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ドラゴンが花嫁!  作者: 伊野 大地
7/8

ミリィの気持ちに右往左往

私は……ドラゴンだ。人間とは別の生物。


ドラゴンとは気高く、他のどんな種族よりも優れた存在であり、そして孤高の存在でなければならない。

私は……そう教わって生きてきた。


『孤高の存在』


私達ドラゴンは、何千年と生きていく。

それは……他の種族では考えられない程、長い……気の遠くなるような時間だろう。


私に比べたら、人間の一生なんて、ほんの一瞬にすぎない。


だからかな?

トウヤを見ていると……悲しくなる。

一瞬の人生なのに、自分で自分の命を、道具にしているみたいで…私には、それが許せない。

一瞬でも、生に執着して生きていくのが人間のはずだ。

それなのに、その命を自分から率先して危険にさらす。


私は、トウヤを仲間と認めた。

だから、何がなんでもトウヤを守る。

でも、トウヤが自分から危険に飛び込んでいくなら……いくら私でも守れない事だってあるかもしれない。


守りたい。

死なないで欲しい。


だって……、私は……、

えっ? 私は? 私は……何だろう?

トウヤは、絡み付いてくる視線に居心地悪そうに身動ぎしながら歩いていた。


「……気になる」


さっきから、ミリィの視線がずっとトウヤに絡み付いてくる。

クシャナ国目指して、全員が黙々と進んでいるのだが、進んでいる間ずっと視線が絡み付いてくる。何か用かなとミリィを見ると、ミリィはプイッとそっぽを向く。何だろうと、軽く首を捻りながら視線を正面に戻すと、また視線が絡み付いてくる。

堪り兼ねて「ミリィ」と呼びかけ様とすると、今度は今までとは違う明らかに怒ってますといった視線が絡み付いてくるので、トウヤも何も言えなかった。


「……俺、何かしたか?」


思い当たると言えば、トウヤが撃たれるまでの事だが、あの時は機嫌が悪かった様には見えなかった。


「大体、機嫌が悪かったら膝枕なんかしないよな。じゃ、何だろ?

俺が、あの時みんなに本当の事を言おうとしたことかな?

でも、俺は何も言わなかったし、ミリィがそんな事をずっと気にするかな?

ア~ッ! 分かんないなぁ!」


ボソボソと自分の気持ちを吐露しながら、ガシガシと髪をかきむしると、トウヤはもう一度ミリィを見た。

ミリィと目が合う。

ミリィは、ジッとトウヤを見て、またプイッと視線をそらした。


何か今、ミリィの目がうるんでなかったか?

何?何で?


頭の中に浮かぶ、いくつもの?に悩まされながら、トウヤは再び髪をかきむしる。

どうにも分からない。ミリィが、ずっとトウヤから視線を外さないと言うことは、トウヤに何か言いたい事があるはずだが、何も言わないし、聞こうとすると怒ってますと視線で訴えてくる。


「気まずい」


たまらず、つい大きな声を漏らしてしまった。

すると、


「どうしたトウヤ?」


シェインが聞こえたのか、トウヤに尋ねてくる。


「イヤ……なん、何でも……ない、よ?」


トウヤにしては珍しく、口ごもりながら言うと、シェインが不思議そうに「そうか」と応えて、首を捻っていた。

そんな中、トウヤを見て一人だけ笑いを噛み殺している仲間がいた。ルナだ。

ルナは、視線をトウヤ・ミリィと交互に送った後、ムフフと口元に手を当てて笑いを隠すのに必死だった。


「青春って、いつでも起こるのですね」


ルナのこの呟きが聞こえた棗は、訳が分からずに大きな目をパチパチと瞬きして、トウヤとミリィを見たが、何も分からなかったのか、肩をすくめるだけだった……。

その後は、全員で黙々と進み、ようやく(トウヤにしたら、物凄く長かった)4時間が経過した。

今いる場所は、山頂付近だろう。

月明かりが今までよりも明るい、少し開けた場所を見つけた。


「ここで休もう」


トウヤの掛け声で、全員が思い思いの場所に腰かけていく。

トウヤは、シェインと二人で今の自分達の位置と、これから先の距離を確認している。棗は、靴を脱いで足を揉んでいる。ルナはすでに肩で息をしていて、疲労しつくしているのが見て分かる。

そんな中、ミリィは……幹の近くに腰かけて、まだトウヤを目で追っていた。

トウヤも、ミリィがこちらを見ている事は分かっていたが、明日の予定を決める方を優先しているようだ。


「ここからなら、クシャナ国に行くルートとしては……この川沿いまで行くルートが一番近いけど、やっぱり川沿いは危険かな?」


地図から目を離さずに、シェインに尋ねた。

少しの沈黙の後、シェインが地図を人差し指で指し示しながら話だした。


「川沿いだと、敵に見つかる危険性も増すからな。ここは、山頂から東に進んで、こっちの森を進むルートの方が良いんじゃないか?」


どちらにしても、シルメリアの部隊が明日は大挙して、ここら一帯を捜索するだろう。


「……なるべく、見つかり難いルートが良いか。分かった。明日は、シェインのルートを進もう。先頭はまかせたぞ。何かあればルナを頼む。俺は最後尾から全体を見張るよ」


そこまで話すと、トウヤはシェインの肩を叩いて「お前も休めよ」と言うと、ミリィの傍に歩いていった。シェインは、苦笑しながら「お前も休めよ」と、さっきトウヤが言った言葉をそのままトウヤに返し、誰に気付かれるともなくため息を吐く。トウヤは、シェインに向かって軽く手を上げると、ミリィをシッカリと見つめて「話がある」と言いながらミリィの横を通り過ぎて、木々の中へと入って行く。

そんなトウヤの背中を一睨みした後、ミリィは、立上がってトウヤの後をついていった。


「一番休んだ方が良いのって……トウヤじゃないかな~?」


棗が二人が歩いていった方を見ながら、ルナに話しかける。

ルナは肩で息をしながら「夫婦喧嘩は、誰も見ていないところでやるものですわ」と棗に答えた。

体力的に限界なのだろう。ルナはそれだけ話すと目を閉じてしまった。


「そ~なんだ~」


棗は、ルナの寝息を聞きながら寝転び、夜空を見上げるのだった。


さて……場所は変わり。


月明かりに照らされて、周りの木々が淡く輝いている。空には、無数に輝く星が瞬いている。

そんな幻想的とも思える風景の中を、トウヤは浮かない顔で歩いていた。


ミリィと二人きりになったのは良いのだが。

どうやって話を切りだそうか?

散々、悩んだ結果。


「あのさ……ミリィ。何で、俺をずっと見ていたんだ?

何か……言いたい事があるなら、何でも話してくれよ」


正直に聞く事にした。


「………」


ミリィは、黙ってうつ向いたままだ。

両手をギュッと握り締めているミリィは、トウヤから見ると、痛いのを堪えている子供の様にみえた。


「……ミリィ?」


トウヤは、ミリィに近付いて、うつ向いたままのミリィの顔を持ち上げた。


「!!……ミリィ?どうしたんだ?」


ミリィは、泣いていた。大粒の涙をポロポロ溢しながら、それでも表情は怒ったような顔だ。

トウヤは、どうして良いのか分からないままミリィを抱き締めた。


「ミリィ……、マジでどうしたんだ?

話してくれないと何も分からないよ」


トウヤの腕の中で、ミリィは静かに泣いていて、中々泣き止みそうにない。


「……参ったなぁ。なぁ? 本当にどうしたんだ?」


話しかけても答えてくれないミリィにため息を吐きながら、そのままミリィが落ち着くまで抱き締め続けていたが……、やっと落ち着いたミリィは、トウヤの理性が吹き飛ぶ様な上目遣いで、ゆっくり話だした。


「トウヤを……助けたいって思ったわ。でも、貴方が自分で進んで危険に飛び込み続けるなら、私は……助けられない。私は、貴方に死んで欲しくないのよ」


何とも嬉しい言葉だが、伝えるべきトウヤの耳には届いていなかった。

というか……ミリィが腕の中にいて、泣いていた。鼻孔にはミリィの甘い香りが届き、しかもうるんだ瞳で上目遣いという、ある意味最強の攻撃を受けていたトウヤが、理性を保てる訳もなく。

ミリィがリアクションが無いなと、トウヤを見上げた(二回目の上目遣い)途端、


「あ~もう駄目! お前、可愛い過ぎ! 良い匂いするし、体は柔らかいし、もう最高!」


トウヤがさっきよりも強く抱き締めてきた。


「トウヤ……あ、貴方って人は、私がどんな思いで話したかも分からないっていうの?

こ~の馬鹿トウヤーーーー!!!」


言うまでもなく。トウヤの悲鳴とミリィの怒声は、しばらく続いた。


それからしばらくして……。


「ミ、ミリィが言いたいことは……よ~く分かった。分かったから、ホグッ! なぐ、殴るの止めてくれ~!」


最早ずたぼろのトウヤが、泣きながらミリィに頼んでいる。


「ハァ……ハァ……。つ、次また抱きついてきたら……本当に食べるからね!」


大きく肩で息をしながら、ミリィが言うと、トウヤは力強く頷いて「抱きつきません!」とミリィに向かって敬礼した。


「何でそんなにタフなのかも聞きたいけど……まぁ、いいわ。私は……何度も言わせないでよ、恥ずかしいから……貴方には死んで欲しくないの」


トウヤを真剣な表情で見つめながら、ミリィは顔を赤くして話を続けた。


「ここに転移した時も、トウヤは一人で戦ったし、二回目は私が邪魔したからかも知れないけど……死んでもおかしくなかった。それに、シェインから聞いたわよ。貴方は、いつも率先して危険な役をやるって!

それじゃあ……私は貴方を守れない。この世界で、私には……貴方しか頼れる人は居ないの。死なれたら困るのよ!」


ミリィは、そこまで話すと、またうつ向いてしまった。


困ったな。


トウヤは、思わずため息にも似た気持ちを心の中で呟く。

ミリィは、トウヤに死んで欲しくないと言う。トウヤにしても、勿論死にたくないし、そう簡単には死なない自信もある。


「……でもなぁ……」


トウヤは、哀しい表情で切り出した。


「心配してくれて、ありがとうな、ミリィ。でも俺、仲間を守るって、『あの時』誓ったんだよ。だから、何がなんでも仲間を守る。その為に、俺が死ぬことになったら……それは……それでも良いさ」


ミリィは、トウヤの顔を見て驚いた。いつも明るいトウヤとは違う、哀しい表情。

何かを覚悟した言葉であり、哀しみに耐えながらつむいだトウヤの言葉は、ミリィには重い響きとなって心に届いた。


『あの時』とは何だろうか。

何があったのだろうか。


聞きたいと思ったミリィだったが、トウヤの哀しい表情を見て、何も言えなくなってしまった。

そんなミリィを見て、トウヤはバツが悪そうな顔をすると、いつものニコやかな顔をして言った。


「悪い。何か……空気悪くしたな。でも、ミリィの言いたいことも分かるよ。この世界で、一人だもんな……。俺は、簡単には死なないよ!」


多くを語ろうとしないトウヤは、話は終わりとばかりに来た道を戻り始めていく。

そんなトウヤを背中から服を掴んでミリィが止める。

しかも、トウヤが振り返ろうとすると、いきなりミリィが背中から抱きついてきた。


「…………ミ、ミリィ?」


上擦った声で、ミリィに問いかけるトウヤ。

硬直したトウヤは、ミリィの両腕が背後から伸びてきて、トウヤの腹部に腕をまわした事に更に驚いて、ただ口をパクパクと動かしていた。そのまま、何もできずにトウヤが戸惑っていると、ミリィの声が聞こえてきた。


「私は……貴方を仲間だって認めてるよ。だから、私は貴方の事が聞きたい。貴方が知りたいなら、私の事を話すわ」


話が終わると、ミリィはトウヤから離れた。

恐る恐る、といった感じでトウヤが振り返ると、手を後ろで組んでトウヤを見つめているミリィがいた。

嬉しそうに微笑んでいるミリィの顔が、トウヤには天使に見えた。


幸い、今度は理性が飛ばずに済んだが……。

ミリィは何か話せと目で訴えてくる。


「あのさ、ミリィ……何を話せって?

俺が、何で良く理性が飛ぶとか……そんなので……いいわけ無いよな!

分かってるから睨むなよ!冗談だって!

でも、何を話したら良いか分からないから、お前から聞いてくれよ。何でも答えるから」


トウヤが諦め口調で話した途端に、ミリィの目がキラリと輝いた気がした。


「色々、聞きたいけど……そうね、まずは貴方の家族は?」


トウヤは、ミリィの質問に一つずつ答えていくことにした。


「家族か?

両親と弟が一人で、行方不明のジジイが一人いる」


苦々しい顔で答えるトウヤ。あまり良い思い出を、思い返していないようだ。


「行方不明って……どうして?」


「やっぱり聞くよな」


トウヤは、盛大にため息を吐きながら、慣れた口調で話し始める。


「今から10年前に『ドラゴンを探す』って書き置きして、何処かに出て行った」


トウヤの言葉に、ミリィは驚いて聞き返してきた。


「えっ? ドラゴンを探すって……どうして?」


ミリィの質問に、トウヤは「さぁね」と肩をすくめるだけだ。


「元々、ジジイは探検家で……俺は子供の頃からずっと、ジジイにドラゴンの話を聞かされて育ったんだ」


トウヤの記憶に、鮮明に残っている光景。

それは、トウヤを椅子に縛り付けて、ドラゴンの話を目を血走らせながら話す祖父の姿だった。


「遠い昔、人とドラゴンは共に暮らしていた。ドラゴンは人に火と魔法を教え、自然と精霊に感謝する事を教えた。人は、ドラゴンに感謝しドラゴンの為に供物を捧げ、ドラゴンの良き友人であろうと努めた。しかし、欲深い人間は、ドラゴンの持つ力に憧れ、ドラゴンの永遠とも言える命を欲した。そして、幾人かの愚かな人間が、ドラゴンに刃を向けた事で、ドラゴンは人間に失望し、この世界からいなくなってしまった」


いきなりの言葉に、ミリィは頭に?を浮かべてトウヤを見つめた。

トウヤは、苦笑いしながら「俺が、ジジイから毎日聞かされた話だよ」とミリィに言った。


「ジジイは、そりゃもうドラゴンが好きで好きで堪らない。そんなジジイだった。

だからかな、俺達家族は、いつかジジイは旅に出るだろうって……皆思ってたんだ。

実際、ジジイが書き置きして居なくなった時は、やっぱり行ったんだなって思ったよ」


トウヤの声には、どことなく淋しさがこもっているように感じられた。

ミリィは、そんなトウヤを見つめながら、更に驚く事を話だした。


「貴方が話した『遠い昔――』のくだりは、少し内容が違うけど、私達ドラゴンの間にも伝わる語りよ。

エンシェントドラゴンの中には、4千年以上生きているドラゴンがいて、そういったドラゴン達は昔は人と仲良く暮らしていたって……私も聞かされたわ。

でも、人間達にすればもう何千年も昔の話だから、誰も記憶していないし、私達ドラゴンのことは忘れ去られているだろうって……。

トウヤのお爺さんは、何処でその話を聞いたのかしら?」


「え?……ちょっと待てよ。ミリィ達、ドラゴンの間にも伝わるって……。マジで?

じゃあ、ジジイは俺に子供の頃から聞かせ続けたこの内容を、どこかで聞くなり、調べるなりして、真実だって確信してたってことか?」


トウヤの質問に、ミリィは戸惑いながらも頷いた。


「……ちょっと待てよ。と言う事は……」


そんなミリィを見つめ、あごに手を当てたトウヤが、考えながら言葉を紡いでいく。


「俺の家に、ジジイが使ってた書斎がある。その書斎を調べれば、ミリィを元の世界に還す方法が、分かるんじゃないか?」


トウヤは、自分で言った言葉に、一瞬ドキリとした。


あれ?

何で俺、ドキリとしたんだ?


そんなことを思いつつ、不思議と自分の気持ちが分からないまま、トウヤは話を続ける。


「この任務が終わったら、ジジイの書斎を調べよう。帰る手掛かりが有るかもしれないぞ!」


トウヤは安堵の表情を浮かべて、ミリィに「良かったな!」と声をかけたが、ミリィは何故か怒っていた。眉間にシワを寄せて、円らな瞳を目一杯開かせて、トウヤを睨んでいるミリィに、トウヤは戸惑ってしまった。


「何だよ? 何で怒ってるんだよ? 帰れるんだぞ!

そりゃ……絶対に帰れるって保証は無いけど、でも可能性が出てきたんだ!

嬉しくないのか?」


ミリィに問いかけるが、ミリィは怒ったままで何も言ってこない。ただトウヤを睨んでいる。

トウヤにしたら、訳が分からない。

盛大に頭に?を浮かべながら、ミリィに視線で何か話してくれと訴えた。


「貴方は、私が帰っても良いの?」


「……え?」


再び思考停止したトウヤは、戸惑い気味に言葉を続ける。


「ミリィ? お前ひょっとして、帰りたくないのか?」


トウヤの質問に、ミリィが頬を赤く染めると、消えそうな声で「帰りたいわよ」と呟いた。


「だったら、喜べよ。帰れるかも知れないんだぞ?」


トウヤは、ミリィが何を考えているのかさっぱり分からない。

不思議な生き物を見る様な気持ちで、ミリィを見つめた。

すると、ミリィのこめかみに青筋が浮かんだかと思えば……。いきなり右手を空高く掲げると、右手の先に小さな炎が灯った。小さな炎は、どんどん膨れあがっていき、直径2mくらいの火球が出来上がる。


「え?え?エエエッ!ちょっと待て!意味が分からん!何だよ!

待って!止めて!落ち着いて!

ミリィさん!大きく深呼吸しよう!

ハイッ!吸って~!吐いて~!リラックスしよう!」


トウヤの懸命な説得(?)も虚しく。


「こ~の、馬鹿亭主がーーー!!!」


ミリィの右手から、火球が放たれた。


「イヤーーー!!!」


火球をまともに受けて、空高く舞い上がりながら「何で亭主?」とツッコミを忘れないトウヤだった。


しばらくして……。


プスプスと焦げているトウヤを横目に、ミリィはさっぱりした顔つきで、コホンッと小さく咳払いした。


「ホラ、まだ話しは終わってないよ。トウヤ!早く起きてよ!

次は……、そうね。貴方の質問に答える!

何かない? 何でも答えるわよ!」


ガクガクと震えながら、トウヤは何とかミリィに言った。


「お前……お前ってヤツは……俺がこんな状態なのに、何か質問してだと?

休ませろよ。3時間しか休憩出来ないのに……、その大切な時間を割いてお前と話してるのに、ゆっくり休んで体力回復させろよ」


トウヤの懇願は、ミリィの「ダメ」と言う一言で呆気なく絶たれてしまった。

泣く泣く、ミリィに質問する事を考えると、意地の悪い顔をして、トウヤはミリィに質問した。


「スリーサイズは……待った!!何でも答えるって言ったじゃないか!!……俺が悪かったから、火の球作るの止めてくれ!!

それじゃ、ミリィはこの世界にくる前は、どんな生活してたんだ?」


トウヤの質問に、ミリィは待ってました!と言わんばかりの嬉々とした顔で話だした。


「私達ドラゴンは、普段は同じ種族で村を作って生活してるのよ。私は、村の若い子達の中でも一番魔力が強くて、魂を鎮める神子として、魂塚たまつかで死んだドラゴンの魂を鎮める役目を担っていたのよ!」


……ミリィ、その大きな胸を張るの止めてくれ。襲いたくなるから

とは口が裂けても言えないトウヤだが、話よりもついつい胸に目がいってしまう。

そんなトウヤをよそに、ミリィの話は止まらない。


「神子になったドラゴンは、村の祭事をとりしきったり、毎朝先祖の魂に祈りを捧げたりして、忙しい毎日を過ごしてるの!」


明らかに凄いでしょう?褒めなさい!と言わんばかりの雰囲気で話すミリィに、トウヤは「凄いな」と気のない返事を返すが、ミリィは全く気にしない。むしろ、勢い付いたようだ。


「凄い? やっぱりそう思うでしょう?

父様も、母様も、凄く喜んでくれたわ!

私は……選ばれたドラゴンだって……でも、寂しかった」


「??……寂しかった?」


ミリィのいきなりのテンション降下に戸惑いながらも、トウヤが聞き返す。


「だって……魂塚には誰も居ないのよ。在るのは冷たい石碑だけで、家族にも……友達にも会えないの。ただ毎日先祖に祈りを捧げて、家族に会えるのは祭事の時だけ。そんな毎日を……二百年以上繰り返したわ。寂しいって何だろう?って私が考え出した時だったのよ。この世界に召喚されたのは……」


なるほど、だからミリィは「独りは嫌だ」と言ったのか。

ミリィと初めて出会った時の事を思い返しながら、トウヤは納得していたが、ここで、また一つ気になる事が……。


「ミリィ、怒るなよ。お前って……いったい何歳なんだ?」


恐々としながら、ミリィに質問すると、ミリィは特に怒った様子もなく、こう言った。


「そうね……今年で丁度1250歳になるよ。ドラゴンの中では、まだ成竜してない年齢なのよ」


「……せん、にひゃく、ごじゅう?……て! どんだけ長生きだよ!

っていうか、まだ成竜じゃないってことは、人間にしたら、未成年ってことですか!

ドラゴンって、あり得ないくらい長生きなんだなぁ。俺達人間と、比べるだけ失礼なんだろうけど、何か……それだけ生きてたら、生きることに飽きそうな気がする」


トウヤがそう感想を言うと、ミリィも笑いながらトウヤに答えた。


「仕方ないよ。私達ドラゴンは中々、成竜にならないし、成竜になるまでに魔力が強くならなければ死んでしまうの。だから、子供のドラゴンが死ぬことも珍しくないし、成竜になったらなったで、独り立ちの為に世界中を旅して、見聞を広めなきゃいけないんだけど、そのまま村に帰って来ないドラゴンもいて、色々と大変なのよ」


何とも、言い様のないドラゴン社会。

でも、トウヤには魅力的だと思えた。


「もし叶うなら、一度行ってみたいな」


トウヤの、心からの呟きだった。

そんなトウヤの心からの呟きを聞いたミリィは、嬉しそうな顔をして、トウヤの両手をシッカリと握ると「行こうね」と言いながら、トビキリの笑顔を見せた。

良く理性が保てると自分で感心しながら、トウヤはミリィの言葉をかみしめる。


いつか、この戦争が終わったら、ミリィの世界を旅しよう。

ミリィに村を見せてもらって、ミリィの友達や両親にも会ってみたいな。


そう思わずにはいられない。

だが、多分、この願いは叶わないだろう。

トウヤは、これからも危険な任務をこなしていくし、仲間を守る為に無茶なこともするだろう。

戦争が終わるまで生き残るのは、難しい。

それでも、今だけはミリィの世界を旅するという夢を見ても良いはずだ。

目の前にいる自称『嫁さん』のドラゴンを見つめながら、トウヤはこれからもこの寂しがりなドラゴンを守っていこうと誓った。

その為にも、まずはこの任務を終えてホムラへ帰ることだ。

そして、ミリィが帰る手掛かりを探そう。


「……そうと決まれば。ミリィ、明日は今日よりも大変な一日になる。もう休もう。

俺達の話はまた今度、ゆっくり話をしよう。」


どんなにタフな人間でも、徹夜は辛い。明日の為にも睡眠をとるべきだ。

ミリィは、少し不満そうな顔をしつつ、渋々トウヤに従う。そのまま二人は、皆がいる場所へ戻り始める。


「ミリィは、疲れてないのか?」


緊張していたのだろう。やっと休めると思った途端に、急激な眠気がおそってきた。

眠そうに目をこすりながら、トウヤがミリィに尋ねると、ミリィは、「どう言ったらいいかな……」と少し考えて話だす。


「私は、1日くらい寝なくても平気なのよ。寝溜めが出来るっていうのかな?

1日や2日くらいじゃ……疲れはするけど、貴方みたいに、倒れそうになる程じゃないわね」


ミリィの異常な体力を聞きながら、トウヤは心底羨ましそうに呟いた。


「そりゃ、凄いな」


そのまま歩いていき、ようやく皆のところに着くと、既に全員が寝息をたてていた。

トウヤも、やはり疲れていたのだろう。直ぐに横になると、あっという間に寝息をたてだしてしまう。

ミリィは、トウヤの隣に座って、しばらくトウヤの寝顔を見つめていたが、何を思ったのか、トウヤを起こさない様に注意しながら、トウヤの頭を持ち上げて、また膝枕をしてあげた。


「感謝しなさいよ」


そう言いながら、トウヤの頭を撫でるミリィは、満たされた顔をしていた。

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