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マルト endA last


「いかないで!」


私はマルトの腕をつかんで引き留めた。


「……やっぱりチセイを泣かせらんない」



マスターはため息をついてさっさと逃げた。


彼は元々、マージルクス星のスラム生まれで、とある組織のトップの命令でプラネターに所属した。

トップが誰なのかは顔も知らないから話せないと言う。


「じゃああの告発、半分は嘘じゃなかったんだね?」

「うん、幻滅しただろ」


マルトが後ろめたそうに目を反らす。

私は彼の頬を両手でつかんでこちらを向かせた。


「そんなことないよ」

「あ、幻滅するほど俺を信じてないか」


言ってもいないことをネガティブに想像し、卑屈になられるのはさすがに腹が立つ。


「他の人がマルトの過去を許さなくても私はそれを咎めたりしないっていってんの!」


勢いあまってマルトを床に倒してしまった。


「……今が夜中でよかった」


夜だから廊下の明かりはうっすらとしか着いていない。


「変な誤解されたら困るしね」

「何をしている?」


暗闇にパッと顔が照らされた。


「い、いや……おばけっ!」

「私です」


“ヨウヅキかよ”と息を吐き呟くマルトの声が聞こえる。


「たまたま暗くてぶつかっただけなの、おやすみ!」

「そうですか……私は気にしませんが皆寝ているので気を付けてくださいね」


マルトも脱兎のごとく部屋へ戻った。


「……はあ」


そういえば何で私が外に出ようとしたとき、マルトがタイミングよく現れたんだろう。



「……はあ」


自室に戻り、ため息をつく。

毎夜のこと彼女を狙う者に遭遇しないように、チセイがうっかり夜中に外へ出ていないか確かめている。

初めは自分のかつての知り合いが絡んでいて、その責任と罪滅ぼしだった。

しかし最近ではそれを欠かすと安心できなくなっている。


「なんだよ、カッコ悪いな俺」


彼女を失うのを恐れている自分に気がつくのが怖い。



「おはよう」

「おはよ」


食堂へいくと何やらザワザワと、皆が私たちを見ていた。


「なにこの騒ぎ」

「やあ」


エレムさんがやってきて、事情を説明してくれた。

私たちが付き合っているのではないかという噂だ。


「で、付き合ってるのかな?」

「……はい?」


エレムさんまで期待しているような反応をする。


「俺はチセイを彼女にしたいけど、付き合ってはいないよ」


マルトが噂をきっぱりと否定するので、周りもやっぱり冗談だと騒ぎが静まる。


「夜中に二人を見かけたと話をしただけで、付き合うなど戯れ言は口にしていません」

「話の種にオヒレがついたんだよ」


そして噂を流したのは誰かと考えて、ヨウヅキしかいないと結論づけた。



「マルト、組織の呼び出しはどうするの?」

「正直に艦長に話す」


それは黙っていてもハレビレス艦長に不利、見抜けなかったと周りに揶揄されることは明白。


「申し訳ありません、投獄でもプリンズ送りでも構いません」


自分を信じ、逆に騙してしまい彼の権威を脅かす事にマルトが罪悪感を感じている。


「そうか、では今から私の命令を聞いてもらおう」

「はい」


マルトはハレビレス艦長に頭を下げたまま、これからする事の指示を受ける。


「……皆の前でお前が組織にいたと話せ」

「え?」



「緊急会議なんて珍しいな」


隊員が集められ、艦長による大々的な演説がスタートする。


「先日は貴族令嬢暗殺、密猟事件、スパイ疑惑、反プラネター組織が話題となったな」


皆が一斉にハレビレス艦長に注目し、私語など発する者は出ていない。


「過去に件の組織に入っていた者が一命名乗りをあげた」


マルトが壇上に上がり、ハレビレスの右側へ立つ。


「はい、俺です」


ザワザワという声が会場を占める。


「ええい!静かにせい!」


コエルが皆を黙らせようとするがあまり効果がない。


「静かに!!」


私は空撃ちして強制的に黙らせる。


「ハレビレス艦長、先の発言が本当であらば皆が貴方に疑念を抱くのは至極当然かと」


コエルの発言で早くも恐れていた方に向かう。


「ほう、理由を話せ」

「艦長はマルト隊員をスカウトし、直属のチームに入れましたな」


鬼の首をとったような下卑た顔で追求する。


「ああ」

「反プラネター上がりを見抜けないばかりか、今だ組織と繋がるスパイに情報を流されるとは……」


ハレビレスはまったく気にしていないようだ。


「これは隊員が艦長の信頼を欠いた未曾有の危機です少しは事の重大さを……!」


むしろコエルのほうが必死になっている。


「未曾有も何も、マルト隊員の素性は知っていた」


ハレビレスの発言に予想もしていなかったといわんばかりにコエルは沈黙。


「え……」


そしてマルトも隠蔽に自信があったようで、ハレビレスに見抜かれていた事に驚いている。


「ど、どういうことです」

「マルト隊員は自分が完全に組織を抜けたと思いながら、実際はプラネターのスパイに利用されていたと知らなかったようだ」


ハレビレス艦長はマルトをわざと直属の部下の一人として反プラネター達にわざと情報を流していたという。


「先日マルト隊員が密猟事件を解決した際のこと、共謀した犯人のうち前領主のほうがボロを出したのは反プラネター関係者しか知りえない事を知っていたからだ」


マルトがマージルクスの偽領主を捕まえた後にマキュス領主へ話した歳に犯人の詳細は隠した。

しかしマキュス領主は犯人をマージルクスの偽領主と断定した。


「あれ、でもそれは共謀していたからでは?」

「ロジン隊員の話ではタブレットを視てからガタガタ震えたり、挙動がおかしくなりしたので銃を向けたとある」


あれはマージルクス偽領主が捕まって不安になってらしい。

ロジンが銃を向けて怯えたんだと思い込んでいた。


「共謀していたのだから捕まったと報告するだろう」

「では誰が反プラネターの組織へ、捕まったその時に連絡するのだ?」


偽領主には通信器などなく、マルトではないと私がずっと視ていたからわかる。


「つまり、どういうことです……」

「マルトのいた組織が近くで彼を監視していたという事だ」


コエルは何も言えなくなっている。


「いま私を廃しても、出世など出きるわけがない……」


ハレビレス艦長は名指しせずに視線のみコエルへ向けて追い討ちをかけた。



演説が終わる前に、全ては組織の上層部に潜む裏切り者を炙り出す芝居だったという事で片付いた。


「私はマルト隊員に盗聴器や位置特定の類い着けていたが、それを本人には言っていない」

「え、マジで!?」


ハレビレス艦長の発言にマルトが咄嗟に盗聴器を探しだす。


「それは嘘だ」


というわりにまるで観ていたように詳しく語っていた。


「不思議な人だよね」

「うん」


結局マルトはプラネターを辞めるらしい。


「本当に行っちゃうのマルト」


彼はこれからどうするんだろう。


「これ以上は迷惑かけられないし」


マルトがいなくなるのは寂しい。


「私も連れてって!」

「ダメだよ、俺のやろうとしてる事はすっごく危険だから」


それならどうしてマルトがやろうとしているんだろう。


「危険なんでしょ、だったら尚更ついてく」

「お目付け役のヨウヅキ、なんとかしてよ」


マルトが私の背をぐいぐい押して彼へ預けようとする。


「私の役目はもう済んだらしい。さようなら、チセイさん。どうか幸せに……」

「ほら、彼もこういってるんだし……あれ?」


さっきまで誰がいたような気がしたけど、気のせいかな?


「わかったよ、じゃあキンモクセイ元気でね」

「うん……プラネターの隊員、一気に三人もいなくなるなんて最悪」


私とマルトと、キンモクセイやテラネーの他に隊員なんていたかな?


「ま、いっか」

「……絶対に俺の傍から離れないって約束してよ」


指切りしようと私が言うと、差し出されたマルトの右手には花の指輪がついていた。


「うん、約束!」



マルトがやろうとしているのは二分したマージルクスの改革。

一つは新マージルクス人種、機械生産で遺伝子的な親はいても家族はいない。

生まれた時に民は借金を背負っている。

税金を徴収しない代わりに福祉や年金が払われず一人一人が自分の食いぶちを死ぬまで稼ぐ制度。

怪我をしたら医療費が高い。


旧マージルクスは王家や貴族などの権力者で、かつて貧民を根絶やしにした。

住み家かが分かたれて、新旧の干渉はないが、旧マージルクスの領域では民を苦しめる恐怖政治が続いているらしい。


「マルトには親がいるんだよね?」

「うん、旧マージルクスの母とマキュス人の父と妹がいた」


マルトの母と父は敵対しあうマージルクスの女戦士とマキュスの学者だったらしい。


「夫婦仲はよかったんだけど、父が病で完全に寝たきりになってさ」


貧民街で暮らすようになると、件の横暴な惨劇に一家が襲われた。


「両親が目の前で死んで、俺は妹を連れて逃げた」


マルトが生活のために別の組織へ入った。


「だけど妹は地主に拐われて妾にされた」


自棄になり暴風雨嵐(ぼうふうらん)のマルドゥクという名で宇宙を10数年暴れまわりトップにまでなったそうだ。


「あれ、マルトって今何歳?」

「24くらいかな」


見た目は私より下っぽいのに、すごく年上だ。


「……あ、戦闘星民族は成長が遅いって漫画であったよね!」

「いや、俺の場合は姿がバレるとまずいから光線を浴びて小さくなってる」


――マルトの本来の姿はどんななのか気になるなあ。


「あのさ、雨宿りで入った家は俺の前に住んでたとこなんだ」

「そうだったんだ」


道理で手慣れた感じでタンスから服出したよね。もしかしたらあれは妹さんが着れなかったやつなのかな。


「チセイに着せた服って母さんが花嫁にって手縫いしたやつなんだよね」

「え……花嫁!?」


マルトが頬を赤くしながらこちらを見た。


「いつか、本物の指輪を左手にするからチセイもお揃いのしてくれる?」


それって、つまりは―――


「もちろん」



【ハッピー:散らない花】

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