お約束?な展開
「全く! 私の体に触るとは、本当に無粋な人間よね!
しかも私の裸に触るなんて!
人間の男って、みんなこんなに積極的なの?
それに、私を見て……き、綺麗だって……」
火球を受け、気絶したトウヤを見下ろし、ドラゴンは顔を赤くする。
白目を向いて倒れてしまったトウヤに、ドラゴンは息を一つ吐き出すと、ふと思ったことを呟いた。
「でも、この人間。私の火球を受けて気絶するだけだなんて……丈夫ね」
さて、更に時間は経過し……。
「ヒック……グスッ……あんまりだぁ~。無茶苦茶だぁ~。死ぬかと思った~。
三途の川が見えたし、花畑もみえたし……胸も……お尻も……柔らかかっ――ハバア!」
気絶から回復し、いじけていたトウヤが、煩悩を全開にする前にドラゴンに殴り飛ばされる。盛大に吹き飛んだトウヤは、大木に激突して痙攣してしまう。
「うるさいウルサイ!
早く私の裸を忘れなさい!」
顔を真っ赤にしてドラゴンが叫ぶが、トウヤには聞こえていないだろう。
あの後、さらに3回も火の玉をくらったらしいトウヤが目を覚ますと、服をきたドラゴンが側にいたのだが……。
「何で鎧!」
トウヤが見たのは、神話にでてくる戦乙女が着ていそうな、純白に輝く鎧を身につけたドラゴンだった。
その姿があんまりにも似合っていたのと、この時代に鎧を着るドラゴンが面白くて笑ってしまったのだが、笑うトウヤに怒ったドラゴンが、更に火球をけしかけ、今に至る。
「早く起きてよ!
もうこの森から出たいんだから」
「ドラゴンよ……そ、それは無理だ。お前のせいで、全身が……痛いんだ」
フラフラしながら起き上り、ドラゴンの元と歩くトウヤに、ドラゴンが素気無く言い放つ。
「情けないわよねぇ~。早く復活しなさいよ」
その言葉を着た途端、トウヤの額に青筋が浮かぶ。
「だから、人間とドラゴンじゃ体の構造が違うんだっつーの!
大体、出たいって言うなら、さっさと一人で森から出たらいいじゃないか!
今は綺麗な女の子でも、お前はドラゴンだ!
こんな森から出るなんて簡単だろうが!」
言いたかったことを言えて、気分がスッとしたらしい。
思わずガッツポーズを決めたトウヤは、ドヤ顔でドラゴンへと目を向ける。
しかし、そんなトウヤと違い、ドラゴンの顔がどんどん泣きそうな顔になっていく。
「一人は……嫌なの……寂しいのは、嫌なの……」
いくら中身がドラゴンだとしても、綺麗な女の子から、泣きそうな顔で、そんなことを言われてしまったトウヤは、ガッツポーズを決めていた腕をだらりと下ろし、無言でドラゴンの隣に座ると、腕を肩にまわして、ドラゴンを引き寄せた。
先ほどの流れからするなら、こんなことをされたドラゴンが怒り狂うのは明白。しかしドラゴンは、トウヤの肩に頭を乗せて、必死に涙を堪えるだけだった。
「落ち着いたか?」
トウヤが尋ねると、ドラゴンは恥ずかしかったのか、赤い顔をして小さく頷いた。
「う~ん。可愛い。初々しいというか何というか」
そんなドラゴンの様子を見て、トウヤは再び腕を伸ばしかけ、慌てて引き留める。
「危ない! また理性が飛ぶとこだった!」
トウヤは、軽く頭を振って気持ちを落ち着かせると、幾つか聞きたい事を質問した。
「ひょっとして、お前元の世界に帰れないんじゃないか?」
トウヤの質問にドラゴンは頷き、それから、ゆっくりと話しだした。
まず、彼女はドラゴンの中でも若いドラゴンであると言う。
そして、一人で元の世界にある神殿で寝ていたところに、この世界に召喚されたことを話してくれた。
帰る方法については、召喚された魔法陣を使って帰れるかもしれないと言う。
ただ、もう何千年と使われることの無かった魔法陣での召喚であったため、ドラゴンですら魔法陣を発動させる呪文を覚えていないらしい。だから、戻ろうにも戻り方が分からないのだ。
それと、ドラゴンは人間に変化出来る。
(服も作りだすことが出来るらしいのだが、今回が初めての変化だったため、服の作り出し方が分からなかったらしい)
「だからって……鎧を作り出すとはなぁ」
少々と言うか、かなり時代がズレている。
だが、ドラゴンからの話で、大体の整理は出来た。
「つまり、お前は向こうの世界に帰れない。行く宛ても無いってとこか」
「………」
トウヤの言葉に、ドラゴンは悔しそうに唇を噛みながら頷く。
トウヤは、そんなドラゴンを宥めようと、頭を撫でながら呟いた。
「こんな、酷い世界に喚ばれて……、帰る場所もない。辛いよなぁ」
そう呟き、大きなため息を吐いた後、トウヤは意を決して切り出した。
「分かった! 俺と一緒に行こう!」
そのトウヤの言葉に、沈んだ顔で涙目だったドラゴンの顔が、今までに無いほどの笑顔になる。
その笑顔は、トウヤの薄い紙のような理性を吹き飛ばすには十分だったようで……。
トウヤは、またもドラゴンを抱きしめてしまい、盛大に殴りとばされてしまった。
「サァ! 行きましょう! 案内してよ!」
「ちょっと待てーーー!!!!」
ボロボロのトウヤが叫ぶ。
ドラゴンに殴られた体が痛かったこともあるが、肝心な事を聞いていないことを思い出したのだ。
「オイッ! ドラゴン! お前、何て名前だ!」
そう。
まだ名前を聞いていなかったのだ。
キョトンとした顔をして、ドラゴンは右の人差し指をあごに当てて何かを考えている。
「Ψ£ξψщж」
「…………は?」
ドラゴンが何を言ったのか、全く分からなかった。
「私の名前よ。こっちの世界の言葉では発音しにくくて、分かった?」
「分からん。全く分からん」
困った。面倒だから、今後もドラゴンと呼んでいいだろうか?
考えた挙げ句、トウヤは一つの結論に達した。
「なぁ、リティアってどうだ?」
「?どうだって? 何よ、いきなり?」
ドラゴンは頭に?を浮かべ、小首を傾げながら聞き返す。
「名前だよ。発音できないなら、こっちの世界に居る間は違う名前が必要だろ?
気に入らないか?
他にも、候補はあるぞ。
ミリィ、ティアナ、アイナ……どうかな?
良さそうな名前はあるか?」
トウヤの口から、次々と出てくる名前候補を聞いていたドラゴンは、苦笑いを浮かべる。
「本当に変な人ねぇ。私は、別にどんな名前でもいいけど……。でも、そうねぇ。その中なら『ミリィ』かな」
そう言って、今度は楽しげな表情をするドラゴンに、トウヤはニカッと笑って頷くと、ドラゴン改めミリィに右手を差し出した。
「そんじゃ、順番がメチャクチャになっちゃったけど……、俺はトウヤ!
朝霧 トウヤだ!
これから宜しくな。ミリィ!」
ミリィは、ハニカミながら差し出された右手を握り、トウヤの手を自分の右頬へ持っていく。
「こちらこそ。宜しくね!
ト・ウ・ヤ!」
可愛い。何故このドラゴン改めミリィは、トウヤの理性を飛ばす様な事をするのだろうか……。
この後、ミリィを抱きしめたトウヤは、盛大に殴りとばされるのだった。
後で聞いた話だが、ドラゴン同士の挨拶が頬に手を当てるといったものらしく、ミリィはドラゴン流の自己紹介をしただけだった。
とにかく、隣でブツブツと文句を言い続けているミリィに謝りながら、トウヤは森を跡にするのだった。