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王子様との出会い

 突然の出来事の連続で、私は何がなんだか、よくわかりません。『王子様』ですって? 聞き間違いかしら?


「……どういうことなんですの?」


「はぁ……だから、今日はシュヴァルツ王室に招かれる日だろ。『王子様』の婚約会場に。平民の中からも、何名か選出されるって話になって、その中にお前が選ばれたんじゃないか。忘れたのかよ」


 まったく、意味がわからない。とはいえ、嘘を言っているようにも……犯人の一味にしては、どうにもバカっぽいというか。的外れというか。


「お、虫だ」


「へ!? 虫!? ど、どこですの!」


「お前の顔のとこ」


「き、きゃあああああああ! む、虫ぃいいいい!」


「何を騒いでいるんだよ、虫ぐらいで。平気だったろ、お前」


「そ、そんなわけありませんわ! は、早く取って……」


「へいへい。もう、『お姫様』気取りってわけね……その、妙な喋り方といい。徹底してんなー」


「い、いいから。早く!」


「ひょいっと。取れたぜ」


「うぅ……頬に変な感触が。か、鏡はありませんの?」


「鏡ならそこにあるだろ」


 そういって、男は指をさす。私はそこに置いてあった手鏡で自分の顔を見る。


「……え?」


 そこに映っていたのは……私ではなかった。


「何、これ……どういうことですか」


「どうって、何が?」


「何がじゃありません! この顔です! いえ、鏡がおかしいのでしょう! なんですかこれは! おもちゃですか!」


「何いってんだよ、どう見てもただの鏡だ。お前なぁ、別に化粧とかしたって顔なんて、そうそう変わるもんじゃねーから。そのままでも十分可愛いから、安心しろよ」


「なっ……何を。そういうことでは……」


 何故か、照れてしまう。綺麗とはよく言われていたが、『可愛い』などと言われたことは、あまりありませんでしたから……。うう……じゃなくて!


 鏡が普通ですって! じゃあ、何よ。この顔は! 私ではありませんわよ!


 そういって、ぺたぺたと触る……触る。顔を。何度も。しかし、たしかにそれは……私の顔だった。


「もう、わけがわかりませんわ……」


 そういって、ベッドに倒れこむ。


「お、おい。大丈夫か? もう昼だしな。腹が減りすぎてるんだろ。さっさと飯食ってこいって。つーか、食わねーと片付けられねえから」


 ……こっちはそれどころではないというのに。無神経な男ですわね。


 けど……。


 ぐうぅと、お腹が鳴る。


「ぷっ」


 男の笑い。ムカつくわ。


「何を笑っているのですか」


「だって……なぁ? ぷっ……はははっ」


 あまりにも、無邪気な笑いに。思わず、こちらも笑みを浮かべてしまった。


「ふん……バカバカしいですわね。まったく。いいですわ。腹が減っては戦はできぬと、申しますし。まずは、食事に致しましょう。案内しなさい」


「へいへい、『お姫様』」


 私は案内されたテーブルにて、食事をすることに致しました。パンに、サラダ。シチュー。それに、ナッツ。ココナッツミルク。極普通の朝食だった。もう、お昼らしいけど。


 目の前にいる男の名は、クロウ。クロウ・アーミット。私と同じ学生らしい。ここは、シュヴァルツ王家が支配する城下町。その一角に佇む小さな一軒家、らしい。


 にわかには信じがたいことですが……自分のこの姿を見た後では、納得せざるを得ませんでしたわ。まさか、自分が自分ではない他人の体に入り込んでいるなんて、誰が想像出来ましょうか。いえ、実際はどういう構造になっているのかも、よくわかっておりませんが。


 食事をし始めたおかげか、頭も少しクリアになって来て……状況が飲み込めるようにはなって来ましたけど。


 ……ん。何? 頭が……うっ。いたっ……何かが、入り込んで……何? 知識が……溢れて。ああっ!


「お、おい。大丈夫か? 今日のお前、ちょっと様子がおかしいからよ」


「え、ええ。大丈夫ですわ……『お兄様』」


「なら、いいけどさ」


 私は、何を。口走ったのかしら。お兄様って……あぁ、わかる。思い出した。いえ、最初から記憶にある。私は……私は、カレン。カレン・アーミット。クロウ兄様の、妹。


 なんてことかしら。今、たった今。理解した。全て。この世界のことを。何もかも。恐らく、私の意識が表面に出てきたせいで、一時的に記憶が混乱していたのだわ。でも、それでもよくわからない。どうして、私は私じゃないのか。


 まさか、生まれ変わりだとでもいうの? これが? この姿が……でも、たしかに。この世界は、私のいた『世界』とは違う。迷い込んだわけじゃないなら、そういうことなのだけど……。理解しろっていう方が難しいわね。これは。


 気がついたら、別の世界で別人になっていました。なんて……。まるで、テレビアニメの世界じゃありませんか。私はあのようなものは、見ないのでよくわかりませんが……。


 なら、『生前』の私は、やはり……『死んで』しまったのでしょうか。他に、考えられませんわね。なら、この姿が私の生まれ変わりだということも、まだ納得は出来ます。出来ますが……どうして、『生前の記憶』が、蘇ってしまったのでしょう。それが、不思議でなりません。それも、100%。そっちが主軸になってしまっている。本来の私の喋り方などは、忘れてしまっている。クロウ兄様……いえ、クロウに言われるまで、わからなかったぐらいに。もうお兄様だなんて、呼べないわ。『大蓮寺鈴花』の地が強く出てしまっていますもの。兄というより、赤の他人の実感のが強いということですわ。


 困りましたわね。頭では理解していても、感覚がまったく違うというのは。


「俺も、姫様の婿選びの会場に足を運ぶことになってるから、一緒に王宮まで行くか」


「え、ええ。わかりましたわ、『クロウ』」


「あん? 本当に大丈夫か、お前。なんか、様子がおかしいぞ」


「そ、そろそろ『お兄様』なんて。恥ずかしくて呼べないということですわ!」


「あぁ……そういうこと。別に構わねーけど。そうかそうか。カレンも、いよいよ『反抗期』に入ったってことかねぇ……昔はお兄様と結婚するーとかいって、離れなかったのになぁ」


「……知りませんわ、そんなこと」


 本当に知らない。知っているけど、感覚的に知らないということ。知識はあるけど、経験していない感覚というのでしょうか。よくわかりませんが。完全に、『カレン』としての記憶は戻ったわけではないようですね。


 それにしても、私は本当に死んだのでしょうか。納得行きませんわね……あんな、最後。思い出しただけで腹が立ちますわ。あの男……専称寺の奴は、今頃何をしているのかしら。ほくそ笑んでいるに違いありませんわ。ああ、憎たらしい。次に目の前に現れたら、私が八つ裂きにして差し上げますのに。


 考えても仕方のないことですわね。私はもう『死んでしまった』のですから。それとも、悪い夢でも見ているのかしら。もしくは、走馬灯? でも……こんな、見知らぬ世界、ありえないわ。感覚もちゃんとあるし……。


「さて、食事は済んだか? さっさと行くぞ。お前のせいで、遅刻だ。王室に行くのに、遅れましたじゃ済まされねーからな」


「わ、わかりましたわ。今、支度をして来ます」


「おう」


 幸いにも、『カレン』としての記憶がある程度、戻ったことにより、この世界についてと、この家のこともわかるようになった。これは、大きいですわ。


 さっさと身支度をして、出かけませんと。


 しかし、『王子様』ですか。私には興味ありませんわね。自分より、上の身分の者を相手するのは、正直疲れますもの。慣れているとはいえ……。


 行けない。さっさと、準備しなくては。


 準備を終えた私は、兄のクロウと共に、ハインツェン城へと向かっていた。土地勘も、今ならなんとなく……わかる。知らないはずの町並みなのに、記憶には存在する。なんて、不思議な感覚なのだろう。


 写真で見たことがある風景。そんな感じでしょうか。


「よ、クロウ、カレン。今日も仲良さそうだな」


 突然、声をかけられる。誰だったかしら……ああ、道具屋のおじ様。えぇと……オーベルさん。だったかしら。


「あぁ、そうでもないよ」


「何言ってやがる。おう、これ持ってけよ」


 そういって、菓子折りを渡そうとするおじ様。


「悪い。今日は王室に用があるから、持ち込めないんだ」


「あぁ。そうか。そういえば、今日は王子様とお姫様の花嫁探しだったな」


「姫様の方は、婿だけどな……まあ、そういうこった。後でな、おっさん」


「お兄さんと呼べ!」


「はいはい。またな」


「賑やかな方ですわね」


「いつもあんなんだろ。少し走るぞ。遅れちまう」


「ちょっ……お待ちになって!」


 急に走りだすクロウ。その背中を必死に追う私。なんだか、走っているうちに、どうでもよくなって来ましたわね。ふふっ……。


 暗い私を、慰めようとしてくれたのかしら? まさかね。


 そんなこんなで、王室へとたどり着いた私達。すでに、かなりの人数でごった返していた。


「はい、そこ! 並んで! 順番ずつ! 招待状を提出して……はい、次!」


 受付の人が忙しなく動いていた。しかしまあ、随分と多いのね……遅れて来て正解だったのではないかしら?


「うげ、すげえ人だなぁ……」


「そうですわね……皆、そんなに『王子様』とやらがいいのかしら。それとも、玉の輿を狙っているのかしらね。はぁ……バカバカしい」


「なんか、今日のお前。らしくないな。昨日まであんなにはしゃいでたのに。いざとなると、物怖じしたか?」


「まさか。むしろ、慣れっこですわ。単純に王子になんか興味がな……」


 そこまで言って、気づいた。そうだった。私は『大蓮寺鈴花』であると同時に、『カレン』であることに。思い出そう……カレンは前日まで何を考えていた? 王子様にあって……素敵な出会いに感謝して……あわよくばって奴かしら。そうね。それを『演じ』なくてはならないのね。幸い、演じるのには、慣れているわ。兄の前ぐらいは、『カレン』でいてあげなくては、可哀想ね。


「あら、お兄様。私だって、緊張ぐらいします。今だって、心臓バクバク言ってるんだから。それどころじゃないのよ」


「あー、はいはい。そりゃわるーござんした。ったく、それじゃ俺はあっちの受付に行くから、後は一人で頑張れよ」


「はい」


 そういって、クロウは去っていった。……ふう。案外、疲れますわね。『妹』の役を演じるのは……。


 さて、『カレン』でいるのはここまで。王子とやらの前では、『大蓮寺鈴花』で行かせて頂きますわよ。ふふふ。


 案内された会場は、広く。大蓮寺グループの開催した式場と同じぐらいの広さだった。


 へえ……さすがは、王室ってところかしら。素敵なシャンデリアだこと。招待された数があまりに多い為か、会場内を王子が直接出回って、話をしていくシステムみたいね。


 たしかに、その方が楽でしょう。面接みたいに部屋で個別に会うのも、どうかと思いますし。よくある婚活パーティーの一人版みたいなものね。


 私は興味がないので、お菓子でもつまみながら、外の景色でも見ていようかしら。


 すると、すれ違い際にドレス姿の女性にぶつかってしまう。


「あっ……すみません」


「……この。平民風情が!」


 平手で私を叩こうとする女性。即座に私は相手の腕を掴む。……あの男にされたことが、こんなところで有効になるとはね。嫌になっちゃうわ。


「貴様! 離せ!」


「取り消しなさい。招待された以上、ここでは平民も貴族もないでしょう。いきなり、平手打ちをカマそうなんて、貴族が聞いて呆れるわ」


「な、なんですって!」


「なによ」


 なんか、スイッチが入ってしまいましたわ。それに、喋り方も……やはり、『カレン』とわたくしが入り交ざっているせいかしら。感情的になると……人格が。まあ、肉体はすでにわたしじゃないんだし、当然か。変わってしまっても、私は私でしょ。


 振り解こうとする相手の腕を強く掴む私。……拉致があかないわね。ギャラリーも増えて来たし……適当に謝って退散した方が得かしら?


 その時だった。私と相手の腕を掴んで、引き離したのは。


「失礼。揉め事はよくありませんよ。せっかくの綺麗な顔が台無しだ。レディに怒った顔は似合いませんよ」


 そう、にっこり微笑む男……こいつが例の『王子様』か。ん? どっかで見たような……は?


「あ、貴方……専称寺行人! どうしてここに!」


「? せん……しょうじ? はて、聞いたことのない名ですが。僕の名は、ユキト・シュヴァルツです。シュヴァルツ王家の第一王位継承者ですよ」


「は? 貴方、何を……」


 そこまで言って、気づいた。相手の身なりに。明らかに服装が他と違う……王族っぽい感じの貴族服。紋章付き。たしかに……王子、なのかもしれない。けど!


 顔が……こいつの顔が、そっくりなのだ。あの、専称寺行人と! 名前まで似ているじゃない。何よ、ユキトって。馬鹿にしてるの?


 いけない。感情的になると……カレンと入り混じっちゃう。すでにカレンと同化して来ているのか、話し方まで変わりつつあるし。……行けないわ。


「私は貴方を許しませんから。大体、貴方に興味もありません。それでは」


 そういって立ち去る私。


「……嫌われてしまったかな」


 まさか、この世界で。またあいつに会うなんて。思いもしなかったわ。なんて日なの。最悪よ!


 そういって、式場を後にする私。


 ◆ ◇ ◆


 後日。最終候補者の中に、私の名前があった。


「……なんで」


「おー、入ってるじゃん。やるなぁ、カレン。俺もなんとか入れたぜ。明日からは同じ学園に編入だな。ま、よろしく頼むわ」


 最終候補者は、王家が管轄している学園に編入し、そこで王子と一緒に学園生活を過ごして、最終的に王子がその中から一人を決める。らしい。


 お姫様もその学園にいるらしく、全寮制の男と女の共同学園生活が始まったのだった。


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