ヨウヅキ route
「ねえ、ちょっといい?」
私はヨウヅキの部屋をたずねた。
「どうしました?」
「なんとなく……」
てっきり部屋で話すのかと思っていたらヨウヅキが部屋を出るといってロビーへやってきた。
「船から降りたいのですか?」
「そうじゃないけど、私みたいな一般人が軽々しくいたら場違いだなって」
今まで立場とかあんまり気にしたことなかったけど、今回の件で改めてそれを実感した。
「皆最初は一般人です。はじめから出来た局員はいません」
「そうだけど、ここあんまり女子いないし。私は事務や電子パネル操作なんて出来ないから仕方ないけど」
私は思っていたことをヨウヅキに話した。愚痴ばかりで面倒だと思われていることだろう。
「ならば貴女の友人になりうる人材を派遣させます」
「え、そんなことしなくていいよ!」
「ですが貴女に不便を強いるわけには……」
会ったばかりなのにヨウヅキはなんで、こんなに尽くしてくれるんだろう。
私に優しくしているわけじゃなくて彼の探すメシアだからなのはわかるけど過保護すぎる。
「聞いてくれてありがとう。だけど別にいいから気にしないで!」
「わかりました」
●
一晩経って皆はいつも通りになる。空元気だけど明るく振る舞っている。
「あれヨウヅキどうしたの?」
彼は電話機を持ってため息をついている。
「実家から見合いの話を度々もってこられて、そのお断りをしたら母にこっぴどく怒られまして」
「見合い?」
「お前、いいところのお坊っちゃまなんだな」
キンモクセイや夜垣さんが驚いている。
「名家の令嬢がどうだとか、しつこいんです」
「あーわかるわかる。見合い話ってうざいよなー」
ヴァイオレットさんはヨウヅキに同意した。
「そういえばアンタは金持ちだったね。見えないけど」
「そういうお前こそ我が儘ぼっちゃんに見えるけどなー」
夜垣さんはキンモクセイをからかう。
「べつに僕はそんなんじゃないよ」
「へー、まあ深くは聞かないさ」
意外、キンモクセイってお坊っちゃまじゃなかったんだ。
「でも美人なのになんで断ったの?」
マルトが見合いの写真画像を見て言った。
「おーもったいねー滅多にいない美人じゃねえか、なあヴァイオレット」
と夜垣さんは話をふった。
「美人か?わかんないな俺はチセイちゃん以外の人間はゴミだと思ってるからさ」
ヴァイオレットさんがこちらを見た。
「お前に聞いた俺がバカだった」
夜垣さんはこういう人がタイプなんだ。なんだかモヤモヤして彼を見ていると視線を感じた。
「どうかしたのヨウヅキ」
「いいえ」
「で、なんで断ったの?」
マルトが再び追求する。
「私には使命がありますから」
「使命?」
「メシアと共に敵を倒すことです」
またメシア、ヨウヅキは私を見ているようで見ていないのではないか。
「それだけなのか?」
夜垣は怪しむように笑みを浮かべている。
「ずっと前から好きな子とかがいるんじゃないか?」
とヴァイオレットが言う。
「敵を倒す使命があるってだけならべつに愛のない結婚をしてたって敵は倒しにいけるけど?」
マルトが核心をついた。
「それは……」
―――ドガガガ!!
何かとぶつかる衝撃、耳をつんざく音がした。
「大丈夫か?」
宇宙船が激しく揺れ、私は夜垣さんに抱き止められた。
●
「わっ私、様子見てくる!」
私は照れつつ彼から離れる。
「……」
「なんだ?」
ヨウヅキが夜垣に視線をやり、何も言わずにチセイを追いかけた。
「若いな」
「なんの話だ?」
さっきの揺れは小惑星とぶつかったことが原因だったらしい。
エンジニアの人が急いで船を修理している。
「あ、貴女がチセイさん?」
整備士の格好をした少女がこちらにやってきた。
「うん、そうだよ」
「私はリゼル、こう見えて整備士なんだ。年も近いだろうしよろしくね」
といって彼女は手を差し出した。
「よろしくリゼルちゃん」
私はクラスでも浮いてて、こんな風に声をかけられることがなかったから嬉しい。
「セイ様」
「あ、ヨウヅキどうかしたの?」
彼は何かいいたげにしている。
◆なんて言おう?
→〔どうかしたの?〕
〔……〕
「なんか話あるみたいだね?」
「あの、貴女は地球に大切な人は?」
そういえば私、祖父母になにも告げずに来てしまった。
「私のことをお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに連絡はどうしたらいいの?」
「サポーターから説明してあります。宇宙一周旅行ということで一年無料留学とか」
なんだかうさんくさいけど、それが一番最もらしいか。
「普通に海外留学でよくないかな?」
「帰った際、パスポート諸々の都合です。地球の人々は些細な事で驚きますから」
「ヨウヅキ達の宇宙にある星とどう違うの?」
「まず貴女方の宇宙には魔法の類いがありませんよね。それと地球では宇宙船技術が乏しく一般市民が他の星に行けないと聞きます」
「うん、そうだよ」
「我々の宇宙には貴女方の空気と同じように魔力あります。我々の星では転送装置があり、一般市民でも公共機関にてすぐに移動ができます」
「じゃあ宇宙船はなんであるの?」
「罪人は公共機関を渡ることがないので」
「魔法があるってきいたけど、じゃあヨウヅキは魔法使えるの?」
「私は禁止区域生まれの為、習わなかったので使えませんが……魔法学校にいる兄は使えます」
魔法学校が普通にあるなんて、すごく興味がわいた。
「なんかヨウヅキの生まれた世界は夢みたいなところだね」
魔法があって好きな場所に一瞬でいける装置まであるんだからすごい。
「夢みたいと言われましてもこれが普通なので」
「そっか」
「セイ様は魔法に興味があるのですか?」
「魔法使いとか小さい時にみんな憧れると思うけど」
そして大人には魔法はないと否定されるのだ。
「……そうなのですか?」
「ヨウヅキは魔法禁止ってどういうこと?」
「私の生まれた星はテラネスといって魔法主流の他の星とは一線を引き、魔法を禁じ科学技術を進めています。――魔力がシステムに異常を来すので惑星自体に魔力遮断装置が儲けられているんです」
魔法が使えないなら地球とあまり変わらないような気もする。
私達との違いは魔法があると知ってて使わないのか魔法がないから使えないかだ。
「じゃあ魔法より不便そうだね」
「個人的にはそうでもありません。見ているかぎり、マッチを擦れば火が出るのと変わりませんし」
ヨウヅキは魔法が嫌いというより、興味がないみたい。
「へえ……」
「貴女は星をめぐることに抵抗がないようですね」
ヨウヅキは普通の子ならもっと躊躇するか驚いたり喜んだりすると言いたいのだろう。
「だって皆の見た目は普通の人間だし」
よくある異星人の図と彼らの印象はすごく違う。クラゲとかハゲのあれとかなら怖いだろうけど、髪色がカラフルなだけで他はまったく同じだ。
「ああ……こちらの惑星における各星へ住み始めた人々、いわゆる原生民は地球に似たテラネスだと言われていますから」
「そうなんだ」
つまり地球人と裏表でよく似たテラネス星人が民の星へいって星に適応するために進化したってことみたいだ。
「理科みたいで面白いね、テラネスの他にはどんな星があるの?」
なんだか他の星もみてみたくなってきた。
「ではこの惑星マップを御覧ください」
ヨウヅキはタブレット端末を手渡してきた。
「意外と少ないね」
私達が見ている宇宙の星はたくさんあるが、人が住む星は大体50個しかないみたい。
「我々の世界は現在5000光年ですが、その間に大体が吸収合併のように淘汰されたようです」
「5000年!?」
私の世界ではまだ西暦2000年代なのにこっちは進んでる。
「気分転換に星を楽しむのはどうですか?」
観光オススメの場所は海のあるアクアルド星らしい。
「さすがにこんなリゾートで遊ぶのは……」
仲間が一人いなくなったって時に観光気分でいくのは気が引ける。
◆どこにいこうかな?
〔アクアルド〕
→〔テラネス〕
「じゃあテラネスにいきたいな。ヨウヅキが生まれた星ならきっといい所だよね!」
私がそう言うと彼は照れくさそうに目をそらした。
「では行きましょうか」
ヨウヅキは小型宇宙船のある場所に移動する。
「あ、皆に聞かなくてもいいの?」
他のメンバーにもどこに行きたいか意見を聞くものだと思うんだけど。
ヨウヅキは一瞬きょとりとし、その後成る程と呟く。
私が何を言いたかったかすぐ理解したみたいだ。
「休暇中ですから我々二人で行きましょう?」
◆二人きりといわれても。
→〔婚約者に悪いから〕
〔皆と行きたい〕
「でも二人でなんて婚約者さんに悪いよ」
会ったこともない彼のお見合い相手だから私が気にする事じゃないとは思うけど。
「以前言いましたよね婚約する方などいませんと……私がエスコートするのは嫌ですか?」
ヨウヅキが悲しそうな顔をしている。
「そんなことないよ!」
ヨウヅキの手を取り、目の前の宇宙船に近づく。
◆行ったほうがいいのかな?
→〔行く〕
〔行かない〕
「よいしょっと」
――私は小型の宇宙船に乗り込む。バスのような段差があって乗るのに一苦労。
「手を貸さずにすみません」
「別にいいよ」
ただヨウヅキのような紳士タイプなら手を引いてくれると思っていたから意外ではある。
「ではしっかりベルトをしめてください」
「うん」
操縦席のすぐ後ろに座り、発進するのを待った。
運転中だし特に彼にしたい話も浮かばないので黙っていよう。
「あともうすぐで……」
ヨウヅキが目的地に着きそうだといいかけ、急に揺れる。
「なっなに!?」
「この機体は……母さん!?」
スレスレの攻撃をしつつ近づいてくる宇宙船をヨウヅキは青ざめた顔で見る。
彼は脱兎のごとく、踵を返してステルスをする。
「転送装置があってよかったです」
「船も転送できるんだね」
彼の母親が追いかけてきたのは間違いなくお見合いの件だろう。
「というか、ここどこ?」
「惑星ドゥーブルフロマージェですね」
なんだか美味しそうな名前。
「なにか観光地は?」
「フランポーネ城と魔法学園があります」
◆どっちにいこうかな?
→〔魔法学園〕
〔フランポーネ城〕
「あの人に助けを求めるしかない……」
―――あの人って誰だろう。
「ここが魔法学園かー」
「通行許可も済みましたからいきましょう」
ヨウヅキは指紋認証みたいなパネルから指をはなした。
「へえ……」
学園へ入ると、白いブレザー制服の生徒たちがいた。
「私の世界だと魔法学園っていったら黒なんだけどなあ」
「ああ、そういうイメージだから学園長があえて白にしたそうですよ」
学園長はなんかの主人公ばりに革命を起こす系だと思う。
「すみません、ラウル=フォン・クラール・ハイロダルタンダ・バロビニアン・シュヴェアンヴァニウム・ヴォルディオンさんはいますか?」
―――それで一人の名前だったんだ。
「んな名前なげーやつむしろ誰だよ」
「あいつだよランク論外位とかいう」
教師のほとんどが違う単色の長いマントを着ていていかにも魔法学園。
「あーあの問題児くんか!」
「アンタ身内なのかい?」
ヨウヅキの兄は有名人らしい。しかし普通は名前を聞いたらわかると思う。
「弟です」
「言われてみると顔似てるなー」
互いにうんうんと頷く一同。
というかヨウヅキは優等生タイプなのに兄ラウルは問題児なんだ。
「ラウルくんのことなら幼馴染のラヴィーナに聞くといいよ」
「ありがとうございました」
私はペコリと頭を下げてヨウヅキのすぐ右隣に並ぶ。
「すみません」
「はい?」
ヨウヅキは黒髪おかっぱの女生徒に声をかけた。
男子に女子の居場所を聞いても知っている確率が下がるからだろう。
「ラヴィーナさんという生徒を探しているんですが」
「あ、ラヴィーナさんならお友だちです。よかったら隣のクラスまで案内しましょうか?」
――そういえば異惑星で異宇宙なのに普通に会話が通じるんだけど、そこが不思議だなあ。
「すみませんラヴィーナさんいますか?」
「あ、ユキちゃん。ラヴィーナなら転校生のハキサレーラと学食いってるよ」
「ありがとう。またねアクアルナさん」
なんだか目的が変わってきているような。
「あれ、ラヴィーナさんいない?」
そんなパッと見ただけでわかるなんてすごいなあ。
「ねえヨウヅキ、ラウルなんとかお兄さんは結局どこにいるんだろう」
「さあ……」
「あ、ごめんなさい。私お弁当を渡したいので……」
よく見るとユキちゃんは二人分の弁当箱を持っていた。
「陽尽?」
黒髪でヨウヅキと髪型がかぶっていて、首に同じ黒いチョーカーをしている。
「兄さん!」
「ラウルくん!」
ラウルなんとかくんがこちらへ歩き、幸ちゃんが駆け寄る。二人は知り合いだったみたいだ。
「へーそんなベタな話があったのね~」
ようやく見つけたラヴィーナちゃんはピンク髪ツインテールなのでめちゃくちゃわかりやすい。
今は携帯型のゲームをポチポチしていてイケメンを狙い撃ちだとか攻略すると言っているが、イケメンを殺すなんて勿体ない。
「で、なんの用だ。オレに会いに来たら母親が怒るぞ」
ヨウヅキのお兄さんは母親なのに他人みたいな言い方をしている。
というかヨウヅキはヒツキという名前だったんだ。
「残念ながらもう激怒カムチャッカファイヤーアントなんです」
だから会いにきちゃったんでーす。
「はあ……オレにどうしろっていうんだよ。というかお前なにした」
「じつは……」
ヨウヅキは婚約者について、母親が怒ったまでを説明をする。
「つまり母親が用意した婚約者をお前がスルーしたからキレてるのか」
「そうです」
ヨウヅキは当事者なのにまるで他人事のように冷静だ。
「まあ、オレはお前等の仲に反対も賛成もねえよ」
ラウルは冷静にそういった。
「ねえ、唐突だけどチセイちゃんはどっちがタイプ?」
ラヴィーナというピンクツインテの勝ち気な子が問う。
◆どっちが好みかといえば?
〔ラウル〕
→〔ヨウヅキ〕
「お兄さんには悪いけどヨウヅキかな」
ラヴィーナに小声で返事する。
「そっか……」
二人は安心したように息をついた。
なるほど、二人はラウルの幼馴染みとクラスメイトで恋のライバルというやつなのね。
「いつまでも学園内に滞在するわけにいきませんし、何かいい方法はないでしょうか?」
ヨウヅキは兄の学校に迷惑をかけたくないのだろう。
「じゃあ私の星に逃げれば?」
「ああ、大体は物理の星だしな」
「武器の星マージンでアタタカイヌとか食べたり、マージルクスでパエリャ料理を食べたりできるわよ。どっちにする?」
◆どっちも美味しそうだなあ。
→〔マージルクス〕
〔マージン〕
「マージルクス星がいいな。パエリャはコスト的に滅多に食べられなさそうだし」
「たしかに、ソーセージを挟んだパンならディーツでも食べられますからね」
「なあ、チセイ」
「なに?」
「お前はあいつの事を好きなのか?」
「最近彼に勧誘されてまだ出会ったばかりだけど、仲間だと思ってる」
恋愛的な意味でなのか問われたら意味は違うだろうけど。
「ふーん」
ラウルは自分が聞いておいて興味なさそうにそっけないリアクションをする。
ラヴィーナの案内で移動ゲートを潜る。
“星ノ娘よ”
◆誰かが私をよんだ?
→〔スルーする〕
〔呼ばれた〕
いや、ただの空耳だろう。
マージルクスにいくと、急に取り囲まれた。
「プラネターのリーダー:ヨウヅキだな!?」
「私はプリンズ星の警部だが、貴様をクレマレナ=ランボルティーニ嬢暗殺の容疑で逮捕する!」
こっちでは警察も星規模なんだなあ。
「クレマレナって?」
「マージンの公爵令嬢で私の従姉にあたる……って、えっ!?」
ラヴィーナに聞くと、どうやら彼女の親戚らしい。
「どういうことですか?」
「お前はクレマレナ嬢の婚約者だろう」
「はあ、そういうことですか……」
ヨウヅキは悟ったようにため息をつく。
「なに、どういうこと?」
「これは多分、僕を貴族と結婚させたい母がどこかの組織と手を組んだか何かでしょう」
ヨウヅキは犯人扱いされているのに冷静だ。
「警部さん、私はマージルクスの貴族ラヴィーナよ。殺害されたのがクレマレナさんなら私の従姉にあたるわ。殺されたのはいつなの?」
「つい一時間前です」
ラヴィーナが私達に逃げろと魔法で出した炎で書いた。
ヨウヅキは私の腕を掴んで走った。