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ジンジャーとネズミの騎士 その3




ジェットに誘われるがままに、川沿いに置かれたベンチで酒盛りが始まる。


近くの仕出し屋で買ってきた塩漬けされた野菜と乾燥肉をあてに、香辛料のたっぷりと入ったワインをちびちびと飲みながらまったりするジンジャー。


一方のジェットは、自分の体よりも大きいチーズに豪快にかじり付きながら、両手で抱えたジョッキに顔を突っ込むようにしてエールを一気にあおる。


木陰にすえつけられたベンチは程よく日差しを遮り、時々そよいでくる川風が酔った体を冷ましてくれる。


そんな心地よい場所で、昼中に、酒とつまみとをそれぞれが気の向くままに食べつつ飲みつつ互いの話をする。


人としてはすごく駄目な感じがするが、猫とネズミな2匹はあまり気にせず堪能する。


「っかぁあ、うまいな!」


「うまいですにゃあ」


「っとそうだジンジャーよ、できれば敬語は無しにしてくれ。俺の事も呼び捨てで構わん。どうも丁寧に呼ばれるとむずむずしちまう」


わはははは、とヒゲを震わせてご機嫌に笑うジェット。


「ん、そうさせて貰うにゃ」


同じくご機嫌でほろ酔いのジンジャー。


「しかし、なんだな。おまえさんは随分真面目な騎士を目指してるんだなあ」


「ん、ジェットは違うのかにゃ?」


「あー、色々あって詳しくは話せないんだが……俺の場合はそうだな、もっと強い奴と戦ってみたいとかもっと色々な旨いものを食ってみたいとか、割とそんな理由の方が大きいな。

 もちろん騎士になる事自体も本気で目指してる。俺があこがれた奴のようになりたいからな」


「じゃあやっぱり私とそう変わらないにゃ。あこがれの人がいて、強くなりたくて、色んな事を知りたいから騎士を目指してるにゃ」


「そう言われりゃそうか、だいたい同じか!」


「だいたい同じにゃ」


ジェットとジンジャーは顔を見合わせて互いに笑いあう。




そんな風にとりとめもなく2匹が話していると、通りが急に騒がしくなる。


「ん、なんにゃ?」


ジンジャーが視線を前に向けると、一人の青年が大勢の男たちに追われながら走っているのが見えた。


同じくそちらを見たジェットが声をあげる。


「あ、やべえ忘れてた」


と、まるでその声が聞こえていたかのように、走っていた青年がこちらを凝視して叫ぶ。


「~~~!~~~~~!!」


「なにか必死に叫んでるようにゃけど…・・・」


「のんきに酒なんか飲んでないで助けろこのヤロウ、とかそんなんだろ」


「って知り合いにゃ!?」


「ああまあ、旅の途中で知り合った連れだ・・・・・・あ、こけた」


再び青年の方を見ると、勢いよくすっころび、膝を押さえて悶絶している青年の姿が見えた。


「ったくしょうがねえ奴だな・・・・・・」


そう言ってジェットはめんどくさそうにベンチから飛び降りるやいなや、腰に差したマチ針を引き抜いて一気に駆け出す。


そのまま勢いを止める事なく青年の横を駆け過ぎると、男達の一群へと迷うそぶりもなく飛び込んで行く。


悲鳴が上がり、追っていた男達の列が乱れる。


「なんだこいつ!」


「ってえ!刺された!?」


「わはははは!かかって来いよ、まだまだいくぜえ!」


なんだかんだ楽しそうに暴れているジェットを横目に、とりあえず青年の元に歩み寄り声を掛けるジンジャー。


「状況はさっぱりわからないけど、大丈夫かにゃ?」


「ふぬぐぉおお・・・・・・し、心配ありがとう大丈夫・・・・・・って猫?」


ごろごろ悶絶しつつも律儀に答える青年。


「はい、先ほどあっちで暴れてるジェットと知り合いになった猫、ジンジャー・ビスケットだにゃ。騎士を目指して旅をしてるのにゃ」


「え、最近の動物界隈では騎士になる事が流行ってるの」


怪我の事も忘れて思わず尋ねる青年。ハッとしてジェットの方を見る。


「そうだ、あいつまた一匹で突っ込んで!」


青年はジェットの元へ行こうと立ち上がるが、膝が痛むのかすぐにすっ転んでその場で悶絶する。


「ジェットの元へは私が行くので、とりあえずここでじっとしてるにゃ」


そう青年に言い添えると、エストックを鞘ごと帯から引き抜き男達へと駆け向かうジンジャー。


「こんどは猫かよ、なんなんだいったい!」


こちらを見てぎょっとする男達。その動揺を見逃さず、ジンジャーは乱戦の中へと飛び込む。


「おう、おまえも来たか!よっしゃ一気に行くぜ!!」


向かってきた男の肩へ容赦なくマチ針を突き立て、ジェットは歯をむき出しにして笑うと次の男へと飛びかかる。


横目でそれを眺めながら、ジンジャーは体を深く沈めて右手で鞘に入ったエストックを握り、目の前の男の膝元を横薙ぎに払う。


どうと倒れて悶える男を飛び越え、驚いてこちらに向きなおった別の男を突き倒す。


横合いから振り下ろされた剣を体をねじってかわし、左手でその男の顔を思い切り爪を立ててひっかく。


「くそっ、本当になんだってんだこれは。猫にネズミに、ふざけてんのかよ!」


焦ったように残された男が叫ぶが、ジンジャーに胸を突かれてその場にうずくまったまま動けなくなる。


「・・・・・・とりあえず、これで全員、かにゃ」


ほっと一息ついたジンジャーの元へ、マチ針を肩にかついだジェットが歩み寄る。


「やるなあ、おい!猫にしとくのがもったいないくらいだぜ」


なんてな、と豪快に笑いながらジンジャーへ拳をつき出す。


その拳へこつん、と肉球を合わせて答えるジンジャー。


「だいぶん騒がしくしてしまったし、早めにここを離れたほうが良さそうだにゃ」


「おう、たしかにそうだな」


ジェットはそう答えると青年の元へ歩み寄り、まだ転がっている青年の尻を思い切り蹴り上げる。


「ふぉあっ!?」


飛び上がる青年。だがまだ膝が痛むのか、すぐに顔をしかめてうずくまる。


「おい、さっさと行くぞ」


「いや無理、無理だから・・・・・・待ってお尻蹴らないでほんと無理なんだって!」


再び容赦なく蹴り上げようとするジェットに、必死に弁解する青年。


「・・・・・・とりあえず、肩かすにゃ」


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