人生の終わり。
今日は楽しみにしていた週末。専称寺君が私の(お父様が)主催するパーティーに参加する日よ。あぁ、どんな一日になるのかしら。今から楽しみで仕方がないわ。
「鈴花。準備は出来ているのか?」
「はい、お父様。準備万端ですわ」
「そうか。なら、いい。今日は政界のお偉い方も大勢来る日だ。きちんとご挨拶しなさい」
「ええ、心得ておりますわ。お父様」
いつもは何も言ってこないお父様も、今日ばかりは念入りのようですわね。仕方ありませんか。私もお父様の顔を立ててあげませんと。
「お嬢様。そろそろご出発になりますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、行っていいわ。斉藤」
「それでは、向かわせて頂きます」
パーティー会場へと足を運ぶ私達。すでに会場は大勢の参加者達が詰めかけていた。大盛り上がりの様子。
「お、主役のご登場ですな。相変わらず、お綺麗ですな、お嬢さん。お母様にそっくりだ」
「お褒め頂き、光栄ですわ。それでは」
ふん、クソジジイが。私に馴れ馴れしくしないでほしいものですわね。こんな連中の相手を後、何人もしなくては行けないのかと思うと、うんざりしますわ。
そんなことより、専称寺君は来ていないのかしら?
私は辺りを見渡す。すると、そこには。
「あぁ、大蓮寺さん。今日はご招待してくれてありがとう。楽しみにしていたよ」
「ふふ、そうですか。しばらくは挨拶回りがありますので、お相手出来ませんが、もう少し致しましたら、二人っきりになれる場所をご用意致しますわ。楽しみになさって下さいな。おーほほほ」
「……楽しみにしているよ」
あら、少しトーンが低かった気がしましたが……気のせいでしょうか。まあ、いいわ。きっと、緊張しているのでしょう。このようなパーティー。恐らく始めてでしょうから。慣れるまでは仕方ありませんわね。
ふふふ……後でいっぱい、可愛がってあげますわ。いっぱいね……。
そうして、その後の私は各界の著名人と会話をし、大体の挨拶回りを終えたのだった。
「まったく、思ったよりも時間がかかってしまいましたわね。専称寺君が飽きていらっしゃらないといいのだけど……」
私は専称寺君を探していると、奥の隅っこの方で、何やら電話をしている専称寺君を見つけたのだった。
「……ええ、はい。では、手はず通りに」
「専称寺君? どうかしたのですか?」
「……いえ、なんでもありませんよ。大蓮寺さん。それより、用事はもう済まされたのですか?」
「ええ。ちょうど終わったところですわ。……二人っきりに、慣れる場所を用意してありますの。いらして下さるかしら?」
「勿論です」
「ふふ……いいわ。では、こちらへ……」
そういって、私は奥にあるゲストルームへと専称寺君を案内した。
「これは……」
「あら、驚いたかしら? 今から、貴方が何をされるか。もう、理解出来ているわよね?」
部屋にあったのは、鞭やら、ロープやら、ロウソクやら。いわゆる、拷問道具。ようするに、SMプレイをしようという話だ。もちろん、私がS。相手がM。興奮してきたわ……久々に燃えそうね。ああいう、いかにもな純粋系で私に付き従う感じの子を調教出来るって、ああ、なんて楽しいのかしら。ぞくぞくしちゃう。
さすがの彼も驚いているのか、一言も発せず、回りをうろうろとしていた。ふふ、可愛いわね……。
「へえ。これはこれは。丁度いいですね。ここなら、声を出しても、外には聞こえないんですか?」
「? ええ。そうですわ。防音になっておりますもの。ふふ、好きなだけ声をあらげても、構いませんのよ?」
「そうですか。安心しました。これで、心置きなく、貴方を『殺せます』」
「はい?」
瞬間、腕を掴まれて。拷問器具の台へと押し込まれ、鍵をかけられた。
「な、何をするのです! 私ではありません! 貴方がされる側です!」
「おやおや。この状況でまだそんなことを仰っているのですか。これだから、温室育ちのお嬢様は」
「何、を……」
どういうことなの? どうして、私が……え、さっき。なんて、言いました? 彼。
殺すとか……え。え、え? う、嘘……でしょ? 私が……ころされ。ひっ。う、嘘。嘘よ! そんなわけ……そんな。どうして。私が。何をしたっていうの! やめて! 殺さないで!
「別に、貴方に恨みはありませんよ。ただ、上からの『命令』でね」
「め、命令?」
「貴方の好きそうな役を『演じる』のは大変でしたよ。すぐ気が変わるお人ですから、『お嬢様』は」
「くっ……さ、斉藤! 誰か! 誰かいないのですか! この狼藉者を!」
「無駄ですよ。誰もいません。それに、この部屋は『防音』でしょう? 先ほど、貴方が教えてくれたではありませんか。くくく……」
「……な、なんで。この私が……貴方なんかに!」
「胸を一突きして、楽に殺してあげるつもりでしたが、ここなら、『プレイ』の最中に誤って死んだ。ということにも出来るでしょう。悪いですが、ご自身の趣味を呪うんですね。ハハハ」
「や、やめっ……誰か、だれかた……す……ぇ」
そういうと、彼は。専称寺は、私の首をロープで締め付けた。
「ぐ、ぐえっ……く、くるし……や……あ……」
「さようなら、大蓮寺さん」
「──あ」
あっという間だった。あっという間に、意識が遠退き……深い闇へと、飲み込まれていった。