ある遺言
私はある国の、科学者である父のもとで生まれた。
父の仕事は、国のために朝から晩まで兵器の研究と開発をすること。
そう、私の国は戦争中だった。
私が生まれる前から続いている長い戦争で、私には兄弟がいたらしいけど、みんな戦場で散っていったらしい。
父は私を他の兄弟らと違って、とても大切にした。多くの人が本土に残っていく中、私に何かあっては大変だと、戦火の遠い僻地の地下室に私は匿われた。
地下室はとても深い場所に建てられていて、外の世界とは隔絶した世界だった。
それでも、広がる戦火の話は、嫌が応にも入ってきた。
とうとう女子供さえ、出兵の召集がかかる事になるほど戦況は悪化した頃の事だ。私も戦場に出なければならなくなった。
私が戦場へ発つ日、父とその関係者らは、申し訳なくもどこか仕方ない表情で見送られた。
「私は人なんか殺したくない!」
私はそう叫んだけど、声は誰にも届かなかった。
私が戦場に来れば、私は、一切の躊躇無く大勢の人を殺すだろう。それには敵や味方の区別は無く、むろん私の意識など関係無い。狂ってしまうのではない、そういうものなのだ。
あと数分で、私を積んだ爆撃機は目的地に到着する。
そこは戦時中でも、まだ生活の息づく、知らない人が沢山住んでいる場所だ。
もう投下地点の真上に来た。
これから私は、炸裂した直後にこの町を膨大な熱と放射能で飲み込んで、後には何もかもが残らないだろう。
「私は誰も殺したくなくなんて無かった」
この悲鳴が私の遺言だ。
その日、私の死に場所には黒い雨が延々と降り続いた。