し倒した。2人並んでごろんとフローリングに転がり、抱き合って顔を見合わせる。そして、お互い我慢の限界が達したように、大きな声で笑ってしまった。
「ふふ、びっくりするだろ!」
「ごめん、ごめんってぇ!」
ぎゅーと強く抱きしめられぐりぐりと頬擦りされる。くすぐったさから逃げるようにジタバタ抵抗するも、ミカンの腕の中からはついぞ逃れることはできなかった。
数分間そんな格闘を繰り広げた後、疲れた私たちは抱きつき合ったままひと息をついた。
身体を動かしたら余計に眠気が増したようで、大きな欠伸が出てしまう。ミカンは私を撫でながら、「可愛い欠伸だな」と愛おしそうな眼差しで微笑んでくれた。
「このまま一緒に昼寝しようか」
「うん……もうイタズラしない?」
その問いかけには、「どうかな」と含みのある笑顔で返される。
「もう……」
「冗談だ、もうしないって。好きな人にはイタズラしたくなるの、分かるだろ」
そんな言い回しをされ、思わず顔が赤くなってしまう。普段は照れ屋なくせに、たまにこうして急に甘い言葉で唆してくるから、心臓に悪い。
でも、お互い素直に愛を伝えたらきちんとその分伝え返すのが、私たちの暗黙のルールだ。
「ミカン、大好き」
「ん、私も大好きだ」
「えへへ、嬉しい……」
もう眠気が限界だ。瞼が開けていられない。
狭まりゆく視界の中、最後に映ったのは愛おしいお嫁さんの微笑みだった。
「おやすみ、林檎」
愛おしい声が耳に溶け込んで、私は幸せな気分のまま、意識を手放した。