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マルト route


「マルト、いる?」


私がドアをノックしてみたところ、自動で横にスライドされ彼の部屋に入れるようになった。


「どうしたの?」


マルトはベッドからおきあがり、棚に写真をおいてこちらを見た。


「特に用事ってわけじゃなくて」


彼は仲間内でも一番テラネーと仲がよかったとおもう。

よく話しているのを見たし、ヴァイオレット社長が来たときに、息のあったコンビネーションだった。


「わかった不安なんだね」


――違うとは言い切れないけど、マルトが心配だったからなんて面と向かっていうのは照れ臭い。


「うん、そうなんだ」


ひとまずはそうだといっておこう。



「あれ、その本……」


マルトの枕元に青無地でハードカバーの本がおいてある。

私が気になって指をさすと、マルトはそれを手にとった。


「これがどうかした?」

「タイトルが書いてないんだね」


知っているわけではなく、たんに珍しくてたずねた。


「これはアイツにもらったものなんだ。最初はロゴがあったみたいだけど直すうちに消えたらしい」

「へー」


アイツとはテラネーのことなんだろう。


「地球の言語だっていうから読めないかと思ってたら言葉は同じで驚いたな」

「マルトは地球人じゃないの?」


地球の言語、という表現は異国とかいうレベルじゃない。

そもそもマルト以外の彼等も地球の人じゃなくて別の宇宙だと思っていたから、そう驚きはない。


「あ、そろそろ寝ないと明日に響くよ。また明日」

「うん、おやすみ」


意外と早寝するタイプ……それとも、私が来て迷惑だったのから?


「セイ様」

「どうかしたの?」


マルトの部屋を出るとヨウヅキが神妙な面持ちで立っていた。


「仲間とはいえ男の部屋に行く事は容赦しかねます」


◆注意するヨウヅキの態度はまるでアレだ。


〔父親みたい〕

〔焼きもち?〕


――と思ったけれど、彼には言わないでおこう。


「特にマルトは交遊関係が広いので、男女問わずファンが多いのです」

「あーあんまり近づくとやっかみを受けるの?」


ヨウヅキはコクコク頷いた。


マルトに近づかないほうがいいと話を聞いて、私は考えた。


◆彼を避けるべきだろうか?


〔避ける〕

→〔関係ない〕


「別に普通にしてれば大丈夫じゃない?」


それに仲間になって一週間くらいになるけど、何もされていないし。


「……そうですね」


ヨウヅキはそれ以上何も言わなかった。



起きて皆のところへいくと、何やらザワザワと小声で会話する人が複数いてうるさかった。


「おはようございます」

「なんか騒がしいね」


食堂に入りヨウヅキにたずねるとキンモクセイがため息をつきながら口を開いた。


「今朝いきなりマルトにスパイ疑惑がかかってね。まあ取り調べも杞憂だったけど」

「スパイってどこの?」


スパイがいる噂とかも聞いていなかったから、あまりに唐突すぎて困惑する。


「さあね、とりあえずそのせいでマルトが今朝の噂の中心ってわけ」

「そうなんだ……」


マルトが気にした様子もなく食堂へやってきた。


「おはようマルト!」

「……おはよう」

「おはよ」


私とキンモクセイが挨拶して、マルトは笑顔で返事した。

だけどヨウヅキは不満げな顔で無言のまま。


「ねえヨウヅキは、マルトと仲悪いの?」

「別にそんなこと無いと思うけど、というより興味ない」


小声でたずねるとキンモクセイは面倒そうに答える。


「なあマルト、お前さあ監査をたまたま抜けただけでほんとはスパイなんじゃね~?」

「おいおい最近は上層部も抜けてるからってさすがにねーよ」

「君もそう思うだろ?」


◆マルトがスパイかって?


〔疑う〕

→〔擁護する〕


「出会ったばかりだけど、マルトはそんなことしないと思います!」

「チセイ……」


マルトがこちらを見ている。職員たちは恥ずかしそうに去った。


「ありがとね、セイ」

「なにが?」

「俺を信じてくれたからさ」


マルトが頭の後ろに手をやり、照れくさそうにしている。


「マルト、話がある」

「なにリーダー」


ヨウヅキがマルトを連れて食堂を出る。


「あ、これはまずいかも……」


何やら心配そうなキンモクセイは二人の会話を聞きにいくらしい。


「――どうやって監査を抜けた」

「なにを言い出すかと思えば、初めからシロってことじゃない?」


ヨウヅキが詰問し、マルトは飄々と目を反らしながら余裕をみせる。


「疑惑がかかる時点でクロも同然」

「うわーどこの暴君だよ」


マルトが一瞬だけ目を細め、すぐに笑顔になった。


キンモクセイが私に二人を止めないといけないと耳打ちした。


◆私はどちらを止める?


→〔マルト〕

〔ヨウヅキ〕


「マルト、喧嘩はダメだよ!」

「日頃からその態度が気に入らない」


二人がかりで止めるも、引っ込まない。


「はあ」

「上層部に目をつけられる原因だろう。少しは改めようと思わないのか?」


なんだかんだヨウヅキはマルトが心配みたい。


「まあまあ、それくらいにしな」


白衣を着た青髪で赤眼の男性が喧嘩の仲裁に入る。


「……エレムさん」

「マルトくん、ヨウヅキくんは大事な仲間の君を失いたくないんだよ」


「そうですね、ただでさえチームの人数が居ないんだし」


たしかにテラネーが居なくなって、マルトまで抜けたら大変だ。

けれどエレムさんが言いたいのは違う事だと思う。


「やれやれ、そういう事じゃないんだけどなぁ……」


話の意図が噛み合わなくてエレムさんが苦笑いしている。


「ああ、すまない。君が新しく入った子かな」

「はい、内河チセイです」

「私はエレム、見ての通りこの艦内の医者、軍医というやつだよ」


軽い紹介をして彼は仕事があるからと、医務室へ歩いていった。


♦今の人は……

→〔優しそう〕

〔素敵〕


「優しそうな人だね」

「怒ると怖いんだよ」


アレとかあったな、など彼らは思い出話をしている。


「ごめん、内輪ネタだった」


仲が良いんだあなと、私には永遠に届かないものを持つ彼等を羨ましく思う。


「気にしないで、そういうのって仲間の会話って感じがしていい!」

「……入ったばかりの貴女には仲間という単語は非日常的ですよね」


一般人思考の私には聞きなれないだろうとヨウヅキは考えてくれたらしい。


「まあ日常生活で会話する相手は仲間というより友達だろうね」


人のことを言えないが、キンモクセイの場合は人付き合いが嫌いそうで仕事仲間はともかく友達はいなそうだ。


「俺そろそろご飯食べるよ」

「あ、私も!」


起きてすぐにこうなったので、まだ食事をしていなかった。



「天気予報見たか、来週は雨が多いらしい」

「雨の日は任務行きたくないね。精密機械が破損する」


ヨウヅキとキンモクセイが話している。

私はマルトと会話をすることにした。


「ね、セイは雨の日は好き?」


◆雨の日が好きか嫌いかなんて考えたことない。


→〔好き〕

〔嫌い〕


「嫌な思い出も特に無いし、どっちかと聞かれたら好きかな」


運動会やスポーツテストとか雨で潰れるし。


「俺は雨が結構好きだよ。雨が地面を綺麗にしてくれるから」

「パソを抜いたらマルトの話もわかるっちゃわかるよ」


キンモクセイがマルトの話に乗る。


「セイ様は友人と出掛ける約束が雨で中止になったことは無いのですか?」

「そもそも友達と出掛けるなんて無かったから」


ヨウヅキは信じられないと言いたげに驚いている。


「おじいさんおばあさんが過保護とかでしょ」


実際には違うがキンモクセイが推測していうと、ヨウヅキは成る程と頷いた。



昼にハレビレス艦長から仕事の話があったらしい。


「今回は夕方のバーで、二人一組で潜伏している密猟犯の調査をするそうです」

「久々の仕事だね。それで誰と誰がペアを組むの?」

「セイ様は希望する相手はいますか?」


「えーっと、キンモクセイは戦闘しない&頭脳だから組まないほうがいいよね?」

「そうだね、できれば近くで背後を守ってもらいたい」


◆私がペアを組みたい相手?


→〔マルト〕

〔ヨウヅキ〕


「ヨウヅキの武器はたしか刀だからキンモクセイを近くで守れるんじゃないかな?」

「そうだね妥当な判断だと思うよ。ヨウヅキは残念そうだけど……」


キンモクセイのからいにヨウヅキは否定も肯定もなく無反応。


「仲間を思いやっての行動、さすがはセイ様です」

「ほめすぎだよ」



――それにしても潜入だなんてドラマみたいな展開に緊張してくる。


「こちらマルト、開店一番に入店した。従業員はマスターとウェイトレス一名。怪しげな人物はいない」


私と会話、水を飲むフリをしつつ指輪型の小型無線で、外側にいる二人に連絡している。


{了解}


すぐ向こうも異常がないとキンモクセイから返事が来た。


「ねえ、それにしても私達バーにいて大丈夫かな……」


大人には見えない私達が内部に潜入するのは間違いではないかと思って小声でたずねる。


「ヨウヅキは得物(ぶき)がアレだから、それにキンモクセイのほうはもっと子供に見えるしね」


ペア選を間違えたのかと少し後悔してきた。


「オニーサンいい男だね」


ケバいウェイトレスが注文をとりにきた。

さっきの水はセルフサービスだったので何か頼まないといけないみたい。


私はメニューを見て、二つに絞った。


◆どちらを頼もう?


〔シュガーラスク〕

→〔チョリソォ〕


「マルトはい、あーん」

「えっ!?」


私がいきなり恋人チックな真似をしたからか、驚きつつソーセージを食べている。


「カップルにはサービスでカクテルをご用意しております」


ダンディーなマスターが紫色の洋酒を一つ置いた。


「……アルコゥルは無いみたいだけど、どっちかが飲まないと不自然だし」


◆どうしよう?


→〔私が飲む〕

〔マルトが飲んでよ〕


万が一毒を盛られてマルトが戦闘不能になると困るから私が飲むべきだ。


「あ、美味しい」

「へーどんな味?」


マルトがたずねたので感想を言おうとする。


「ごめん、わからない」

「じゃあ一口貰うね」


しかしよく判断がつけられなかった。


「え?」

「んーブルーベリー味だと思うよ」


マルトが私が飲んだ後のストローに口をつけた。


「マルトは他人が使ったストロー平気なの?」

「ちょ……めっちゃ恋人同士っぽかったのに台無し!」


彼は苦笑いしながら私の頬をつついている。


「ごめん」

「ま、直接味見しようかと思ってたんだけど……」


マルトが何か小声で呟くが聞き取れなかった。


「今日は撤退だってさ、曜日ごとに他のチームが交代で店に入るみたい」


毎日悪巧みしているとは限らないもんね。


「……にしても、あれが無線でよかったよ。さっきの聞かれたらヨウヅキに殺されそう」


マルトがストローの件を黙っていてほしいと言われた。


「え、任務なのになんで?」

「……あのさ、もしもだけど任務なら知らない男とデートしたりできるの?」


マルトの例え話は漠然としていて、想像しにくい。


◆どうだろう?


→〔嫌だ〕

〔できる〕


「それは嫌だよ」

「よかった」


マルトは何故か嬉しそう。それはさておきヨウヅキ達と合流しないとだ。


《聞こえますか?》


◆誰かが呼んでいる?


→〔スルー〕

〔聞く〕


こわいので無視してマルトの手を引いて走る。

すぐに二人が見つかり、安堵しながら帰艦した。


「セイ様、手紙が届いています」

「ありがとうヨウヅキ、誰からだろ」


手紙を開くと出だしが“誰にもこの手紙を見せるな”とあって困惑しながら読み進める。


“マルトはマキュスとマージルクスの中立峡マクスの管理者でありながらマージルクス側に加担し、宇宙軍を裏切るスパイだ”


「……」


こんな重大な密告を私になんて何かのミスじゃない?


◆誰かに手紙を見せようかな?

〔見せる〕

→〔見せない〕


せっかく疑いが晴れたのに、確証もないもので騒ぎを起こしたくない。


「なにか不備がありましたか?」

「な、ないよ!」


特にヨウヅキになんて絶対に見せられないよ。


「……それで本人に通告しちゃうんだ?」

「だってマルトがスパイなら、この密告書を見て動揺するはずでしょ?」


マルトは面をくらったように黙る。


「その発想はなかったな。というか俺がわざと出したとか考えない?」

「昨日の今日で?」


そんな真似をするスパイなんてスパイに向いてないだろう。


「そうだよね」


マルトは何かを考えている。


「じゃあ私いくね」

「そんな手紙を送られるなんて、敵はセイを狙っているんじゃないかな?」

「でもそれならマルトの事を書かなくても偉い人のフリで呼び出せば早いんじゃない?」


マルトは確かにね、と煮えきらない反応。


「わかった。いつもより警戒してみる」

「うん」


私が部屋で眠れずうだうだとしていると、ドアの隙間から手紙を投げ込まれた。


「……私はマルトの事が好きな彼の女友達です。いますぐに部屋から出てくれないとマルトと一緒に死にます?」


◆こんなの罠だよね?


〔馬鹿みたい〕

→〔万が一がある〕


「誰かいるの!?」

「大声をだすな」

「見え見えの罠にひっかかるなんて馬鹿ね~」


バーのマスターが私をとらえて、ウェイトレスの女が私に銃を向ける。


「さあ歩け」

「そんなにマルトが大事?」

「あたりまえだよ!」


私が叫ぶと女が私の頬を叩いた。


「叫ぶんじゃないわよ」

「セイ様!」


ヨウヅキが助けにきてくれた。


「なーに、お姫様を守るナイトってやつ?」

「失礼ながら部屋に入り落ちていた手紙を読みました」


ヨウヅキはこの状況で察したらしい。


「遅かったわね、もうこの子連れてっちゃうわよ」

「チセイを離せよ」


女のこめかみに銃が突きつけられる。


「マルト!?」

「セイ、忠告したのになんでこんなのにひっかかるの!?」


マルトは面倒をかけられてなのか、すごく怒っている。


「ごめん罠だって薄々わかってたけど……本当にマルトが殺されたら嫌だって思ったの!」


うつむいていると頬を撫でられる。


「……ほとんど俺のせいだよね。こっちこそ逆ギレしてごめん」


マルトは叩かれた頬に口づけた。


「あの殺意……やっぱり彼は最高だわ……」


女は恍惚しながら、その場に膝をつく。


「三対二は不利だ。撤退するぞ!」


マスターは女を連れて逃走、ヨウヅキは呆然とその場に立ち尽くしている。


「奴等はマルトを狙っていたようだが、なぜセイ様を連れ去ろうとしたんだ?」

「密猟ついでに人も売り買いしてるんじゃない?」


キンモクセイが恐ろしいことを真顔でサラッと言う。


「価値の高いジュエリット人ならともかく、見た目パンピーを狙うってハイリスクだけだよね」


なんか失礼な事も言われた。


「そもそも何故マルトが狙われるのかわからないな」


ヨウヅキがマルトに疑惑の目を向ける。


「出身星が同じとか、同胞扱いなんじゃない?」

「そういえば、あのウェイトレスはマルトにご執心っぽかったね」


キンモクセイがマルトをからかう。

単なる煽りなのだから、そんな気にする事じゃない。

なのにどうして、嫌な感じがしてくる。

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