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プロローグ

ゆっくり更新ですが、宜しければ見ていって下さいませ。

 

「起きろシズク。早く起きないとあいつの方から来てしまう」

 

 耳に心地の良い低音に促されるようにまぶたを押し上げる。

 小さな窓からの漏れた光が遮られ、優しい夢から白ける視界にその人を映した。

 

「おはようございます」

「……寝ぼけるのは構わないが、服から手を離せ」

 

 無意識に掴んでいた服の裾を覚醒と共にバッと放し、勢いよく後ろの壁に頭をぶつけた。

 のっけから頭が痛い。これから精神面でも絞られるのに、と欠伸を一つ。

 

「ふっ、呑気なものだな」

 

 馴染んだ手のひらで労るように頭を撫でられ、慣れたことの気恥ずかしさに目を逸らした。

 

「一口だけでも腹に入れておけ、あの場で鳴ったとなると……助けないからな」

 

 無情な言葉に飛び起きて、寝室から隣の広いリビングに急いで食事をしようと飛び出す。

 テーブルの上にはこちらに来て初めて食べたリゾットが湯気を立てて食欲を刺激した。

 冷める前にとドタバタと顔を洗い口をすすぎ、と支度をしていると痺れを切らしたのかすくい上げられその人の膝に乗せられる。

 

「ほら、食え。もう時間がない」

 

 差し出された木製のスプーンから口に含み咀嚼するのと、迎えの男がノックもせずに扉を開け放って侵入したのは同時だった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ああ、目が覚めれば戻れると何度願ったことか。

 ここは私の知る元の世界ではない。

 

 それを証明するかのように、広間と同じく大きい円卓の奥に座す一人の異世界人である私を見詰める男達は皆、顔の造形が秀でて美しい。体躯にも恵まれている者のその造形美には目が眩むほどで、特段私は眼福に心躍らせている。

 顔面格差に悩む私を知ってか知らずか――知っていたとしても気にせず接してくれる性格も好ましい人ばかりだった。……数名除くが。

 

「それの家から出る気はないのか? 不便な僻地で暮らすよりも十分に快適な環境を整えたはずだが」

 

 むすっとした眼帯黒緑頭の男が右隣の席で腕と脚を組む尊大な態度で座っていた。

 あれのどこが!? と叫ぶのはやめて頭を抱える。肉食も入り交じった魔法植物が生い茂る屋敷を思い返す。

 私以外は身分関係なく早い者勝ちの席について、一言目でダメージを受けた私は左に座る今朝家に不法侵入してきた男に目だけで助けを求めた。

 頷いて意図を汲んでくれたのかと感動する。最近意思疎通が出来るようになって助かった。

 

「そうだな、お前の言い分はもっともだ。私もシズクには離宮に住んで貰いたいと前々から言っていた。シズク、この機会にどうだ? いつでも迎え入れる用意は出来ている」

 

 だがしかし、助けを求める相手を間違えたようだ。

 盛大なため息を自分のせいだと理解していない熱視線を注ぐ王族様を睨む。

 それすらデレデレと見詰め返されては他にしようがなく、周りも特に突っ込む気がないのかだんまりを決め込んでいた。

 

「で? シズクは今後どうするか決まっているの?」

 

 穏やかな問いかけに、左斜めの席に顔を向けていくらか引きつった表情を和らげる。女神のような美貌の赤髪が傾げた首に合わせて垂れた。

 それに答えようと口を開く。

 

「私は……」

「もう暫く私と共に暮らす」

 

 が、真横からの妨害に遭って固まる。

 昨日「今までお世話になりました」と挨拶したばかりだろう、とギギギとブリキのように右に首を向けた。

 

「私から離れてシズクの望みが叶うとは思えない」

 

 私の疑惑の目に返したのは真剣な眼差しだった。

 しかし、異議を唱える声が近い場所――先ほどと同じ人達からあがる。

 

「それならば、貴様でなくともできる」

「そうだ。この方はちんちくりんなお前に最大限配慮してるんだぞ。譲歩しろ!」

 

 おい、後ろのコバンザメ。ちんちくりんとは何だ。そして何故否定しないのかこのど鬼畜め。

 

「私も最大限シズクの望みを叶える心積もりだ。それに、こちらはお前が傍に居ようが居まいが構わない」

「うぇー、勘弁して下さいよ。シズクちゃんは構いませんけど、そっちは面倒なんで却下で」

 

 心が広いアピールをしている人間の横からやる気が今いち感じられない声が上がり台無しにする。

 彼の仕事を考えれば仕方のないことなのだが、こっちの人も機嫌が急激に落ちていた。

 そんな開始早々議論にすらなっていない広間に天の声が響く。

 

「シズクさんの意思を聴くのが先ではないでしょうか? その後のことはなんだって決められるはずでしょう? ……それも、シズクさん次第ですが」

 

 落ち着いた中に威厳が滲む声は神々しく人間離れをしている相貌から無意味な言い合いに終わりを告げた。

 見守っていた人達も一斉に私の方へと視線を投げかけている。

 

 私が答えを出す前に、今までの出来事が脳裏に過ぎる。

 一つ息を零した。

 

 記憶を思い出しながら、言葉を紡ぐ。


「――私は……」

 

 異世界に迷い込んだ私は、これまでを追想する。

 

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