第九話 邂逅
ホントすんません。最近忙しくて・・・。不定期更新はしばらく続きます。少なくとも一か月は空けないので、これからもよろしくお願いします。
「あれは酷くないか?」
智昭は憮然とした表情で文句を言う。
「何で朝からあんな起こされ方をしなくちゃいけないんだよっ!」
「そんなことを言いますが、そもそもあなたが起きていないのが問題です」
半ば逆ギレ的に文句を言う玲奈。
うん、逆ギレは良くないことなので気を付けましょう。
「そんなこと言ったって明らかにいつもの時間より早いじゃねえか。そんな時間に起きてるわけねえだろうが。俺は一度寝たら、時間まで絶対に目覚めないと巷で定評のある男だぞ」
「良かったじゃないですか。今さっきその定評が破られましたよ」
つーん、とした態度でそう毒を吐く玲奈。
そんな玲奈の態度に圧されたのか、う、と呻く智昭。なんとも情けない奴である。
「まあいい」
何かを誤魔化すように、咳払いをして、そう話題変換を試みる智昭であった。
「何がです?」
玲奈は首を傾げる。
「取り敢えずこの話はいいや。問題はなんのためにわざわざ起こしに来たのか、ということだろ」
ああ、というふうに玲奈は頷いて、
「そうでしなね。ええと、話したいことというのは、彼女をどうするか、ということです」
なるほどな、と智昭は呟き、
「下手に家に帰せば、また狙われる可能性があり、かと言って家に一人で置いておくわけにはいかない、ということだろ?」
違うか? と智昭は尋ねる。
「ええ。そのためにはどうしたら良いか、話し合いたいのです」
「なら、話は簡単だろ。城戸崎、お前が学校を休めばいいんだよ」
思いもよらない智昭の言葉に、玲奈はああ、と意表を突かれた気持ちになる。確かに、自分が学校を休めば一人にすることもないし、家に帰すでもついて行くことが出来る。確かにこれは盲点であったことに気が付いたのであった。ただ、一つ納得できないことがあった。それは───智昭に提案されたということである。
基本的に、玲奈は智昭は馬鹿だと思っている。勉強の出来は今一つだし、態々不利になるような状況に陥るようなこともしている。故に、自分が気付かなかったことを自分より知能的に劣る者に指摘されたと思うと、非常に悔しい気持ちになる。
というわけで、なんか嫌な顔をしながら、しぶしぶと玲奈は頷いた。
◇
最近ではほぼなかった、一人だけでの登校である。
何故か、いつもより清々しい気分だ。なぜだろうか、と考え、すぐに解答に思い至る。玲奈だ。玲奈がいないだけで、いつもの視線から解放されているからだった。
視線とはそれだけ力があるものだったんだな・・・と智昭はしみじみと思った。
たった一つの要因でこれだけ変わるなんてすごい。
だが、その一人がいないだけで大分静かなような気がする。いや、寂しいわけではないが、と誰に言うでもなく一人言い訳をしている智昭。急に首を振ったりしているので、傍から見ると怪しい人であった。
意外と───本当に意外なことだが、誰一人知り合いに声を掛けられることなく教室に辿り着いてしまった。
智昭が教室に着くと、ほとんどのクラスメートがいた。
慌てて智昭は時計を見るが、まだ始業まで30分以上ある。
「え? 早くない?」
智昭は近くにいた一人に尋ねると、
「早くないって。このくらい普通だろ。計画とかもあるし」
と答えてくれた。
俺が遅いだけか・・・? と智昭は思ったが、それでもこの時間にほとんど集合しているのはかなり異常ではないだろうか。
「あらら、どうしたの、今日一人だけどどうしたの?」
智昭が一人でいることに気付いた和宏がニマニマと気色悪い笑みを浮かべてすり寄ってくる。ウザい、とばかりに智昭は引きはがし、腕で押さえつけるが、それでも気色悪い動きを止めないので一発殴った。もちろん力はセーブしてだが。セーブしなければ、和宏の命はなかった。こんな下らないことで俺は友をなくしたくはないのだ、とかわけわかんねえことを内心思っていたりする智昭。
なぜか、この時和宏は自分は助かったのだ、というイメージが浮かんできたらしい。
まあ、そんなことは置いておいて。
和宏の言葉によって、玲奈がいないことに気が付いたクラスメートたちは一時騒然となる。
───一体どうしたんだ、これは!?
───遂に別れたのか!?
───我々にも希望が!?
───いや待て、城戸崎さんは他クラスの悪巧みにひっかったのでは!?
───ならば、我々の命に代えてでも救わなくては!
等々、男たちによる熱い叫び声が響いた。
「で、結局のところどうなん?」
一人落ち着き払った和宏が智昭に尋ねる。
余談だが───こんな無駄にクールというか落ち着き払った態度を見て、クラスの女子は更に和宏に惹かれていたりするのだがそんなことはどうでもいい話だ。
「別に・・・。ただ今日は体調が良くなくて休む、だとよ」
微妙な表情をしながら智昭は答える。
どうにもこのクラスの男たちの熱い叫びを聞いて、思うところがあったらしい。
その言葉に、なんてことだ! とがっくり膝をつく男どもがいたが、誰もかれも見ないふりをした。
なるほどね~と相変わらず怪しげな笑みを浮かべたままの和宏は、
「愛想尽かされたわけじゃないんだね。良かったね」
と、ちらちら有希を見ながら智昭の肩をバシバシ叩く。
智昭もつられて有希を見ると、何やら不可解な動きをしてる。3歩進んで3歩下がるみたいな動きだ。進んでねえ。
智昭も、何やってんだ? と首を傾げ、
「何してんの? ステップ踏んでんの?」
と訊いてみた。
すると有希はビクッとした後に、おずおずと顔を、視線を智昭に向け、見る見るうちに顔を真っ赤にする。そのまま、
「・・・見た?」
ああ、と智昭は頷いて、
「何それ? ダンスの練習? ダンスないけど」
「うわあー」
突然叫びながら有希は走り出して教室を出て行った。
「何だアレ?」
智昭はしきりに首を傾げながら和宏の方を向く。
「うん。あれはないな」
何故か和宏は、はあーと深くため息をついて項垂れた。
その後10数分クラス一丸となり、対抗戦にむけての話し合いをし、作戦を練り。
始業の鐘が鳴った。
因みに、その頃には有希はきちんと戻ってきていたので心配はいらない。
◇
妙に長く感じた一日。
今日も有希と和宏は一緒に帰れないと言ってきたため、一人である。
・・・あいつ等何やってんだろ? 智昭はそんなことを考えながら一人家路につく。
さて、今日の晩御飯はどうしようかねー? と思いながら歩いていると、ガラリと周りの空気が変わったような気がした。
「───っ」
智昭は歯噛みする。
油断したっ! あっちが大丈夫だと思っていたら自分の方を狙ってくるとは。いや、それだけじゃない。自分の方は囮で、時間稼ぎ。本命はあっちの可能性もある。自分自身はどんな敵が出てこようとも、同類か或いはカミでもない限り問題はない。だが、あっちはそうはいかないのだ。玲奈だってそれなりの強さはあるが、所詮数でかかられればやられてしまうし、誰かを守りながらではより厳しい状況下におかれるだろう。どうする? と必死に状況を打開する術を探す智昭。
するとだ。前から若い男が歩いてきた。
「何もんだテメエ」
智昭はその男を睨みつける。
男はフッと笑うと
「なに、名乗るほどのものではありませんよ」
「馬鹿にしてんのか?」
茶化された、と思った智昭は一瞬で沸騰し、殴りかかろうとする。
だが、男はスっと手を前にだし、
「私たちはあなたと戦うことは望んでいません。できれば戦いは回避したいのです」
「? どういうことだ?」
今にも殴りかかりに行きそうだった智昭はその動きを止め、腕をおろし男に問いかける。
「我々にも目的があります。そのために私達はあの少女が必要です。ですが、あの少女は貴方たちが確保しています。その状態ではいくら私達でもあまり手を出したくはない。なぜなら私たちは貴方が例の存在であることを突き止めているからです。ですから交換条件と行きましょう」
「交換条件?」
ええ、と男は頷き、人差し指をスッと立て
「貴方があの少女を差し出す代わりに私たちは貴方たちには極力関わらないようにする、というのはどうです?」
「なるほどな・・・まあ妥当なところなんだろう」
「ええ。それでは───」
「だが、俺達はお前らの目的を聞いている。カミを復活させるそうだな。極力関わらない、と言いつつ、お前らはそのカミをきちんとコントロールできるのか? もしそのカミが喧嘩を吹っ掛けてきたら潰さないといけない。もちろんお前らと共に」
静かに、智昭はそう言い放った。
その問いかけに、ニヤリと男は笑って
「当たり前でしょう。喩えカミを復活させたとしてコントロールできなければ、まず滅びるのはカミではなく私たち自身。であるならば、カミをコントロールする術を見つけてから然るべき方法でカミを復活させるのが正しいやり方です」
それもそうだな、と智昭は頷き、
「ならば、交換条件に追加しろ。カミを復活させた後、そのカミで俺達を襲わせないと。それが確約できなければとてもじゃないが受けられないな」
と、口では言いつつも智昭は相手の動向を探っていた。
今回の相手は本当に未知数だ。まず、組織だって動いていることからもそれがわかる。ある組織を相手取るには、まずその組織の規模、構成、資金力、目的、考え方など様々な情報を得なければならない。だが、今回分かっているのは目的だけ。正直それだけでは厳しいものがある。だからこそ、今は話を出来る限り引き伸ばし、出来うる限り多くの情報を引き出さねばならない。
「まあそうでしょうね。では、口約束ですが条約を結びましょう。貴方たちがあの少女を私達に引き渡す代わりに、私たちは貴方達に金輪際一切の干渉をしないことを約束します。しかし、出来れば魔術的な契約用紙にサインしてもらいたいところです。貴方ならば力尽くでそれを破れるのでしませんが」
智昭は暫し目を瞑って、5秒ほどしてから口を開く。
「ああ、それは無理だ」
「───なっ!」
男は驚愕に顔を歪める。
いい気味だな・・・と智昭は思いながら、言葉を叩き付ける。
「当たり前だろうがっ! 何で自分よりはるかに弱い少女を見殺しにして自分を守らなくちゃならない? そんなの男のやるようなことじゃねえ! というわけでそんなものは受けられねえな」
男は顔に滲み出た動揺をすぐに無表情によって覆い隠し、
「ふっ、貴方のその選択あとで後悔しますよ」
とだけ言って去っていく。
「へっ、敵がカミだろうとなんだろうとぶっ潰してやるよ」
男の背にそう吐き捨てて、その背を見送る。
やがて、完全に見えなくなったところで、再び空気が変わる感じがした。
喧騒が戻ってくる。
智昭はしばらく、じっと立っていた。
一応これからは怒涛の展開になる・・・予定です。一気に話が進む・・・予定です。