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ジンジャーと黒の騎士





やにわにエストックを引き抜き、全身の毛を逆立たせながら一気に騎士へと突っ込んで行くジンジャー。


走った勢いをそのまま乗せて、横合いから両手に持ち直した剣を騎士の腕めがけて突き出した。


騎士はジンジャーに視線を向けないまま、わずかに腕を畳み剣の鍔でその突きを受け流す。


ジンジャーは流されたまま駆け抜け、ジェットの横に立つ。


「怪我の程度は?ネリは無事にゃ?」


「動けはするが、腕をやられた。ネリは下がらせてある」


「時間かせぐにゃ。ジンガ、ネリと町の外へ。ジンガが外まで案内出来るそうにゃ」


ジェットは少しのあいだ悔しそうに目をつぶって考えた後、しぼりだすように答える。


「引き受けた、二人は必ず無事送り届ける・・・・・・すまん、武運を祈る」


「次会ったら一杯やるにゃ、またネリのおごりで」


そうだな、と小さく笑いながら答え、腕をおさえつつ下がるジェット。


ジンジャーは改めて騎士へと向かい直す。



兜の下に隠れて騎士の表情は見えないが、何故かじっとジンジャーの事を伺うような気配がある。


しかしその気配もすぐに消え、騎士はゆっくりと剣を上段に構える。


ジェットを退けた実力からして、早期の制圧はほぼ不可能。どころか勝てるかどうかもあやしい。


少しでも時間をかせいでネリ達から引き離す事を第一に。ジンジャーはそう判断する。


ジンジャーは両手でエストックを頭上にかかげ、剣の先を地面に向けて腰を落とす。


騎士が近づくにつれ、徐々に圧力が高まってくる。


夜の闇にまぎれた黒いおぼろげな騎士の輪郭を見つめていると、視点を定められずに意識が散逸してしまいそうになる。


重圧に負けてしゃにむに飛びかかりたくなる気持ちを押さえ、ジンジャーは半目でぼんやりと全体を見つめて心を落ち着かせる。


騎士が一歩近づき、圧が強まる。更にもう一歩近づき、いっそうと重苦しくなる。


かちり、と手甲のすれる音がした直後、猛烈な風圧と共に剣が振り下ろされる。


思考の外の反応だけで、ジンジャーはとっさに掲げたエストックの柄頭をずらし、騎士の剣を斜めに受けた。


斬る、というよりは叩き潰すような衝撃に意識が飛びかけるが、食いしばり衝撃を受け流す。


受け流されたされた剣が、破裂したかのような音を立てて地面にめり込む。


両手から伝わる激しい衝撃で頭がしびれ、視界がぼやける。ちらつく視界の端で、騎士がさらに一歩踏み込むのが見えた。


構えもなにもなく、かろうじて横に飛び退く。


地面ごともちあげられたかのような太刀筋が、数瞬前までジンジャーが居た空間を切り上げる。


空中で体をねじって着地し、数歩下がってなんとか構え直す。


ジンジャーは息の乱れを整えようと、意識してゆっくりと呼吸しつつ騎士に話しかける。


「・・・・・・剛剣、ですにゃ。相当な遣い手とお見受けしますが」


「・・・・・・・・・・・・」


騎士は何も答えず、再び上段に構えてこちらに近づいてくる。


じわり、と再び圧が徐々にせまってくる。


騎士の太刀筋を思いだし、背筋が寒くなる。


先ほどは感知などという大層な動きでもなく、ほとんど勘だった。またあれを受け流せるかどうか。


追いつめられる前に、こちらから流れを変えるべきか・・・・・・この考え自体が追いつめられた苦し紛れなのか。


思考がまとまらず、ジンジャーの剣先に迷いと焦りが出る。騎士はそんな一切に構わずこちらへと徐々に近づいてくる。


ともかく考える時間をかせぎたい。ジンジャーは構えをそのままに、すり足で後ろへと下がる。


騎士は歩みを早めるでもなく、変わらずジンジャーへと一歩ずつ近づく。


ジンジャーは決断を出来ないまま、ただじりじりと下がっていく。


とんと背中に当たる感触で、自分が壁際まで追いつめられていた事に気づく。


ぶわり、と全身に焦りが膨らんで広がる。


ジンジャーの焦りに反応したように、騎士が一足で間合いを詰める。


あわててエストックを先ほどと同じように構え直す。


ジンジャーが歯を食いしばり上段からの衝撃に備えた直後、騎士の剣先がわずかに動くのが見えた。


左の頬がちりちりする。ジンジャーはとっさに剣を左側へと移し、剣の腹に肩を入れる。


直後に全身を貫くような衝撃。


・・・・・・空飛んでるみたいだにゃ。激しく吹き飛ばされながら、なぜかジンジャーはそんな事を考えていた。


ジンジャーの体はそのまま壁に叩きつけられ、貧民街の薄壁を突き破って家の中の物をはじき飛ばし、家具にめり込むようにしてやっと止まる。


破られた壁の向こうで、騎士が佇んでいるのが見える。


騎士がこちらへと近づく気配がする。けれどももうジンジャーには手足の先ほども動かす力もなく、ただそれをぼんやりと眺めていた。


遠くから人々の声、怒声のようにも聞こえる。騎士が立ち止まり、そちらへと振り返る。


誰かが来たのか、何かが起きたのか。


まあ、もうどちらでもいいにゃ・・・・・・舌が回らないため声にはならず、心の中でつぶやく。


自分はやれる事はやった、もういいだろう。


ジンジャーは立ち上がる事を諦めて、ゆっくりと目を閉じる。


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