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恋の予感

 話し合いもそこそこに。


「ねえ、斉藤」


「はい? なんでしょうか、お嬢様」


「あんた、結構いい顔してるわね。割りと、タイプよ?」


「……はい?」


 思ったことをそのまま口にするのが、私。相手はしかも慣れ親しんだ斉藤。気にする必要もなかった。


 ていうか、結構ずるくないかしら? 正直なところ。私はこの世界にやってきて、不安だった。誰も私のことを知っていない。大蓮寺鈴花という存在はもういないということが、証明されてしまったかのよう。


 そんな時に、自分の身近な相手がひょっこり現れた。運命的とも言える。



 ……誰だって、惚れるんじゃないの?



 まあ、私は『調教』したことはあっても、『恋』したことはないので、よくわからないけど。


「執事の時は、家族同然のような感じで空気つーか、ただの小間使いとしか思っていなかったけどさ」


「今もそれでよろしいかと」


「顔どころか全身変わっちゃって、受ける印象は段違いでしょ? それも、いいタイミングで現れてさ……どこの『王子様』よ」


「……えっと、いまいちよくわかりませんが」


「ま、すぐに答えは出さないし。あんたも出さなくていいわ」


「はあ……わかりました」


 こいつが、あの専称寺みたいに豹変しないとは言い切れないし。実はつるんでて、専称寺に裏切られて殺されたとかかもしれないじゃない?


 もしくは、あのクソ王子はやっぱり専称寺の生まれ変わりで、こいつら『グル』だったりとか……あぁ、もう! 考えたらキリがないじゃない!


 とにかく! そういう可能性もあるのだから、油断は禁物よ。男なんて信用出来ないわ。しばらくは観察処分。見極めてから、コクればって……なんで、私。斉藤に惚れてんのよ……。


 気づいてから、項垂れた。


 はー……予想以上の安堵感だったわけね。こいつの横にいることが。


 びっくりするぐらい、落ち着いてるもの。これが、吊り橋効果って奴かしら。わけわからないわ。


 ……今度、デートにでも誘うべきかしら。いやいや、早いわ。何、焦ってんの私。というか、まてまて。惚れてる部分は否定しなくていいわけ?


 頭をかきむしる私。ああもう、どうにでもなれ。


 そもそも、男とマトモにデートなんてしたことないわね。練習しないと……誰か、ちょうどいい奴……あのクソ王子。私に気がある感じだったわね、そういえば。


 普通、あそこまで言った私を好意的に思うバカはいないのだけど、あの態度といい……天然のバカか、私に気があるとみた。


 あいつで実験すればいいか。ついでに、あいつが本当に『専称寺』の奴じゃないか、確かめてやらないと。


 そうだ、そうしよう。決定。よし、基本方針は決まったわね。そういうことで、一つ。


 私が一人で悶々としている間も、斉藤は文句の一つも言わずに、立ち止まっていた。時折、私の様子を見ながら。


 よく見ると、いつもの定位置にいる。私のやや後ろで。左側に立っていた。従者の取る行動だ。主より、前に立たない。染み付いてんのかしら?


 たしかに、私は斉藤を斉藤としてしか扱わないとは言ったけど、別にそっちが同じような態度を取らなくてもいいのに。


「ねえ、斉藤……」


「なんでしょうか、お嬢様」


「……やっぱり、なんでもないわ」


「そうですか」


「……行くわよ。そろそろ休み時間、終わるでしょ」


「はい」


 そうして、私と斉藤の再開と立ち話は終了した。


 ◆ ◇ ◆


 授業も終わり、寮へと帰る私達。達ってことは、当然あの二人も一緒ってこと。ベルとキサラね。


「終わり、終わりー。っだー、やっと終わったー。まったく、授業は退屈でしょうがねえよなぁ、アーミット」


「別に。私としてはむしろ新鮮ね。魔法関係とか、ここの地理が知れて」


「……アーミットは、魔法が使えないのか?」


「えぇ。使えないわよ」


「え、マジ? 珍しいなぁ……みんな、『マナ』の恩恵を受けているのに」


 マナ……魔力の源。生命の源ともされる。根源。ここの住民は、その世界樹の恩恵を受けている。マナがなくては、生活出来ないし、生きていけない。生命活動にも重要な役割を持つ。


 その力をうまく活用したのが、『魔法』。自身のマナを魔力に変換して、さらに再構築する……生み出される魔法の数は無限大とも言われているとか。個人によって使える魔法は当然異なる。


 ……長々と説明的になったけど、要するに私にはそのマナがない。理由は明確だろう。私が『大蓮寺鈴花』だからだ。


 地球育ちの私は生まれ変わってもマナを必要としなかったらしい。おかげで『魔法』なんてものは使えない。これは、実技試験などで大きくマイナス評価になるらしい。


 魔法は一種の『ステータス』なのだ。どんな魔法が使えるのか。魔力の高さは? 強さは。気高さは。進学、就職でも大きく評価されるらしい。


 貴族の嗜みでもある。魔法を使って優雅な演奏や、妖精たちの踊り……演出。様々な用途に使われる。


 魔法がロクに使えない者の末路はいうまでもない。力仕事が大半だ。畑仕事とか。場合によっては、奴隷扱いとされることもあるとか。


 ひどい話だ。魔法だけで優劣を決められる社会。まあ、私のいた現代でも学歴社会だから、それが魔法にすり替わっただけの話か。


 さて、魔法が使えない者はいるっちゃいるので、構わないが、マナがないなんてことは口が裂けても言えない。なかったら、生きていけないのだし、ここの連中は。


「まあ、特に不便に感じたこともないし。気にしてないわよ」


「そうか。アーミットがそう思うなら、そうなのだろう。私も別に気にはしない」


「そーだな。人には不向きなものもあるってことよ」


 この二人はそれなりの地位にいる貴族の家系だというのに、平民で魔法も使えない私を差別扱いしないのが、不思議だった。


 ま、裕福な家庭は心に余裕があるってことかしらね……そうともいえないか。学園の大半は私を好意的にはみてないし。朝からあの騒ぎようだし。


 この二人が特別なのだろう。例外的というべきか。


 要するに私は、ひどく幸運な立ち位置にいるってことだ。生まれ変わったのが、奴隷だったらと思うと。そら恐ろしい。


「どーした、アーミット?」


「……いえ、なんでもないわ。行きましょう」


 私達は、寮の廊下を歩いている。ちらほら、男子の姿が見受けられる。そう、ここが普通の寮とは違うところだ。


 普通は、男女禁制というか。男は女のいる寮にはいけないし、女もそう。それが普通の寮生活なのだが……ここは違う。男子も女子もごちゃまぜなのだ。


 何故なら、この学園の目的は王子様とお姫様の花嫁、花婿探しがメインなのだから。その妨げになるようなシステムは作らないってこと。


 よって、すぐ隣の部屋が男子の部屋だったりすることもしばしば。


 うるさくてしょうがないが、あっちから見ればこっちもうるさいのだとか。仕方のないことかしらね。


 エルフッド……斉藤の部屋ってどこかしら。聞いておけばよかったわね。もう少し詳しく、色んな話を聞きたいと思うし。


 ……好きとか嫌いとか、そういう感情は別の話よ。


 そんな話はさておき。そろそろ私達の部屋を差し掛かる。


 階段を上がって……しばらく歩くと。


「……」


 そこには、あのクソ王子が立っていた。


「やあ」


「……何の用かしら?」


「冷たいなぁ……よかったら、この後。外に食事でも行かないかい?」


 正直、部屋で着替えて休憩したかったのに。でも、丁度いいわ。


「いいわ。私もあんたと『デート』しようと思っていたところよ」


 ビシィっと、相手に指を指しながら。


「わお」


 キサラが言う。


「……アーミット、その発言ははしたないな少々」


「本当かい? 楽しみだね」


「……」


 言ってから、後悔した。

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