ジンジャーと旅立ちの日
それから2年の歳月が流れた、ある日
「それでは行って参りますにゃ」
亡き母の遺品として引き継いだ灰色のマントを肩からはおり、魔女から貰ったエストック、銘はジンジャー自身が名付けた愛剣「猫魂」(魔女には大笑いされた)を腰に下げてジンジャーはうやうやしく皆に頭を下げる。
「にゃにゃ、道中くれぐれも気をつけるにゃ」
「寝る時にはお腹冷やさないようにするにゃ」
「むやみに人の家の柱で爪を研いじゃダメにゃよ」
「拾い食いする前には、腐ってないかちゃんと匂いを嗅いで確認するにゃ」
兄弟達からの見送りの言葉に一つ一つ頷き返しつつ、ジンジャーは魔女へと向き直る。
「ご主人様…いえ、西の魔女様。あなたから受けたご恩は、ジンジャー生涯忘れる事はありませんにゃ」
「畏まってなんだい、堅っ苦しい」
苦笑いしながら魔女は手をひらひらと振るが、ジンジャーのひどく真剣な眼差しにその手を止めて、少し戸惑いつつもジンジャーを見つめ返す。
「主従の関係で無くなったからこそ、僭越を承知で申せますにゃ。あなたは沢山の幸せを私にくれた大切な方。暖かくて優しい匂いがする、この世で最初に私を抱きしめて祝福してくれた方。あなたは私にとって主人であり、師であり、家族でありました」
「西の魔女様…ジンジャーはそんなあなたの事が大好きです、にゃ」
「……ばかものが、さっさと行きな」
「はい、どうかお元気で。それではジンジャー・ビスケット、これより騎士になるべく旅立ちますにゃ。いざさらば、ですにゃっ」
マントを翻し、振り返る事なく前を見つめて真っ直ぐ歩き出すジンジャー。
ここから彼が騎士となる為の長い旅が始まる。