マルト endY 飛び込む
マルトが落ちていき、私は海に飛び込んだ。
「……チセイ!」
――誰かが私を呼んでいる。
「……しっかりして!」
マルトが私の顔を覗き込み、必死で呼び掛けている。
「……けほっけほっ!」
飲んでしまった海水のようなものを吐き出す。
異界だから塩気がない真水だ。
「何で飛び込んだの?」
「マルトを助けようと思って、逆に助けられちゃったけど……」
たぶん彼が言いたいのは、私までプリンズと敵対してしまうという事。
「これから逃亡生活になる。地球に還れなくてもいいの?」
「地球に還るときはマルトに見送って貰いたいから」
仲間が一人でも欠けたら意味ない。
「仲間かぁ……」
「やっぱり私はお荷物だから嫌だよね」
「そうじゃなくて、普通は愛の逃避行とかさ」
マルトは顔を赤らめながらそっぽ向いた。
「あ、愛……!?」
こっちまで恥ずかしくなってくる。
「よっお二人さん」
バーのマスターが岩間から私達のいる砂浜まで降りてきた。
「……どうしよう!?」
「そう警戒すんなよ。これから一緒に働く仲間だろ」
マルトに問うと、ため息をつきながら説明してくれた。
「幻滅しただろ、逃げるなら今のうちだよ」
元々マルトは孤児育ちで、プラネターに入れたのは悪徳組織と手を組んでいるプラネター幹部のコネらしい。
「何に?」
「信じてくれたのに君を騙してた」
マルトは後ろめたそうに目をそらす。
「なにか事情があったんだよね?」
「……え」
マルトは好きで悪徳組織の仲間をしていたわけじゃないだろう。
「私、マルトと一緒にプリンズから逃げる!」
「セイ……」
マルトが私の手をとった。
■
「そろそろお腹空いたなあ。というか何時なの、時計は……」
「無いよ、好きな時間に起きて食べて寝ればいいんだからね」
マルト改めマフルートは真顔で言った。
「はい、あーんして」
辛いものが好きな彼らは食べないような甘めの特製料理だ。
「嫌だよ皆がみてるのに!」
彼はピックに刺したミートボールを食べさせようとしている。
「なによそれ、私達が見ていないとイチャイチャするってことなの!?」
「まあまあ、お堅いマフルートにもようやく春が来たんだろ」
チャラいプラネター時と違って、組織では男も女も寄り付かない冷血な幹部と言われているらしい。
「冷血幹部なのに二人の前ではマルトのときみたいなんだね」
「まあ、同郷だからね」
ちなみにバーのマスターはペテチド、ウェイトレスはアンドラという名前らしい。
「本気でこんな小娘を組織に入れるわけないわよね?」
「本気だけど」
「愛人ならまだしも……嫌だけど……」
「彼女はつい数週間前まで素人ながら、銃を使えるんだよ」
アンドラがガンを飛ばしながら品定めするように見てくる。
「やれやれ、いい加減マフルートのことは諦めろ」
「これはアタシと彼の問題なのーペテチドさんには関係ないでしょ!」
反抗期の娘と父親感がハンパない。
「今のうちに行こっか……」
「う、うん」
後が怖そうだなあと思いつつ逃げる。
■
「次の仕事はヨウヅキの管轄サルム領なんだ」
「へー」
たしかサルムはサニュとミューンの双方だったよね。
「そういえばマルトが統治してたマクス領はどうしたの?」
「さあ、ハレビレス艦長が引き継いだんじゃない?」
そういえばテラネーの管轄も彼亡き後にハレビレス艦長が引き継いだんだった。
「とりあえずヨウヅキには絶対に会いたくない」
「裏切って後ろめたいから?」
マフルートは首を横にふった。
「ヨウヅキは君にご執心だったから、会ったら投獄どころかその場でデッドエンドまっしぐらだね」
「いやだよ」
鉢合わせしないか心配で不安だ。
「そんな顔しないで」
マフルートがプニプニと頬を摘まんでくる。
「何年かかるかわからないけど俺がいつか君を地球に還すから」
言わないけど、貴方の言葉が嘘か本当かなんてどうでもいい。
「うん、信じてる」
――ここにいれば退屈しない毎日が待っている予感がするから。
【イン=モラル:怪物マーフト】




