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ジンジャーと白銀の騎士 その4





それから1年程たって、魔女が見慣れぬ男達に連れられて帰ってきた。


「…すまない、守ってやる事が出来なかったよ」


ひどくやつれた姿の彼女は一言だけ呟き、それ以上なにも話さず自室に閉じこもってしまった。


姿の見えない母親と、閉じこもったきり出てくる気配のない魔女。

ジンジャー達はどうしたらいいかわからず、ただオロオロするばかりだった。


それを見かねたのか、魔女を連れてきた一人の男がジンジャー達になにがあったかを話してくれた。

彼らは王に仕える者達らしく、王直々に魔女を送り届ける命を受けてここまできたらしい。


自身も戦場に出たというその男は、酷くつらそうに眉をしかめながら当時の事を語ってくれた。


「全ての人々…国土を守るべく立ち上がった戦士達も、3人の魔女様とその使い魔達も、そして王御自身もが、誰もが傷を受け敵の血に染まりながら戦うような、そんな壮絶な戦いだった」


「その戦いの中で君達の母上は西の魔女様を守って力尽き、魔女様もまた大きな傷を負われたんだ。

それで王は我々に御命じになられたんだ、傷つかれた西の魔女様を無事に送り届けるように、と。

…散っていった仲間達は皆勇敢だった…もちろん君達のお母さんも、ね」


「そういった勇敢な人達のおかげで、北の魔女と、魔女が率いる異形の者達をなんとか退ける事が出来たんだ。

敗れた北の魔女は大陸北端のエリゴア半島へと逃げ戻り、そこでかの白銀の騎士オルランド殿と相打ちになったそうだ。

まだ北壁の向こうには異形の者達がはびこっているが…大丈夫、すぐに壁を越えてやつらも倒してみせるさ。」


だからすぐに平和になるよ、心配ない、そう言って男はジンジャー達を気遣うようにそっと撫でてくれた。


「母上…オルランド殿…」


話を聞いてもまだ、ジンジャーには大切な人達がいなくなるという事がうまく実感できなかった。

いくら考えてみても思考はすぐにどこかへ散ってしまい、悲しいのか、辛いのか、よくわからない気持ちにしかならなかった。


ふと気付くとじっと母の居た寝床を眺めていたり、オルランドと出合った泉の前に佇んでいたりする事もしばしばあった。


しばらくの間ジンジャーは、ただぼんやりと寂しい気持ちのまま、所在なく過ごしていた。



男達が去ってからも、しばらく魔女は部屋から出てくる事はなかった。

心配したジンジャー達が扉をカリカリ引っかいてみても、なんの反応もない。


どうしたら良いか分からなくなってしまった兄弟達は、皆で集まって相談する事にした。


「…誇り高き西の魔女の使い魔たる我々が、ただ悲しみオロオロするだけで何もしない駄猫と成り下がるのは許されざる事にゃ。

それは我々の母上にも申し訳がたたない事にゃ。…今は悲しみをおさえ、使い魔としての日々の仕事を果たしながら魔女様が出て来られるのを待つのみ、にゃ」


言葉とは裏腹に、ひどく辛そうに目を落としながら一番上の兄猫が兄弟達に言った。


兄弟達は頷き合うと、それぞれの仕事へと戻って行く。ジンジャーもまた神妙に頷くと、自分に与えられた仕事へと取り掛かるのだった。



そうして数日程たったある日、魔女が部屋から出てきた。


車輪の付いた不思議な椅子に座ったまま、その車輪を慣れない手つきで回しながらジンジャー達の前にやってきた。


「みんな、心配をかけてしまってすまなかったね。…あんた達の母親の事も既に聞き及んでいると思うが、これからはあんた達が全ての事を切り盛りしていかなければならない」


「…見ての通り私は足を悪くしてしまってね、今まで以上に色々と手伝って貰う事になるかと思うが、どうかよろしく頼むよ」


そう言うと、魔女は一匹一匹を順番に呼び寄せて、膝の上で慈しむようにゆっくりと撫でていった。





そうしてジンジャーが使い魔として忙しく過ごしていたある日、魔女はジンジャーを自分の部屋に呼び寄せた。


「兄弟達から聞いたんだが、ジンジャー、あんた騎士になりたいんだって?」


ドキリとし、ジンジャーの尻尾がぴんと立つ。と間も無くその尻尾がしおしおと垂れ下がっていく。


「…はいですにゃ。そう思っていた事がありました。ご主人様と母上が命がけで戦っておられる時、私はなにも知らず、使い魔の仕事をおろそかにして自分の我侭にかまけておりましたのにゃ。恥ずべき事ですにゃ、痴れ事ですにゃ。私はそんな愚かな自分を今、心から恥じておりますにゃ…」


魔女はそんなジンジャーの姿をじっと見つめた後、大きくため息をつく。


「はあ…まったく変な気を回して、ばかものが。騎士になりたいだって?いいじゃないか、面白い。

あんたは確かに魔女である私の使い魔として産まれた。だけどね、あんたまで生まれや与えられた身分で自分の生き方を縛る必要はないんだよ」


「あんたの兄弟達が言っていたよ。もしジンジャーが今も本気で騎士になりたいと思っているならば、その望みをかなえてやってもらえないだろうか、って

『その分使い魔としての仕事は、自分達が精一杯勤めますのにゃー』ってね」


最後に冗談めかして猫達の口調を真似ながら、微笑みつつ魔女は言った。



「もう一度だけ尋ねるよ、ジンジャー。あんたは騎士になりたいのかい?」



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