全員共通 メシアなにそれおいしいの?
――――――楽しいことだけをしている筈なのに、どうしてつまらないんだろう。
小さな頃に、私の両親は飛行機事故で死んだ。
楽しみにしていた海外旅行の日だった。
私は熱を出して祖父母の家に預けられ留守番していた。
おみやげを買ってくるから。
そう言って。かえってきたのは動かない両親。妹は事故で行方がわからないまま。
幸か不幸か、私だけ生き残ってしまった。
「それそれ!」
ゲームセンターのガンシューティングをやっている内、いつしか狙いなど定めなくても感覚でわかるようになっていた。
「これより楽しいこと、何かないかな……」
―――
「また一つの惑星が消えようとしている」
「天界の仕業だな嘆かわしい…」
「しかし宇宙空間においては、いくら天界の使者であろうと…手出しは出来まい」
「なーに辛気くさい顔してんの?」
「こうも頻繁に襲撃されては仕方がないだろう」
「こうなれば、地上界から、我々のメシアを呼び出すしかあるまい」
周囲がヒソヒソ私を噂している。
「あの子よ…」
「きゃ~私ってば有名人!?は…ぶぁっくしょーん」
我ながらくしゃみはギャグみたいに完璧にできた。
「よー朝から盛大な嚔をぶちかましてやがんな」
「あ、近所のオジサンその1」
「誰が近所のオジサンその1だ」
この人の名前長くて覚えられないんだもん。
「つうかオジサンって年じゃねぇよまだ20だしオレの名前は星一郎=ティンクル=スターダスト・夜垣だ」
全然気にしてなかったけど外国人にみえてきた。
名前は長いからおぼえられない。
スターが星でダストが塵なら…
「略して星クズでいいよね!」
「オジサンよりマシか…?」
「聞いてくれよ千瀬李あのよ、最近どうも変なんだよ」
「あの世?」
「天体観測してたらな変なやつが浮かんでた」
「それ宇宙人!?」
「かもな」
宇宙人がいるなら会いたいな。
私は少し話をして、星クズおじさんと別れて家に帰った。
鍵を閉めて、玄関で靴を脱いでいたところで誰かにインターホンを連弾された。
ブーツのヒモを結び直してドアを開けた。
「ピンポンピンポン何度も何度もチャイムをならさなくても聞こえてますから!!」
ドアを開いたら目の前に赤毛の知らない人が立っていた。
「メシア…貴女の力が必要です」
いきなりメシアとか力が必要とか言われてもなにがなんだかわからない。
というかメシアさんって外国人じゃない、表札はバリバリ和なのに、人違いもいいとこだ。
「メシアって誰ですか!?私には内河千瀬李っていう名前だけは超頭良さそうな名前があるんですけど!」
扉を閉めようとしたところ玄関に足を挟まれた。
顔色一つ変えずに押し掛けるなんて、強かな人だなあ。
「そうですか…ではセイ様とお呼びします」
「ええ!?ショタイメンでアダ名?」
友達でもないのにアダ名で執事でもないのに様付けされた。
こんなこと16年生きてきて初めてだ。
「貴女には生き別れた妹がいるそうですね」
「なんでそれを!?」
「数年前に記憶喪失の少女を我々の組織で保護しました」
●
一方、二人の様子を特殊スコープで覗いていた数名は、千瀬李を品定めするものや、救世主かと頷くものなど、各様々な反応を示している。
「リーダー・ヨウヅキが対象と接触、玄関先で押し込み中」
オペレーターが画面を拡大する。
「俺達がプラネターでなかったら即行で逮捕されていましたね」
薄い青の髪の少年はさも他人事のように笑っていた。
「笑い事じゃないよ…この場合ヨウヅキさんは切られちゃうけど」
青髪の青年は苦笑いを浮かべる。
呆気にとられた皆の視線には気がついていない。
「普通は警察呼ぶよね……なぜ通報しないの」
金髪の少年は不服そうに画面を凝視していた。
「いや、されたらだめなんだけど」
●
「我々は宇宙の平和を守るべく、星に住む方々と手を組んでいます。悪の星を統べるドルゼイの魔の手が我々だけでなく地球にさえ迫っている。つまり現状を打破するには貴女の力が必要…というわけです」
「はあ…?」
「ちなみに妹さんは宇宙でアイドル隊員として働いています」
「妹は歌手になりたいっていってたし、やっぱりそれ私の妹かも?」
宇宙や星には興味あるし、生きているなら妹に会いたいし、将来は宇宙飛行士になりたいなとは思っていたけど、私頭良くないし諦めてた。
オッケーしたら今、宇宙に連れていってもらえるのかな。
「それが本当なら私宇宙に行きたいな妹にも会いたいから」
「では……!」
独り言のつもりが、了解たと思われちゃったみたい。
過ぎたことを悩んでもしかたないか。
「さあ、どうぞ」
赤毛の人が手を引いてくれて、宙に浮いて段差のある宇宙船に乗り込めた。
まずは中をじっくり監察してみよう。
「ではこれに着替えて…」
「更衣室は?」
私はきょろきょろと通路を歩き出した。
「必要ありません、ここで着られます」
「え?」
いきなり服が瞬間移動して、私の服装が変わった。
窓で全身を見てみる。
「…ダサい」
「気にしないで」
「ちゃんと頭悪そうに見えるよ」
「そんなことないよ」
泣きそうな私に皆が微妙なフォローをしてくれた。
「オレは、て…テラネーだよ」
青髪の背が高くて優しそうな人だ。
どこかで見たような気がする。
多分テレビ…もしかして芸能人の親がいるのかも。
「俺はマルトこの性格悪そうな奴がキンモクセイ」
ふわふわしている柔らかそうな髪の少年は眉間にシワを寄せた金髪の少年を指差した。
「まさかとはおもうけどキンモクセイって本名じゃないよね?」
嫌われているようで、キンモクセイ君はそっぽ向いてしまった。
「我々は皆、自分でコードネームを付けて互いにそれで呼ぶんです」
赤毛の人が気になっていたことを教えてくれた。
「ありがとう赤毛さん」
「…わたくしのことはヨウヅキとお呼びください」
「じゃあさっそく歓迎会を…」
「お前達の企みなどこのドルゼイ様には筒抜けだ」
どこからか声がすると思ったらモニター画面に薄い紫がかった髪の男がいた。
というか、ドルゼイってヨウヅキが言っていた悪い人じゃない?
皆が慌ててるからやっぱりあれはそうなんだよね。
モニター画面全体にドルゼイがいる。電波ジャックされてしまったみたい。
「やあ皆、大変だねぇ」
美人をはべらせた人がにこにこと手をふっている。
「アディール=フォメル!?」
その人がいじっていた美人の髪をさらりとはらって、美人達は移動していった。
「亡星プルテノの王子がなぜこんな場所に!?」
「王子さまなの!?ねえ白馬は?」
「ふ…ボク、さすがに女の子に座る趣味はないんだ」
意味がよくわからないけどこの人は紳士な白馬にのった王子様のようだとはいいがたいというか、王子っぽくない。
「言っておくけれど、元・だから…王族なんてプルテノが王立を廃止された時点で無いに等しいんだよ」
アディールさんはニコニコ笑っていたけど、それは本心じゃない。
彼の気持ちが伝わってきた。
「おい、そもそもなぜお前が救世主と呼ばれたのかわからない」
「私にもわからないよ!!頭よくないしスポーツもダメだし!せいぜいシューティングゲームしかできないもん!」
「ある意味すごいです」
「ま、そんなことより、ドルゼイを倒す方が先じゃないかな~?」
そんなことって。
「確かに…一先ず貴方の事は後回しにします」
「いつまでこのドルゼイ様を待たせるのだ!?こうなったら実力行使に出るぞ!!」
ドルゼイは痺れを切らして、モニターを消した。
「一先ず奴は引いたと見ていいですよね?」
「ああ、それにしても奴は気が短い…長生きはできないな」
「短気は損気って言いますからね」
なんだかモヤモヤする。
「ねえ…まだドルゼイが引いたとは限らないんじゃないの?」
「なにを言って…」
「ドルゼイが実力行使に出ると言っていたし、それを今からやろうとしてモニターを切ったんじゃないかな!?」
「その可能性がないとも言えないが…」
「いくらドルゼイが短気だからって警告を無視された腹いせに攻撃を仕掛けるなんて…」
ドルゼイのあの様子を見て思ったんだ。
もし、私がドルゼイの立場なら同じように行動したと思うから。
「大変です!!ドルゼイの軍勢が!!」
「ほらやっぱり!撃ち落とされる前に撃ち落としにいかないと!!」
「目の色が変わっている…」
「色は変化ないように見えるけど?」
「そういう意味じゃない」
まるでシューティングゲームをする直前のように、高鳴る鼓動。
私は一直線に攻撃部隊のいる場所に行った。
――――――
前回のあらすじ~千瀬李は曖昧な返事をするものの半ば強引に宇宙船まで連れてこられてしまう。
突如、艦内のモニターをジャックされドルゼイが千瀬李達に警告をした。
それを亡星の王子・アディールの登場で、意図せず無視してしまい怒らせてしまったせいで、侵攻を開始された。
千瀬李は敵の撃墜をまるでシューティングゲームのようだと感じ、嬉々としてドルゼイを倒しに向かった。
「すごい!敵がどんどん消えていく…」
「何者なんだ…」
千瀬李を見た攻防部隊はその実力に驚き、敵のさばき方に気をとられていた。
「ちっ頭悪いくせに…注目浴びやがって」
「まあ、頭のいい人間は沢山いますからね…何か一つ他人のやらない事で才能がないと…」
「マルトのくせになに達観したこと言っているわけ?生意気」
「あははは!!生まれて16年、貰ったお金をゲーセンにつぎ込んだ私をナメるなああ!!」
ドルゼイは撃墜される前に残機と共に引いた。
「ゲーセンやってたから頭が悪いんじゃ…」
「言ってやるな」
チセイはドルゼイを退いた。
「で、ホントにこんな馬鹿をメシアにするの?」
馬鹿って…事実だけど。
「そうじゃないの?」
マルトも歓迎してるわけじゃないか。
やっぱり、キンモクセイには特に嫌われてる。
私を連れてきたヨウヅキはともかく、他の人も歓迎はしていない。
ただのシューティングゲーム好きな女子高校生だもんね…。
「実力は見ただろう」
「あんなのただ適当に弾を撃ってるだけの
まぐれじゃないか、実力なんてあるわけないよ」
言い返せない自分が情けないなあ。
「キンモクセイ、射撃要員でもないのになんで適当だってわかるの?」
マルトはキンモクセイに問いかけた。
「は…?あの様子ただ乱雑に撃ってるだけだって見ればわかるよ」
「でもさ、大した訓練をつんだわけでもない子が、ただ乱射して敵を追い払えたんだからすごいよね」
マルト…。
「はは、マルトみたいなのを本当の毒舌って言うのかな」
この高貴な声は…
「アディール=フォメル!」
またこのやり取りが始まるのか。
「毎度のことですが、どうやって侵入してくるんですか」
そんなに頻繁に侵入されるんだ。
王子がすごいのか、それとも警備がスカスカなのかな。
「暇だね」
あれから三日たつが、ドルゼイは現れない。
よく言えば平和、悪く言ってヒマ。
「よろしければお茶を煎れますが」
ヨウヅキが、テーブルの椅子を引いてくれた。
私は遠慮なく座る。
「じゃあもらっちゃおうかな~」
「ヨウヅキ!アンタ、リーダーだろ
いつからコイツの執事になったんだよ」
でっでた!!ガミガミキンモクセイだ!
「セイ様の御世話をするのは我等の使命」
「また救世主?そいつがいなくても僕らで事足りるでしょ
逆にただそこらへんにいる一般人を連れてきてなんになるのさ」
「だよねー」
キンモクセイの言うことはよくわからないけど意味はなんとなくわかる。
私は場違いだってこと。
「セイ様、ご謙遜をなさらないでください」
ヨウヅキが褒めてくれるのは嫌な気はしないけど、実際私ってただ適当に銃乱射してるだけだし。
「ほら、さっさと―――」
《シンニュウシャ!!シンニュウシャ!!》
なにごとだろう。
「ちせいいい!!千瀬李ちゃんはどこだああ!!」
私の事を誰かがよんでる。
「何者だ!」
「邪魔!」
ドカ、バキ、コミカルな音が。
「ちょっとヨウヅキ、こっち来るんだけど、僕戦えないんだけど」
そういえばキンモクセイは参謀なので丸腰のはず。
いざとなったらビーム銃を持ってる私が守らなくちゃ。
「ここか!!」
濃い紫の髪の男の人。誰だろう。
この人、武器をもっていない。
あれだけの人数を素手でボコボコって、何者なんだろう。
「それ知り合い?」
ヨウヅキが私を背にまわして、キンモクセイが私の後ろにまわった。
「たぶん知らない人だよ」
「そんな…まさか記憶を消されて」
「違うけど」
私一年以内に会わない人は頭から消えるんだよね。
「とにかく早く俺と帰るんだ!」
「セイ様に近づくな、触れれば斬るぞ」
さっきまで笑っていたヨウヅキが、人が変わったように冷たい顔をしている。
「そんな棒きれなんぞ折ってやる!!愛の力は偉大なんだ!!」
うわ近づいたらだめな人だ。
「こいつ頭おかしいんじゃないの」
キンモクセイの言葉に同意。
「千瀬李ちゃんと俺はな、結婚の約束までした仲なんだ」
まったく記憶にない。
「約束は」
「破るためにあるんだよ」
紫髪の人の左後ろに、マルト、右側にテラネスがいる。
二人は銃を左右から近づけている。
この人は丸腰で武装してる人を倒したんだし、銃を向けられてもしかたない。
むしろ撃っても死ななそうだ。
「俺と千瀬李ちゃんの出会いはそう
俺が16、彼女が5才のときだった」
「語りだしたよ」
―――
『バイオレット君ってさあ…愛が重いんだよね』
彼女にフラれ、途方にくれた俺は八つ当たりにゲームセンターに行った。
『ていてい!』
『こらこらー子供がこんなとこ来ちゃいけないよ』
女の子はまるで獲物を狩るような、鋭い目をしていた。
「それが千瀬李ちゃんで、それからずっと好きなんだ」
「ロリコンストーカー?」
「なんか具合悪くなってきた」
「オレも…」
「違う!たまたま好きになった子が千瀬李ちゃんなんだ!!
悪い虫がつかないように毎日、三日三晩、七日7夜、百日、見張って来たんだ」
「…愛が重い」
「帰ろう!ケーキや縫いぐるみやドレス、なんでも買ってあげるよ」
バイオレットさんの手にはちらつくブラックカード。
いきなり現れた人に何か買ってもらうわけにいかない。
知らない人について行っちゃいけないって親に習ったし。
それに私は、物やお金がほしいわけじゃない。
退屈を無くしたいだけ。
「無理だよ、私のほしいものは
どんなお金持ちにも買えない」
「それは何!?」
私はこの宇宙にある知らないすべてが見たい。
だから帰るわけにはいかない。
「私は宇宙全部がほしい」
「星は買えるよ?」
「なにもんだよこいつ……」とキンモクセイがいう。
「ははは。テラネスの実権はオレのものなのさ」
「よし、こいつが星大戦〈スターダストラグリオン〉黒幕だね」とテラネスが言った。
「えっなにそれ!?」私はよくわからない。
「そういうことにして、早く仕事終わらして実家に帰省させてください」ヨウヅキが微笑む。
〈緊急事態発生!―――ドルゼイ軍です!!〉
オペレーターの通信が入る。
「ちっ……あんた、射撃してきて……」
タイミングが悪い。とキンモクセイが小声でいった。
「わかった!」
私は射撃室にいく。
―――
なんとかドルゼイは退いた。でも彼等は人間じゃないからすぐ再生するらしい。
何度戦ってもキリがないなあ。
私たちは星の中心〈センタースター〉に着陸した。
自由時間らしいからふらっとゲーセンに寄って、射撃ランク一位をとった。
「……よう」
「あ、星一郎=ティンクル=スターダスト・夜垣つうしょう星クズおじさん!」
どうしてここにいるんだろ。まあいっか。
「久しぶり。元気そうでなによりだ」
「星クズおじさんも元気そうでよかった」
もう会えないと思っていた。
「おじさんはやめろあと星クズもやっぱだめな」
「じゃあホシガキで」
「なんで勉強できねーのにアダ名付けは無駄に頭がまわんだ?」
「わかんない」
「まあいい、お前いまなにしてんだ?」
さすがにプラネターのことは話せない。
「えっと、かくかくしかじかで宇宙旅行中」
「誰とだ?」
「ひみつ」
「ふーん。青春か……」
星一郎=ティンクル=スターダスト・夜垣はにやにやしている。
「べつにそういうわけじゃないけど
あ、そういえば変態が現れたんだ」
ふと思い出したことを話す。
「変態?」
「いきなり船に乗り込んできて、乗組員をバッタバッタして紫の髪で……」
「……ブラックカードを持ってるとかか?」
「そうなの!」
なんでわかったんだろう。
「はあ……」
ホシガキは盛大なため息をついた。
「そいつ、俺の知り合いだ」
――――――
「というわけで、引き取ってもらうことにしたんだ」
「いやだ!チセイちゃんも連れて帰るんだ!」
帰還して、皆にヴァイオレットさんを釈放しようと話す。
「なにがというわけ?」
キンモクセイは不機嫌だ。
「彼はいったい誰ですか?」
ヨウヅキが星一郎=ティンクル=スターダスト・夜垣を見る。
「俺は星一郎=ティンクル=スターダスト・夜垣っていうもんだ
まあただの、自転車の修理屋の若くて超イケメン兄ちゃんだ」
「……自分でイケメンとか言うなよ
イケメンと兄ちゃんって意味重複してんぞ。馬鹿だなお前は」
ヴァイオレットさんが言った。
「お前〈変態〉に馬鹿とか言われたくねーよ!!」
「はあ!? やんのかコラ……お前が俺の仕事中にチセイちゃんをしっかり見てねーからこうなったんだろ!」
「へー星一郎=ティンクル=スターダスト・夜垣まで変態ペドロリストーカーの仲間だったんだ」
「違う断じて違う!」
「へー私に話しかけてくれたのはそういう理由からだったんだ」
なんだか変な気がした私は宇宙船を降りて気晴らしにゲーセンにいった。
「……なんで普段話聞かねーのにこういうときだけバッチリ聞いてんだ」
―――――両親が死んで妹も居なくなって、これから先祖父母も……私はだんだん一人になっていく。
暗くなったときはやっぱりゲームでストレス発散しよう。
「さて、ランクとろー!」
私は新しいゲーセェンに入った。
「はいはいはーい」
顔の見えない対戦相手がいた。
軽く捻る。ランク一位をとった私は、気分よく街を歩いていた。
ジュプスはとっても広い。とりあえずスキップしやすい環境だ。
――――なんだろう。どこからか、歌が聞こえる。
「……そこの貴女」
路上ライブをしている人が、歌うのを止めて私を呼び止めた。
「なに?」
黒い服を着た派手な集団は、お立ち台からジャンプしてこっちに降りてくる。
紅一点とおぼしき、目の周りが真っ黒の背の高い女性は、少しかがんで、こちらに顔を近づけて凝視している。
「聴いていってよ。アタシたちの歌。」
「え~でも私そろそろ戻らないとだし……」
――――――――
「わ~」
取り合えず歌を聴いたので、拍手を送る。あまりの酷さに耳がぶっ壊れるかと思った。
「じゃ……これ少ないけど」
私はおひねりをおいて去る。
「……迷った」
宇宙船がどこにあるのかさっぱりわからない。
「ひさしぶり」
「えーっと、アディール元王子!」
「一人?」
「そうです」
―――突然、顔が近づいてきた。
「よかったら俺と一緒に旅しない?」
「うわー近い近い!!」
「冗談だよ」
からかっただけのようだ。
「セイ様!」
「ヨウヅキ、迎えに来てくれたの?」
「残念、忠犬が迎えにきてしまったね」
アディールは去った。
「貴女がいなくなってしまったかと……」
心配で探してくれていたらしい。
ヨウヅキごめん。私そのころゲーセンでランク一位とってた。
―――――
「おかえりー」
「あの二人は?」
「しばらくこの船に軟禁だよ」
「君を連れ帰るまで居座るらしい」
「へー」
「大変です!」
「またドルゼイが出たのか?」
「いえ、今回は別の船の模様」
「あれはポイゼェン星の奴等が好む系統だな」
聞いたことのない星だ。
「どんな星?」
「とにかくゴシックで毒ガスの出る星だ」
「へー毒ガスが……」
超危なそうな星だ。そんなとこに住めるなんて、さすが宇宙人。
〔これから攻撃を仕掛ける。回避したければ荷物をすべてこちらに明け渡してもらおう〕
画面にビジュアル系バンドのような格好のやつらが映っている。
「ん?」
モニターに映っているやつら、どこかで見たことがある。
「セイ、どうかした?」
マルトがたずねる。
「なんかあいつら見覚えがあるんだけど……あー! ついさっき路上ライブしてた人たち!」
〔……さっきのお嬢ちゃん!?〕
真ん中の椅子に座る女性は驚いている。
「うん、そうだよ」
〔しかたない……オフセの恩もあるし、今回は引くことにするわ〕
片目をパチリと閉じて通信を切った。
「なんだったんだあれ……」
「ミサィルの節約になってよかったじゃないか」
――――
お風呂あがり。フルーツミルクを飲みながら歩いていると、テーブルでマルトがなにかをしていた。
「なにしてるの?」
マルトがなにかを作っている。
「あ、セイ」
「花冠?」
ぱっと見た感じの雰囲気がシロツメクサに似て、甘い匂がする花だ。
「この花なんていうの?」
「シロツメクサモドキ。ちょうどいま完成したからあげるよ」
マルトが花冠を私の頭にのせた。
「ありがとう」
私は眠気がしてきて、部屋にいく。
◆
朝、私は今機内の食事するとこ(ダイニングルーム?)にいる。
今はこの艦は宇宙を飛んでいる。地球の回りにある宇宙とは違うみたい。あどうでもいっか。
ヨウヅキはトレーニングルームで素振りをしているらしく不在。
マルトは私からみて右斜め前に座っていて、トウガラシを水飴でからめたのを食べている。
目の前には本を読みながらなんか字を書いているキンモクセイ。
「なにジロジロ見てるの?」
こっちに視線をやると不機嫌そうに、角砂糖を口に放りこんだ。頭を使うから糖分が要るんだろうなあ。
それにしてもまつ毛長い。金髪でたぶん外国人だからか、雰囲気も違う。
「キンモクセイってなんていうか……」
綺麗や可愛いって男の子に言っていいのかなー?
「なに」
「ツンツンしてるよね」
「ぷっ」
マルトが吹き出した。
「は?どこが?どう見ても丸いでしょ」
たしかに髪は内巻きだけど。
「いや髪じゃなくて」
なんて言えばいいのかなあ。
「あははは…セイはさ、態度が悪いって言いたいんだよ」
マルトが変わりに言ってくれた。
「そう。僕はいつもこうだけど」
キンモクセイはふたたび本を開く。
「そんなんじゃ友達できないよ?」
マルトはトウガラシを食べながらひやかした。
「……友達なんて必要ないね。利害関係だけで十分さ」
「彼女もできないよー」
「それテラネーに言われたくないんだけど」
「俺は女神<クレイシニー>様一筋だから」
「そっかぁ。でもさたんなる人間が女神様相手に恋なんてしても報われないよ」
マルトが笑顔でさらっと言った。
キンモクセイも無言でうなずいている。
まあ神様に恋なんてスケール違いすぎるもんね。
「そもそも神様って目に見えるの?」
「見えるよ、小さい頃に会ったんだ。俺がプラネターになったのも女神様に会う為だし」
世界を救いたいとかじゃないんだ。まあ人のこといえないけど。
『いつか女神様のところに行きたいんだ。すぐにでも』
『ふーん。死んだら行けるんじゃない?』
◆遠い世界<わかれ>
あれから一週間くらいが経つ。
「最近ドルゼイ達がおとなしいと思わない?」
キンモクセイがぽつりという。皆はシーンとし、何か考えはじめる。
「世に聞く嵐の前の静けさってやつかもね」
マルトはクスッと、何気無い素振りを見せた。
「……」
ヨウヅキは調べに行くと言って、コントロールルームにむかう。
「新手とおぼしき敵艦隊を観測!こちらへ威嚇してきました!!」
「え!?」
突然の襲撃に、私達は各持ち場へつく。私は射撃を、キンモクセイは情況把握からの作戦計画。ヨウヅキ、テラネー、マルトは有事に敵艦隊へ乗り込む準備。
「すごい戦艦の数!やりがいがあるってもんだね」
いままでにないスリルに気分は高揚した。
やつらが攻撃してきたと同時にこちらからも撃つ。
敵数が多く、玉の量がたらないし、一度に射撃するスピードも向こうに劣る。
向こうの宇宙船がそれだけ技術を持っているということだと実感した。
ヨウヅキ達が裏からまわるらしいので、撃つのを控える。
艦隊は彼らを前方から誘導するように移動した。
移動が済んだようだ。私には待つしかできない。
――――――
「三手に別れるぞ!!」
「了解!」
「オーケー」
―――
「皆は大丈夫かな」
艦隊は敵から距離をおき、ステルスモードになる。彼等との通信も完全に遮断されている。
彼等は無事なら敵方から小型操作機を奪ってくる。あの数を三人だけでなんて、大丈夫だろうか。
―――――
しばらく待っていると、敵艦隊が爆発した。
もしかして、敵を倒したのだろうか――――
「おそらく彼等が戻ってきます!」
皆喜んだ。
モニターをみると、一人、二人――数名が帰ってきた。
艦内に帰還してきた中に、二人の姿が見える。
「ヨウヅキ、マルト!」
「……」
あれだけの敵を倒して帰ってきたのに、普通なら喜ぶはずなのに、様子がおかしい。
なにかあったのだろうか?
「テラネーが……」
そういえば彼の姿がないけど、怪我でもしたんだろうか。
私はただならならず重たい空気に、薄々感づいてしまって、意識して否定しようとする。正解を無意識に避けた。
―――――
マルト達がかけつけたときにはテラネーは既に耐えていて、一人で敵を全滅させ、最後に倒したと思われる敵と相打ちになっていたらしい。
家族へ遺体を引きわたしに一端地球へ帰路した。
彼の、天王寺海人の父は大企業で知られる人物で、知らない者はいないくらい有名な人だった。
母親はとても綺麗な人で、泣き崩れていた。
私も仲間がいなくなって悲しいけど、二人を差し置いて泣くべきじゃない。
「なんであいつなんだよ……」
キンモクセイが悔しそうに壁を殴った。
「やめなよ」
マルトがもう一度降り上がったキンモクセイの腕をとめた。
「あいつはきっと幸せだったよ」
「マルト……」
「かけつけたとき、あいつの顔は笑っていた」
ヨウヅキが呟く。
「……女神様に、会えてるといいね」
私はそれしか言えない。
「会えてるさ、きっと」
ついさっきまで普通に話していた人が簡単に死ぬのだと軽い気持ちで入ったことを後悔した。
テラネーをうしなって、皆それぞれ思うところがあるみたい。
――あたりは沈黙が降り、しばらくするとマントを着た銀髪の男性が、宝石のついた杖をつきながらやってきた。
「……ハレビレス総艦長!」
キンモクセイと私を除く皆は一斉に整列し、周りに緊張が走る。
十中八九、彼は偉い人なんだろう。
ハレビレスは棺桶に敬礼すると、こちらへ静かに歩いてくる。
「お前達、今日はご苦労だった」
彼の表情は淡々として、まったく感情を見せていない。
「明日は補給のため休暇とする」
「はい」
「それではな」
去り際にこちらを見られたが気のせいだろう。
「セイ様、彼はハレビレス=ヤンマーギ。プラネター部隊を取り仕切り、テラネス宇宙軍の総督。及び地球やテラネス、アテラス、レギアスなどを管理なさっています」
ヨウヅキが小声で説明してくれた。
「そうなんだ」
「基本彼は表に出ません」
「ま、戦闘中に出てきたら星一つ消えるくらいヤバイ時だからね」
マルトがいつもの調子で笑いながら言った。
「僕は部屋にいく」
「じゃあオレも」
「それでは、おやすみなさいませ」
皆はキンモクセイにつづき、それぞれの部屋へ戻っていく。
◆私は彼の動向が気になったので部屋を訪ねよう。
〔ヨウヅキ〕
〔キンモクセイ〕
〔マルト〕
〔やはり自室へ〕