ヨウヅキ endL シホウ
「シホウ星に連れていってください!」
濡れ衣だと証明するには、まず安全な場所へ逃げる事だ。
「助かるといってもお金がいくらになるかわかりません……」
「そのときは資金を働いて返せばいいよ」
シルベリヤはこのまま対策なしで行くと死亡99%だけど、シホウの場合はダメなら他の場所へ行ける。
私達は無事にシホウ星へ到着した。
「ようこそ」
「あの、無実の罪で婚約者に追われています」
ヨウヅキは自分が追われていると正直に話してしまった。
「それはいけないわ」
「さあ、早く建物の中へ」
――追い出されるかと思った。
「ここは?」
「避難・逃亡してきた人物の身元が判明するまで滞在してもらう公共施設です」
つまりはヨウヅキがマージンの婚約者に追われている事を向こうで調べ保護までしてくれる場所だろう。
「あの……私達は無事に逃げられるんでしょうか?」
お金を積めば助かると運転手は言っていた。
でもシホウ星が絶対安全とは限らない。
「このシホウはマキュス人、ウィラネスの天遣族などが弁護士や他星から避難した民で構成されています」
「プリンズ、凶悪な恋人などから逃げる事など容易いことです」
ここにいれば、捕まらない?
「では調査しますので、どうぞ自由にまわってお待ちください」
「はい」
取り合えずは廊下を歩き、どんな部屋があるのかみてみる。
中央の無人カウンターには新規来星者の為にアンケート用紙がある。
「ご自由にお書きくださいか……名前を書いてと、一日30時間の内10時間続く裁判で飽きてきた皆様へ、裁判方のバリエーションにご意見ください」
――シホウ星は一日が30時間あるんだなあ。
「ねえテラネスって一日何時間だっけ?」
「25時間です。地球も元は25だったそうですが」
「へえ……」
というかここの30時間は地球の25時間と比較したらどのくらい差があるんだろう。
「地球の1時間って異界宇宙の何時間なの?」
「星によって民の寿命は違います。たとえばテラネスは地球の24時間に1時間増えたもので……」
「えー何歳まで生きるの?」
「平均は100際ですね。テラネスと似た星のアテラスは500、レギアスは1000歳です」
もはや仙人の領域だと思う。
「不老不死とかいる?」
「ジュプス星の皇帝は無事に20の誕生日を迎えれば不老不死になるそうです」
――不老不死って憧れるけど、周りが死んでいくのにずっと生きるんだ。
「あ、アンケート書かなきゃ」
――大事な人より先に死ぬほうが辛くない。
「裁判の法則を悪い奴と被害者に選ばせる。バイシンインの多数派が悪人の罪を赦せないと答えればとっちめるタイプ、通常版、自白し裁かれる事を認めれば罪を軽減コースとか」
欄からはみ出したけど別にいいよね。
「今さらですが……裁判官と民しかいないこの星は一体どこから資金を貰えるんでしょう」
「裁判長がいて王様やって他の星と貿易じゃないの?」
まあヨウヅキはそれくらい前提で考えてるよね。
「民には仕事で稼ぐ手だてがないように見えます」
「まあ司法関係者と一般民しかいない星と言えば司法関係者になるしかないってことかな?」
でも流石に他の仕事が完全にないってことは普通に考えてなさそうだけど。
「このアンケートは裁判に飽きるなんて書かれていますが、被害者からしたら人生に一度あるかないかの大事なのに単なる作業扱いですよ」
「それはよくない書き方よね」
頭がいい人の作るものなのにどうしてこんな賛否両論ありそうな文なんだろう。
「私はクリア・アローともうします。二人の身元確認がとれました」
まさかプリンズに引き渡しなんてされないよね?
「貴方がたはどうやら宇宙軍の第一部隊プラネターのリーダー陽尽さんと地球からの異星人さんですね」
「はい」
宇宙人から異星人と言われると、なんだか不思議な気分だ。
「滞在が認められました。シホウ私権コースか一般市民コースがありますけど……」
「一般市民コースでは何をすればいいんですか?」
シホウ私権コースは弁護士とか裁判官とか検察とかになるみたいだけど、一般市民はどうやって稼ぐんだろう。
「一般市民はバイシンインに選ばれたら裁判へ参加します」
「シホウコースは?」
「シホウ私権コースでは裁判に必要なメンツになる査定を受けて適正があればシホウ星の裁判員になれます」
「一般市民はどう生活するんですか?」
「機械が仕事をするので好きな事をやってください」
なんなの、ここは悪魔の罠なの?
「堕落してしまいそうなんですが」
「介護もエクササイズもマシンでなんとかなります。咎めるものはいません」
なんなの、ここは天国なの?
「というか民はニート生活ときどきバイシンイン。でお金はどこからくるんですか?」
「全星の人工は少ないので民はあまりいませんから、星が援助してくれます」
――援助で人生をエンジョイできる!
「なんかの罠としか……」
「実は地下には拷問場があったりとか」
「さあ、どうでしょう?」
青髪の男は意味深な笑みを浮かべて私達を連れていく。
「まず皆さん検査ゲートをくぐって適正が80以上となれば強制的に裁判員か弁護士です」
「どうせ私には無理だし、楽な生活が出来るなんて眉唾だけど」
ヨウヅキが先にくぐったが適正は48%。私も後に続いてくぐってみる。
「81%ですね」
「ええっ!?」
「さすがです」
いらない拍手をされてしまった。
学校の勉強0点の私が、なんで適正?
「さっそくですが、裁判をシミュレートします」
「わ、わかりました!」
というか裁判なんて見たことないし私はなにをすればいいの?
「貴女は今、弁護士です。浮気した夫と離婚を考えている最中、浮気相手に刺された妻の弁護をしています。対立するのは離婚をしたがらない夫です」
ややこしいシミュレートだ。刺した浮気相手はどうなったんだろ。
「よりによって刺してくるヤバい女と浮気した夫は最低だと思います」
「一般人の回答は浮気夫がとりあえずゆるせない。と単純ですからその回答はいかにも弁護人らしいです」
「夫側の弁護は黙っています」
この情況で反論できるわけないよね。
「浮気するくらいなら離婚したほうが両者幸せになれると思います」
仮想裁判に対する私の意見はこれで終わった。
「あ、これには関係ないけど、悪人か冤罪なのか判明したあとは弁護はいらないと思うんだ」
この星と限らずそうだが、容疑ならまだしも、罪が確定した悪人の罪を軽くするとか人権とかありえないと思う。
「なるほど、ではシステムの判定を……」
彼がボタンを押して、私の弁護の結果を、システムが計測した。
●●
「だから~おれは何もやってねーんだって!」
「では、裁判の形式を選んでください」
容疑者にはバイシンインの多数評価に委ねるか、それを踏まえても裁判官の一存かを選ぶ権利だけはある。
「なら裁判官のほうにすんぜ」
この男の親は金持ちで裁判官にたんまり金を積んだ。
「はい、ユウザイ~」
「なんでだよ!たんまり積んだろ!?」
「お金は貰ったと正直に認めましょう!正直者は赦されます!」
あれから私はシホウ星の番人にのぼり詰めた。
「お疲れさまでした」
「ヨウヅキ、今日の晩ご飯は?」
私が稼いで、彼は主夫をやっている。
「貴女のお好きなドリアです」
このシホウ星では弁護士に援助される配偶者も珍しくないそう。
「じゃあ早く帰ろう」
手を繋ぎ私達の家に向かう。
たとえ歪んでいる偽りの正義だとしても、ヨウヅキの追手が消えるまで私はここで暮らすと決めた。
――いつしか人は私を“地星の女神”と呼ぶようになった。
【アブノーマル:地星の司法】




