ヨウヅキ endX ついていかない
「私は屋敷内の入り口でまってるよ。婚約者さんに悪いから」
私がいたら婚約者もいい気はしないだろう。
「……わかりました」
待つとは言ったものの、暇潰しにすることが浮かばない。
少しだけ屋敷の近くを歩こうとしていると、何やらくばっているお兄さんがいた。
「どうぞ、新発売のエナジードリンクです」
「ありがとう。あの、もう一人分もらえますか?」
ヨウヅキの分をお願いすると、彼氏ですかとニヤニヤされた。
「えっと……」
「あ、これからって感じですか」
お兄さんはもう一本くれた。
「あ、ありがとうございました!」
再び屋敷の前でヨウヅキを待つ。
「―――きゃああああ!!」
なんだか屋敷から、サスペンスドラマによくある悲鳴が聞こえた。
「セイ様!!」
二階の窓からヨウヅキが降ってきて、私の腕をさらって走る。
「なにごと!?」
追っ手が来るようで、私達は隠れながら走る。
「招かれてさっそく婚約を断ったところ、彼女が発狂しながら自害しました。その際に防犯カメラの前で悲鳴をあげていたのです」
もしかしてヨウヅキが殺したように偽装するため、カメラの四角から悲鳴をあげたのだろうか?
「なら逃げないとだよね!」
「私が彼女を殺したか、疑わないんですか?」
ヨウヅキは目を見開いて驚いている。
「ヨウヅキはそんなことしないでしょ?さっきと同じくらい冷静だし、それに返り血とかないから」
「……貴女は聡明な方ですね」
ヨウヅキは私をお姫様のように抱えて、船へ乗り込む。
「お客さんら、ワケありかい?」
「……はい。エンゲラデス星のシルベリヤ領までお願いします」
追ってもまさか、そんな寒いところにいるとは思わないだろう。
「さすがにそこは、死亡フラグとかいうのが半端じゃないだろ……」
「しかし捕まるわけにはいきませんし……」
「たしかにシルベリヤには誰もいかんだろうが……」
たしかに逃げられても凍死する危険性がある。
「シホウ星なら金を積めばなんとかなるぞ。ダメならジョウジョウシャクリョウでなんとかなる」
「そんないい加減な」
◆どちらかに逃げなければならない。
→〔シルベリヤ〕
〔シホウ〕
「エンゲラデスへ向かってください」
「わかった」
せめてもと、優しい運転手は防寒具をくれた。
私達はポピュラーな山小屋を見つけ、そこに身を潜めることにした。
「異界宇宙の雪は、そんな寒くないね」
「え?」
私はその場に座り込み、立てなくなる。
「これを飲んでください!」
ヨウヅキは私から落ちた試供品のジュースを暖炉で暖めるとそれを私へ渡す。
◆意識が遠退くけど――
〔ドリンクを飲む〕
→〔少し休む〕
「あとで飲むね……」
「そうですか?」
私は完全に眠りに向かった。
「……起きてください眠ってはいけません!」
「みーつけた。手間をとらせないでくださる?」
「お前は……あのとき死んだのでは……?」
「いま頃プリンズの奴等が貴方たちを探している。でも黙ってあげるわよ慈悲深く優しい私は婚約者が結婚前に好きだった女を見逃すほどにね」
「貴女と結婚すれば、偽りの罪がなかったことになると?」
「ええ、瀕死の少女を救う奉仕活動もね。でも残念、風前の灯火ならまだしも、すでに事切れているわ」
「……!」
「でも遺体は丁重に供養してあげるし、これから貴方やそちらの家に援助だってしてあげる」
「必要ありませんよ……」
「ここで二人仲良く死ぬというの?」
「いま彼女と二人で逝けるなら満分だ」
「ジュースなんか暖炉にかけてなにする気……」
「お前を道連れにしてやるものか……早く聖域から出ろ!!」
「おまえ……よくもワタクシをコケにしたわね」
「邪魔だ」
「ぐあっ!!」
●●
「もうしわけありません」
冷たくなり動かない少女を、暖炉の近くにやり暖める。
しかしそれでも目を覚ますことはない。
「ここにこなければ……貴女を他の安全な場所に連れていっていれば……」
真っ白になった頬へ触れる。
初めて指で感じるそれは滑らかで、しかし本来であれば熱がある筈のそれではない。
「初めて貴女を見たときから……恋仲など高望みはせずに、ただ奉仕できればよかったんです」
後悔と懺悔に涙は流れ、雫が頬へ落ちる。
「やっぱり物語のようにはなりませんね」
缶の中身を暖炉にかけて少女を抱き寄せた。
悲劇染みた最後を飾るのに相応しい。
パチパチと拍手ような音は、観客なしの終りには似合いの喝采だ。
「自分一人なら地獄でもいいですが貴方には天国に行ってほしいです」
――世界は赤に染まっていく。
【デッド:歪んだ愛の結末】




