向かうはクシャナ国!
任務決行の朝。
トウヤ達5人は、カエン本部入口に集まっていた。
「バルゴ隊長に確認しましたが、やはりクシャナ国に直接転移することは出来ないそうですわ。転移するなら、クシャナ国とシルメリアとの間にある山脈が、一番近いようです」
ルナの言う通りであれば、シルメリアの部隊と鉢合わせする危険があり、なおかつクシャナ国の部隊とも鉢合わせする危険もある。
クシャナ国の部隊であれば、戦闘になる危険は少なくて済むが……。
トウヤが考え事をしていると、ミリィが質問してきた。
「どうして、クシャナ国に転移出来ないの?
カードを使えば、転移出来るんでしょう?」
ミリィの質問に、トウヤが答える。
「カードは、簡単に言えば入口なんだよ。入口があれば、当然出口が必要になる。クシャナ国には、その出口が無いんだ。だから入れない。入る為には、近くまで転送して、歩いてクシャナ国に入るしか無いんだよ」
トウヤの答えに、ミリィは分かったのか、分からないのか、曖昧な表情で頷いた。
「とにかく、行こうか。早めに行動したいからな」
シェインが、やんわりと意見する。トウヤは、シェインに頷いて、カードを取り出した。
「みんなっ! 生きて帰ってこよう!」
カードから白い光が溢れ出し、全員を包み込んでいく中、トウヤの言葉に全員が力強く頷いた。
「で……、いきなりコレか?」
両手を高々と上げて、降伏するトウヤ。
回りには、こちらに銃口を向けるシルメリアの部隊が、ざっと数えても15人はいるだろう。
「ルナ? この出口は安全じゃなかったのか?」
ルナに聞いたところで、分かるはずはないのだが、つい聞いてしまう。
「私が確認したのは、出口の場所までですから、まさか転移した瞬間にシルメリアの部隊が待機しているなんて、誰も思いませんわ」
確かに、もっともな意見だ。
誰も、敵の部隊が待ち構えていると知っていながら転移するバカはいない。
「偶然にしては、出来すぎだろう……嫌になるよなぁ」
思わずぼやいてしまうが、問題はこの現状をどうするかだ。
とにかく、皆を安全な場所に逃がす必要がある。トウヤが振り返って皆を見ると……、
「うわぁ。流石はミリィだよ」
思わずトウヤは場違いな感想とともに苦笑してしまう。何故なら、ミリィだけは腕を組み、銃口を向けてる敵兵士を威嚇するように睨み付けていたからだ。
「皆が両手を上げてんだから、一緒に真似だけでもすれば良いのに」等と思いながら、トウヤは大きなため息を吐き出してしまう。
「大胆というか……何というか……」
呆れながらミリィを見たが、ミリィは睨むのに必死でトウヤに全く見向きもしない。諦めて、トウヤはシルメリアの部隊に向かって声をかける。
「俺がリーダーだ。俺が大人しく投降するから、他の隊員は見逃してくれないか?」
トウヤの問いかけに、シルメリアの部隊は誰一人答えてこない。
当たり前と言えばそうなのだが、誰か話しかけるなり何なりして欲しい。
トウヤは、もう一度「俺がリーダーだ」と繰り返し、相手の出方を伺った。
すると、40代くらいの一人の男がトウヤの前に歩み出る。
「貴様は、カエンの朝霧トウヤだな?
我がシルメリアにおいて、貴様は要注意人物と言われているが、先の作戦において、死亡したと聞いていたが?」
トウヤは、盛大に舌打ちした。まさか、自分の顔が知られているとは思いもしなかったからだ。
有名になったものだと、自分でも呆れてしまう。
「うっかり生きてたってことで!
それより、さっきの話だ。どうする?
俺が投降するから、他のヤツは見逃してくれないか?」
トウヤの提案に、男はニヤリと見下した笑みを浮かべて、トウヤに言った。
「この現状で、誰が貴様の提案に乗ると思うのだ?」
「……やっぱり、そうだよなぁ。俺だって、こんな状況だったら誰も逃がさないよ」
そう呟き、トウヤはもう一度軽くため息を吐くと、いきなり行動に出た。
緑のカードを取り出し、ミリィ達のいる足下に投げて突き刺す。
すると、緑のカードは輝き、トウヤを除く4人が光の膜に包まれた。
その間に、トウヤは魔力を解放し、一挙に3mほどの高さまでジャンプする。
全員が呆気にとられている間に、トウヤは魔銃を抜き放ち、敵の真上から魔弾を放っていく。突然の攻撃に対象出来ずに、数人の敵が頭を打ち抜かれ、そのまま地面へと崩れ落ちていった。
それでも、何とか把握した敵がトウヤに向かって発砲する。
だが、そのときにはトウヤは、敵の頭上を飛び越え、敵の背後に降り立つと、間髪入れずに近くにいた数人の敵を絶命させる。
敵は口々に「どうなって……」だの「早い!」だのと叫んでいるが、トウヤの動きに誰もついてこれない。
あっと言う間に、40代くらいの男以外を絶命させてしまった。
「さてと、アンタ一人だけど……どうする?
死ぬ?生きる?」
銃口を男に向けて、トウヤは軟らかな口調で問いかけた。
対する男は、青い顔でトウヤを凝視したまま、声にならない悲鳴をあげている。
シェイン以外の仲間も驚いているらしく、ミリィに到っては、口をアングリと空けて、目をこれでもかと言うくらいに見開いている。
「お前、何て顔してんだよ。何だ?
ひょっとして……俺がメチャクチャ弱いヤツと思ってたのか?」
トウヤの問いに、ミリィだけでなく、棗とルナも全力で頷いていた。
「……俺って、そんなに弱い人に見えてたんだ……」
まさかの女性人全員の肯定に顔をひきつらせ、トウヤは男に向けて声を張り上げる。
「何で俺のこと知ってたんだ?
後、この場所はどうして分かった?
死ぬか?生きるか?
生きたいなら、話せやコラッ!」
完全に八つ当たりではあるが、とにかく情報は入手しておきたい……と言う事にして。トウヤは、男に問いかける。
男は、どうするべきなのか一瞬迷ったようだが、先程見せられた恐怖からか、直ぐに話し始めた。
「貴様の事は、シグルド大佐からの死亡報告にあった。この場所は、我が軍が開発した魔力探知機で発見した」
魔力探知機……。
つまり、魔力の発動箇所を特定していたということだろうか?
実は、転移魔法とは出口となる魔法陣を作った場所にしか作用しない。
つまり、カードを使って移動するときは魔法陣の上にしか転移出来ないのだ。
だからこそ、転移するときには魔力が発生するわけだが、今の常識では、そんなに簡単に感知されるものという認識は誰も持っていない。
「魔力探知機は今持っているのか?」
シェインが男に問いかけると、男は、首を振って否定した。
「魔力探知機は、我がシルメリアの研究所に設置されている」
「と言うことは、それだけデカイってことか……。このことを報告したら、また任務で『魔力探知機を破壊せよ』とか言われるんだろうなぁ。全く面倒くさいものを造りやがって」
「聞くんじゃなかった」と言いたげな顔で、トウヤが男に銃口を向けたままぼやいいていると、今迄黙っていた棗が、いきなり男へ問いかけた。
「ネェ~。トウヤは死んだ事になっているってどういうこと?」
「棗~!
いきなり質問して、俺の死亡報告のことかよ。話のこしを折るなよなぁ」
トウヤが呆れ顔で言うと、棗ではなく、ルナが「うるさいですわ」と一喝してトウヤを黙らせる。
「何か……鬼気迫るって感じだな」
他人事のようにトウヤが呟くと、ミリィがトウヤに近づいて小声で話しかけてくる。
「トウヤ。貴方ってあの二人と、何も関係無いのよね?」
「……へっ?」
訳が分からず、不思議な顔でトウヤがミリィを見ると、ミリィが「だから……」と歯切れ悪く何かを呟いているが何も聞こえない。
仕方なく、トウヤはシェインに目配せして、シェインが代わりに男に銃口を向けた。
「どうした?
良く聞こえないし、何が言いたいのか分からないぞ?」
トウヤが、俯き「だから……」とまだ何かを呟いているミリィを覗き込んで聞くと、ミリィは顔を真っ赤にして口調を強めて言った。
「だから!
あの二人と、その……そういった関係になってないかって聞いてるのよ!」
「………」
考えること約数秒。
意味を理解したトウヤが慌てて声を上げる。
「ナイナイ! 無いから!
俺ってモテないし、あの二人は妹と同僚だから!」
両手を思いっきり振りながら、全力で否定するトウヤ。
それでも、ミリィは疑いの眼差しでトウヤを見てくる。そんなミリィにトウヤが更に何かを言おうとしたところで、棗とルナの怒声が響く。
「「そこっ! うるさい!」」
慌ててトウヤだけでなく、ミリィまでが黙って棗とルナの方へ目を向けた。
「今まで、シルメリアの死亡報告に載った人は確実に死亡していました。それが、トウヤは死亡していません。いったい、どういうことですか?」
「ルナさん。何だか……俺は死亡していなければいけない様な話し方だな?」
真剣そのものの顔で男へ問いかけるルナに、トウヤは傷ついたような表情でぼやいてみせるが、ルナは聞いていない。
「大体、そんなに危険な任務だったの?
アンタ達、いったい何をしたのよ!」
一方の棗は、トウヤの身を案じてくれているのような問いかけであった。そんな棗のおかげで、トウヤも少し嬉しそうだ。
と、周りの様子など見えていないのか、ルナと棗の問いかけに、男は律儀に答える。
「確かに、死亡報告された人間が今まで生きていたことはない。だが、今回のシグルド大佐の任務は特殊な任務であり、過去誰も成功したことのない任務だった。だからこそ、任務の成功こそが重要であり、シグルド大佐以外は誰も生きて帰って来なかったという結果から、死亡報告も通ったのだろう。俺は、任務の内容までは知らない」
何とも煮えきらない答えだ。二人とも、何と言って良いのか分からない顔をしている。
「任務の内容は、魔法陣を使っての古代魔法を使うことだった。俺はシグルドってヤツに捕まって、危うく死にかけたんだ」
「でも、魔法は不完全だったのよ。制御が難しくて、皆逃げるのに必死だったわ」
そんな男の話に合わせるように、トウヤ・ミリィと続けて二人に説明する。すると、露骨に疑わしげな視線を全員がトウヤとミリィに向けてきた。
「本当だって!」
「嘘じゃないわよ!」
二人揃って両手を振って、必死に言い募る。二人の息のあった行動に、棗は再び何かを言いたげな視線を向けた。
「息ピッタリだね~。何か、ムカツク」
どうしろと言うのだろうか。
トウヤもミリィも、どうにでもしてくれと思ってしまう。
「話が進まない、今はこの男をどうにかする方が先じゃないか?」
そんな空気を読んだのか、シェインが真面目な提案をして話を方向転換させる。すると、直ぐにトウヤが提案にのる。
「そうだな! 取りあえず、コイツを縛ってカエン本部へ転送しよう。ミリィ、お前に渡したカードの中から、青色のカードを出してくれ。棗は、出口の魔法陣にもう一度魔力を注入して、魔法陣の補強を頼む。ルナはカエン本部に連絡。捕虜を送ると伝えてくれ」
キビキビと指示を出しながら、トウヤは男を縛っていく。棗とルナも、何かを言いたげな顔ではあったが、トウヤの指示に従って準備し始めた。
一行は、男を転送した後、死体を一ヶ所にまとめて、魔力を使って死体を土の中へと埋めて、クシャナ国へと移動し始めた。
「まだ時間もあるから、出来るかぎりクシャナ国に近づこう。最初から敵に遭遇したから、また見つかるかも知れない。みんな、注意して進もう!」
トウヤの掛け声に、皆が頷く。何としても、今日中に山岳地帯を越えたかった。
黙々と進む一行。
途中で休憩をはさみながら進んでいき、太陽が傾きかけるまで、敵に遭遇することもなく進む事が出来た。だが、山岳地帯を越えるには、まだかなり距離があり、今日中に越えるのは無理だ。仕方なく、トウヤは川辺へ移動して、野宿する場所を探した。運良く、暗くなる前に岩影で休める場所を見つけた。
「今日はここで、夜を明かそう。見張りは俺とシェインで交代しながらするから、三人は休んでなよ」
トウヤはそれだけ言って、シェインに目配せすると、一人で周辺の見回りに行った。
「アッ! トウヤ!」
ミリィがトウヤを呼び止めようとしたが、トウヤには聞こえていなかったのか、もう森の中に入ってしまっていた。トウヤを呼び止めて、一緒に行くつもりだったミリィは、仕方無く皆のいる場所に戻っていく。
「何でも一人で決めてしまうなんて……勝手よ! 私もいたほうが、絶対安全なのに!」
トウヤが待ってくれなかったことで、ミリィはついつい文句を言ってしまう。
「アイツなりに、頑張ってるんだ。そう文句を言わないでやってくれ」
ミリィの独り言が聞こえたのか、シェインが苦笑いしながらミリィを宥める。ミリィは、シェインをジッと見て、シェインだけでなく、棗とルナからも少し距離を置いた岩場に腰掛けた。
「今日のトウヤを見て、驚いたかい?」
シェインが、ミリィに問いかけると、ミリィは黙って頷いた。
「アタシもビックリした~! トウヤって、あんなに強かったんだね~」
シェインの言葉に棗が答える。棗の側でルナも頷いていた。
シェインは、そんな3人を見て、少しの間何かを考えた後、「アイツは……」とトウヤの事を話だした。
「俺とトウヤは……何度か一緒に任務をこなした事があるが、俺は任務の度にトウヤに助けられた。トウヤは、普段はあんな感じでオチャラケているから、皆も分からないはずだが、任務の時は率先して、いつも一番危険な役をこなすのがトウヤだ。ミリィは、アイツの体を見てるから分かるだろう?
アイツの体は……傷だらけだ。しかも、ほとんどの傷は誰かを助けて出来た傷なんだ」
ミリィは、トウヤの体をまともには見ていない。だが、時おり見る背中や肩や腕に沢山の傷痕が残っているのは知っていた。
「これは、これから先の任務に関係することだから、先に言っておくが……、トウヤは危険な役をこれから先も率先してやっていく。皆はトウヤの出す指示に従って欲しい。……棗、睨まないでくれ。それが、皆が生き残る一番効率の良い作戦なんだ。トウヤに任せておけば、大丈夫だ。トウヤは、誰よりも危険な役に慣れてるし、状況判断も誰よりも早い。だから、トウヤを信じてやってくれ」
「そんなの知らない!」
ミリィは、シェインを睨んで、拳を震わせながら声を荒げる。
「今までは、そうかもしれない。でも、これからは違う! トウヤは……私の夫なのよ! 私の居ないところで、勝手に傷付く事は許さない!」
自分で言って恥ずかしくなったのか、ミリィは顔を真っ赤にしてうつ向いている。シェインもルナも、そんなミリィを驚いた様子で見ていた。
「じゃあ、アンタがトウヤを守るの?」
そんな何とも言えない雰囲気の中、棗だけがミリィに挑むような視線を向けながら問い掛ける。
「アンタは……トウヤよりも強いの? 守るって……確か昨日もそんなこと言ってたよね? ホントに守れるの?」
いつになく静かな声で、棗がミリィに問いかける。
すると、ミリィはしっかりと棗を見て言い切った。
「守るわよ。貴方達の誰もが守れないと言っても、私はトウヤを守る」
ドラゴンは、一度仲間と認めたものに対して、決して牙を向けない。
そして、仲間と認めたものは、必ず守る。
それがドラゴンの掟であり、ミリィの信念でもあるのだ。
ミリィは、棗をジッと見つめると、シェインに向かって「トウヤを見てくる」と声をかけて、トウヤの後を追って森に入って行った。
「トウヤも、凄い嫁さんを貰ったもんだな」
見えなくなるミリィに向かって、呆れ声でシェインが呟くその隣では、棗がギュッと唇を噛み、両手はズボンを握りしめて、ミリィの向かった方を睨んでいる。
ルナは、小さく溜め息を吐いて「不器用な棗ちゃんと……不器用なミリィさん。似た者同士ですわね」と、誰にも聞こえないように呟いていた。
一方のトウヤは、川辺から戻って、出口の魔法陣に向かって移動していた。
途中で、前方から足音が聞こえ、急いで木の上へと登って身を隠して、気配を消した。そのまま待つ事数分。
シルメリアの部隊らしき人影が見えた。どうやら、トウヤの予測は間違いでは無かったようだ。
敵が言っていた魔力探知機と言う装置。
その装置が、魔法陣が補強された事を探知しているはずだと考えて、トウヤは敵が近くを捜索していると予想していたが、その通りだ。
「随分と正確な装置みたいだな。敵の数も、ざっと数えて……20人ってとこかな? さっきの部隊を全滅させたのは、もうシルメリアの軍には知られているだろうに、20人くらいの人数ってことは、それなりの精鋭部隊かな? それとも、見くびられてんのかな?」
いずれにしても、このまま部隊が引き返すなら良し。引き返さなければ、全滅させるしかない。
ただ、余り部隊を全滅させるのは得策ではない。今日1日で二つの部隊が全滅したとあれば、シルメリアも黙ってはいないだろう。大人数で、この周辺を捜索しはじめるに違いない。
トウヤは、ひたすら「こっちには誰も居ない」と心の中で呟きながら、敵が移動するのを待った。
トウヤの祈りが通じたのか、敵が「一度引き返す」と掛け声をあげている。木の上で、一人ガッツポーズするトウヤ。
だったのだが……。
「トウヤー!!」
川辺の方から、ミリィの声が聞こえ、咄嗟に身構える敵の部隊。
盛大に心の中でミリィに文句を言うトウヤ。
「頼むよ! 何で待っててくれなかったんだよ! シェインのヤツ、何やってんだ! ええいっ! 仕方ない!」
カードを一枚取り出して、魔力を注入すると、トウヤは素早く敵部隊の中央付近にカードを投げた。カードが地面に当たると同時に、カードから大量の電気が辺りに放電していく。突然の事に、敵部隊が驚いた隙を付いて、トウヤは木の上から発砲する。不意を突かれた敵部隊の内、3人がまともに攻撃を受けて絶命するが、他の敵はその場から散開して、木の陰に隠れた。
「最悪だな。精鋭部隊が来てるみたいだ。動きが良い」
トウヤも、発砲した場所から直ぐに移動して、木の上を移動しながら敵を探す。
木の陰に、二人隠れているのを見つけ、直ぐに発砲する。一人は避けたが、もう一人には当たった。避けた方は、直ぐにトウヤの位置を見抜いて発砲してくる。何とか、魔弾を避けたトウヤだが、敵も直ぐに移動してしまい、見失ってしまった。
「……今ので4人。後16人くらいか」
トウヤは、少し焦った。最初の攻撃で、少なくとも後10人くらいには敵の数を減らしたかったが、敵の動きは予想した以上に良いのだ。
これでは、トウヤの方が先に疲れてしまう。それでも、トウヤは木の上を移動し続け、敵を見つけては発砲するといった戦法を続けた。
攻撃を続けたのはイイが……。
敵に当たらない。しかも、正確にこちらの位置を見抜いて発砲してくる。
かすり傷が増えていくトウヤに対して、敵は確実にトウヤを囲んでいく動き方をしている。途中で、何とか二人は仕止めた。だが、後14人くらいの敵がいる。
全滅させなければ、意味がない。焦りながら、木の上から、下に降りるべきか考えていると……。
「トウヤー。こっちにいるの?」
直ぐ近くで、ミリィの声がして慌ててミリィを探す。
トウヤから、10mも離れていない所に、ミリィを見つけた。
「あの、バカ! あんな大声出して歩いてくんじゃない!」
思わず小声でミリィを罵りながらも、急いで辺りを見ると、ミリィに銃口を向ける敵を見つけた。
「ミリィ! 伏せろーー!」
トウヤは、叫びながら木から飛び降りると、ミリィに銃口を向けていた敵を撃ち、キョトンとした顔のミリィの前に立ち、魔力の壁を作った。直ぐに、辺りから魔弾が撃ち込まれてくる。
「クソッ! 防げない!」
トウヤの作った壁は、あっさりと砕かれてしまい、トウヤはミリィを抱き締めて自分の体を盾に魔弾からミリィを守ろうとした。
その途端、無情にも魔弾はトウヤの右肩・右足・左腹部へと命中していく。
「トウヤ!」
胸元で、ミリィの呼びかける声が聞こえるが、喉まで上ってきた血のせいで声が出ない。何とか我慢して、ミリィを見て笑いかけるのが、精一杯だった。喉から口にまで上がってきた血を止められずに、咳き込んでしまう。ミリィの顔に、トウヤの血がかかる。
「……ガハッ……クソッ……悪い。血が付いたな」
ミリィに、「このまま逃げろ」と言いたかったが、膝から力が抜けてしまい、言う前に膝立ちの状態になってしまった。
そのまま、倒れていくトウヤを、ミリィが抱き締めた。
「誰だ……トウヤを撃ったのは……誰だ!」
完全に我を忘れたミリィが、トウヤを抱き締めたまま声を荒げる。するとミリィからは死角になって見えないところから、声が聞こえてくる。
「大人しく投降するなら、これ以上の危害は加えない。貴様は見たところ、一般人の様だな? その男を棄てて、こっちに来るんだ!」
この「その男を棄てて」という言葉と、トウヤがもう一度、吐血したのが決定的だった。ミリィは、完全に我を忘れてしまう。
「貴方達は……もう二度と朝日を見ることはないと知りなさい。私を怒らせた事を、死んで後悔するがいい!」
ミリィが、右手を挙げると右手に光が集まっていく。その様子を見た敵が、ミリィに向けて次々と発砲してくるが、ミリィの張った魔力の壁は襲いくる魔弾を全て弾き返していく。敵は、魔力の強さに驚いたのか、発砲するのを止めて、各々が魔力を高めて攻撃してきた。純粋な魔力の塊がミリィに迫ってくる。だが、これも魔力の壁に阻まれてしまう。
敵が手間取っている間に、ミリィは右手に集まった光を束ねて、右手を前方に向けた。
「光に切り裂かれなさい!」
ミリィの声に合わせて右手から、光がまるで蛇の様に唸りながら幾つも放たれていく。
光の帯は、まるで意思を持っているかのように、隠れていた敵一人一人に向かって伸びていった。
敵は、襲いくる光の帯に戸惑いながらも身を捩らせ、光の帯を避けるが、光の帯は執拗に敵に向かって伸びていった。避けきれずに、光の帯が当たると、光の帯は破裂して敵に降り注いだ。そして、光に切り裂かれて絶命する。
10人以上いた敵は、ミリィの攻撃であっと言う間に全滅してしまった。
「トウヤ! ねぇ、トウヤ! まだ生きてるわよね?
直ぐに回復させてあげるから、心臓を止めないでよ! 死んだら、食べるわよ!」
どんな励ましなのか、聞いてる方は軽くヒク言い方だが、ミリィは泣きそうな顔で、必死にトウヤの傷口に魔力を送って傷を塞いでいった。
気絶したトウヤを治療しながら、ミリィは愕然とした。
トウヤの腹部の傷を塞ぐ為に服を脱がせたのだが、シェインの言った通り、傷だらけなのだ。
切傷や刺傷だけでなく、撃たれたような跡もいくつもある。
「トウヤ……貴方は、いつか必ず死ぬわよ」
思わず出た言葉だったが、言葉にすると一層現実味をおびてしまう様な気がした。
首を振って嫌な思いを吹き飛ばし、ミリィはトウヤの治療に専念した。
腹部の傷は塞いだ。後は右肩と右足の傷だ。
「今は傷を塞ぐ事に専念しないと」
自分にもう一度言い聞かせるミリィだが、どうしても考えてしまう。
こんなに傷を作って、それでもシェインの言った通り、トウヤは危険な役を自ら進んで引き受けるのだろうか。
「何で……こんなに傷だらけにならなきゃいけないの?
トウヤは、死にたいの?」
答えを出せるハズのない、気絶しているトウヤに向かって、問いかけ続けるミリィ。
取りあえずの応急処置は済んだ。
トウヤの顔色も良い。
これなら助かると一息吐いたミリィは、トウヤが目覚めたら、さっきまでの想いをトウヤにぶつけてみようと思いながら、今度は今までとは違う事を口にした。
「私は、人間とは、欲深くて……自分が助かる為ならばどんな汚いことでもする種族だと聞いた。だから、私は貴方が『何もしない、話を聞いてくれ』って言った時は、驚いたし……罠かなって疑っていたわ。それなのに、貴方は私に笑いかけて、私の前で寝て、一緒に行こうって誘ってくれた」
気絶していると分かっているからこそ言えたのだろう。
「……ありがとう」と言ってトウヤの頭を膝の上に載せた。いわゆる膝枕をして、ミリィはトウヤが目覚めるのを待った。
膝枕のまま、待つこと暫し……背後から人の足音が聞こえてきた。
もう、すっかり夜だ。
月明かりが照すとは言え、辺りは視界も悪く木々が影をつくり暗い。
ただ、ミリィはその足音だけで、誰が近付いてくるのか分かったようだ。
「棗? 足下に注意しなさいよ」
背後で足音がピタリと一度止まると、次に更に大きな足音となってミリィに近付いてきた。
「そこにいたんだ。トウヤも一緒に……って……何してんの~!
こんな森の中で膝枕なんかして~!」
ミリィが振り向くと、棗は右手に光を生み出し、灯かりがわりとして使っていたようだ。ミリィの付近も照らされ、改めてトウヤの顔色を見れた。
寝息が規則正しく聞こえるし、顔色もさっきより良い。
「タフな人よね。あんなに傷付いて血が出てたのに、今はいつもの寝顔になってる。このタフなところは認めてあげてもいいかな」
優しい笑顔を浮かべて、トウヤの頭を撫でるミリィ。棗は、そんなミリィを見て、またもや面白くなかったのか、嫌味を言った。
「何か、ムカツク。何でトウヤが寝てるのか分からないし、傷付いて血が出てたのかも聞きたいけど……今のミリィの姿を見ると……そんなのどうでもいいくらいムカツク」
どうしよう。少し考えたミリィは、棗を見て言った。
「ルナとシェインは?
一緒にいないの?」
「アンタ達が何時までたっても戻らないから、心配して探しに来たの~!
ルナとシェインは、あっちの方を探しに行ったよ」
棗は、川辺とは反対側の森を指差している。ここから、それ程離れてはいないが、合流するべきなのだろうか。一瞬迷ったが、棗がカードを取り出して、カードから光る鳥を出して飛ばした。時期に、ルナとシェインもここに来るだろう。
「「…………」」
お互いに言葉もなく、居心地悪そうにミリィが棗をチラチラと盗み見る。
棗は、ミリィとトウヤから少し離れた位置で膝の上に各々の肘をたてて、顔を両手にのせている。棗は、居心地悪そうにしているミリィを知っていて、ジトッとミリィを睨んだままだ。正確には、ミリィに膝枕されているトウヤを睨んでいる。
「皆は、ここに来るの?」
たまらず棗に問いかけるミリィ。棗は、ジト目のまま何も応えない。
困っていると、タイミング悪くトウヤが、ミリィの膝を自分の方に引き寄せた。
更に……「ミリィ……無事か……」とミリィを気遣うような寝言を言ってきたせいで、思わず顔を真っ赤にするミリィ。
「ムカツク」
直ぐに棗が文句を言った。
「あ~もう!
何かあるならハッキリと私に向かって、言いたいことを言いなさい!」
ついに耐え切れなくなったミリィが弱音を吐き出す。
一方の棗は、ニヤリと笑うが何も言わない。ただ、顔は笑っているが、目は悲しそうだった。
棗の目を見たミリィは、やっと理解した。棗は多分、トウヤに対して憧れが強いのだろう。棗は……妹が兄を慕う様な気持ちと、初恋の様な気持ちが合わさっているのだと思った。だから、棗自身が今の自分自身の気持ちを整理出来ていない。
どう話したらいいのか分からないのだろう。
「棗は……、トウヤとはどうやって知り合ったの?」
ミリィは、今までとは違う優しい顔で棗に問いかけた。
棗は、驚いたようにキョトンとした顔をした後、落ち着いた声で話出した。
「アタシは、両親をシルメリアの軍に殺された……。その後、両親と同じカエンに入隊することになったんだけど……。トウヤとは、そこで初めて出会ったの。今でも忘れないよ~。最初に私を見た後、いきなりバルゴ隊長に文句言いに行ったの。それでね、『幼い少女まで戦争の道具にするんじゃない!』って……それはもう凄い見幕で隊長に文句言ったんだよ~」
棗は、嬉しそうに話を続ける。
「アタシは、自分の意思でカエンに入隊したんだってトウヤに言ったんだけど、トウヤは頑として聞かなかったの。『お前は……これから色々と経験して大人になってからカエンに入隊したいならすればいい!』って……アタシとは初対面だよ! ビックリしたよ~、アタシ!」
アハハ。と笑い声をあげる棗は、本当に嬉しそうだ。
「アタシね、カエンに入隊して、初めてトウヤに会って……何でこの人は、アタシをこんなに心配してくれるのかなって。不思議だったな~」
この棗の発言に、ミリィも頷いた。
「それ、分かるよ! 私もトウヤに初めて出会った時は、何でこんなに心配してくれるのかなって思ったわ」
すると、ミリィの発言に棗も頷いた。
「ねぇ~! 不思議だよねぇ~!」
共通する話題があるともう止まらない。
「トウヤはね――」
「そうだよ~! 私にも――」
今まで余り話さなかった二人とは思えない勢いで話まくる棗とミリィ。
しかし……、
「そうそう~! アタシがトウヤと一緒に、トウヤの実家にお邪魔した時は、お母さんとトウヤがそっくりでね~。ビックリしたよ~!
ミリィも、もう両親には会ったの~?」
この棗のニコやかな問いかけに、ミリィは慌てた。トウヤの両親のことは聞いたことがない。会った事がないから、どうにも話を合わせられない。これはまずいとアタフタしていると、棗は「アハハ!」と笑ってミリィに言った。
「まだ会ってないんだね~!
仕方無いよ。トウヤは、両親に今の自分がしていることを、知られたく無いんだよね~。だから、アタシがお邪魔した時は、アタシは今してる仕事で知り合ったことにしてたからね」
棗の話を聞いて、ミリィも納得した。
トウヤのあの性格だ。両親にまで心配かけたくないのだろう。分かりやすい。トウヤが、したがりそうなことだ。
「トウヤは、本当に優しい人ね。優し過ぎる人って言った方がいいのかな……」
ミリィの呟きに、棗も大きく頷いている。
「だから、皆トウヤが気になるんだよ。アタシも、シェインも、ルナも何だかんだでトウヤを気にしてるからね。でも、これからはミリィが一番トウヤを気にしなきゃね~! トウヤの奥さんなんだからね~!」
棗のこの言葉は、ミリィにはとても重い言葉に聞こえた。
「私は……」
ミリィは、何かを言おうとしたが、何も言えなかった。
ミリィは困った。どうして、あの時トウヤと夫婦などと言ってしまったのか……。ミリィは、棗には本当の事を言うべきではないかと、真剣に考えていた。
「気にしないでよ~。アタシは別に、ミリィの応援はしないからね。アタシは、アタシでさ……。トウヤの妹としてミリィがトウヤに相応しいか見定めるから!
アタシが、ミリィは駄目って思ったら……」
棗はそこまで話して、ニッコリと笑った。
その笑顔を見て何故かミリィの背筋に、冷たいものが流れる。
「が……、頑張るわ」
頬が引きつりながら、何とか答えるミリィであったが、ふと、棗の背後に人の気配を感じて、奥を見ると、ルナとシェインがこちらを見ているのが分かった。
「アッ! 貴方達は、いつからいたのよ!」
ミリィが、上擦った声で二人に問いかける。話に夢中で気が付かなかったようだ。
「棗ちゃんが、ミリィさんに『トウヤの奥さんなんだからね~』と話しかけていたくらいからですわ。あまりに良い雰囲気だったものですから、会話に入り辛かったですわよ」
ニッコリと満面の笑みを浮かべているルナを、隣でシェインが何とも言えない顔で見ているところを見ると、シェインがミリィと棗に話しかけ様としたのをルナが止めて、隠れて見ていたに違いない。呆れた覗き見根性だ。
「それより、トウヤは何でミリィに膝枕されて寝てるんだ?」
このまま口喧嘩に発展されたら困ると思ったのか、シェインがミリィに尋ねる。
ミリィは、トウヤがシルメリアの部隊と交戦していた事を、かいつまんで(ミリィが最後に全滅させたことは話さず、トウヤが全滅させたことにした)説明した。
「やっぱりそうだったのか。一人でさっさと見回りに行ったから、何かあると思ってたが…そうか、シルメリアの部隊と……全く無茶をするヤツだな。
それで、君が治療して、トウヤはそのまま寝てると?」
ミリィが頷くと、シェインはため息を吐いてトウヤを見つめた。
微かに「バカ野郎が」とシェインが呟いたのが聞こえたが、ミリィは何も言わなかった。
「バカだよね~。一人で戦って、もし死んだら何にもならないのにね~」
ルナも「全くですわ」と頷いている。
「フフフッ。トウヤ、貴方目が覚めたら大変ね」
ミリィは、笑いながらトウヤの頭を撫でた。
それから暫くして――。
目を覚ましたトウヤが最初に感じたのは、頬に当たる柔らかい感触と、甘い匂い、誰かが優しく頭を撫でていることだった。
出来るなら、このままもう少しだけでもジッとしていたい。そう思ったが、頭を撫でる手を掴んで、誰が撫でているのか見てしまった。
「目が覚めた?
どう?動ける?まだ痛むなら、まだ寝てていいのよ?」
ミリィが、優しくトウヤに尋ねる。
トウヤは、そんなミリィを見て、心底ホッと安心した顔をすると、直ぐに上半身を起こして、ミリィを抱き締めた。
「良かった。怪我はないんだよな? 心配したんだ! 良かった……良かった!」
当然だが、トウヤは傍に棗やルナやシェインがいるとは思ってもいない。
ただミリィを心配していただけなのだが、それで話が通る訳もなく。
ミリィは顔を真っ赤にして、どうしようといった感じて周りを見て恥ずかしそうにしているし、シェインはもう呆れ半分、哀れみ半分といった顔でトウヤをみているし、ルナはこれから起こる事をすでに確信して、明らかに楽しそうな顔をしているし、棗は……すでにナイフを抜いて身構えている。
「トウヤ~。ラブラブなトコ悪いけど……もう一回気絶してね~!」
棗の声が無情にも響き渡った後は……。
ミリィから「皆の前で何恥ずかしいことしてるのよ!」と鉄拳が飛び、吹き飛ばされた後は棗のナイフが執拗にトウヤを追いかけてくると言う、謂われのない連携攻撃をくらうことになった。
言うまでもなく。
トウヤはこの後、またもや花畑を見ることになった。
それから、しばらくして……。
「何でだ~! 俺は、ただミリィを心配しただけじゃないか~!
何で俺は殴られて、ナイフで刺されたんだ~! あんまりじゃないかぁ!
そりゃ、ミリィの膝枕は……柔らかくて……良い匂いもして……幸せやっハガアアーーー!!」
段々鼻息の荒くなっていたトウヤを、ミリィの鉄拳が襲う。
「い、いちいち恥ずかしいことを、お、思い出して話さないでよ!」
最早、哀れを通り越して間抜けとしか言い様のない光景に、シェインだけが疲れた顔をして、ため息を吐きだす。
そんな中、パンパンと手を叩く音がして、全員がそちらを見るとルナが満面の笑みで全員を見渡していた。
「ウフフフフッ。さぁ。お馬鹿なトウヤさんを見るのも面白かったですが、そろそろ本題に入りましょうか。トウヤさん、どうして一人で戦闘しようと考えたんですか?」
ルナが真っ直ぐトウヤを見て話す。
ルナの有無を言わさぬ迫力に押されて、トウヤは渋々話だした。
「別に最初から戦闘しようと思ってた訳じゃ無いよ。あの捕虜にしたオッサンの言った、魔力探知機の精度が知りたくてさ……。ホラッ。棗に魔法陣を補強してもらっただろ? ああやって、補強した魔法陣をシルメリアが確認してこちらに来るまで、どれくらいの時間が掛かるのか知りたかっただけなんだ。 ルナも分かるだろ? 今日1日で、シルメリアの部隊が1隊全滅したんだ。立て続けにもう1隊全滅したら、敵だって黙ってない。明日からの俺達の行動だって……動きにくくなるだろ? だから、本当に偵察するだけの予定だったんだ。そしたら、シルメリアの部隊が来るのが見えて……それから……」
トウヤはここで、チラッとミリィを盗み見た。ミリィがルナ達に何と説明したのか分からないので、どう話して良いのか分からなかったのだ。トウヤの視線に気付いたミリィが、後を続ける。
「私がトウヤを見つけたのは、トウヤと敵が交戦している真っ最中の時よ。トウヤ、皆はその前までの話を聞きたいみたいだから、トウヤがその後どうしたのかを話してあげて」
ミリィの発言に、トウヤが頷く。
とは言っても、その後は簡単だ。トウヤは「後は、敵が川辺まで調査するって言うから……仕方無く」とだけ話して会話を切った。
「つまり~。トウヤが知りたかったことが、かえって裏目に出たってことだよね~。それって……間抜けってことじゃない?」
棗が中々手痛い指摘をしてくる。そう言われては、グウの音も出ない。
思わず「本当の事を言ってやろうか?」と思いながら、意味有りげにトウヤがミリィに視線を送ると、ミリィは目をウルウルさせてトウヤを見ているではないか。完全に「黙っていてね」とお願いしている目だ。
「……チクショウ! そんなウルウルした目で見やがって! 可愛いじゃないか!」
今のトウヤの心情を表すならば、そんな言葉が出てくるのであろう。
苦虫を噛み潰した顔で、トウヤはミリィの為にひたすら謝っていた。
「まぁ、今更話しても仕方がない。トウヤ、どうする? このまま、夜通しクシャナ国目指して歩くか?」
シェインが場を納めようとトウヤに意見を求めると、トウヤは真剣な顔で首を振った。
「無駄だよ。今回、全滅させた部隊は……多分、シルメリアの精鋭部隊だと思う。
そんな部隊を全滅させたんだ。明日は…それこそ血眼になって俺達を捜索するよ。本当なら、一度カエン本部へ戻るべきなんだが……」
トウヤが、ルナに視線を送る。
「嫌ですわ。クレスに逢えるのですよ。私は……クシャナ国に行きたいのです」
ルナが、珍しく自分の意思を話してくる。
「……そうだよな。俺だって、会わせてやりたいって思うし……」
ルナの本心に呟きで答えたトウヤは、真剣な表情で全員に視線を送ると、「聞いてくれ……」と一度前置きして話だした。
「クシャナ国に向かうなら、少しでも魔法陣から離れた方が良いと思う。だけど、一番危険なのは明日だ。俺は……明日の為にも休憩を取る必要があると思うんだ。だから、時計を合わせよう。これから4時間は、ただひたすらクシャナ国目指して歩く。4時間経ったら、何がなんでも休んで体力を温存するんだ。休憩は3時間。3時間経ったら、またクシャナ国目指して歩く。皆には、辛いかもしれないけど……俺が、皆を守るからさ!」
トウヤの言葉に、皆それぞれに思うところがあるのだろう。
特にミリィは、怒ったような……悲しそうな目でトウヤを見つめていた。