第八話 朝の一時
何かスランプというか・・・文章が上手く書けないです。もともと上手い訳ではないのですが、なんか最初のころに比べて、うーんな感じが増えてきたというかなんというか。
空は既に明るい。
太陽は完全にその姿を現している。
「う、ううん」
寝台の上に体を横たえる少女は、寝返りと共に声を漏らした。
───ジリリリリリ
いきなり音がした。
そう、まるで火災報知機のような凄まじい音だ。
少女は飛び起きる。
辺りをキョロキョロと見渡し、音の発生源を探る。
何時までも煩い音を奏でるもの──それは目覚まし時計であった。
少女は首を傾げる。
果たして、今まで目覚まし時計などセットしたことがあっただろうか? と寝起きであまり回らない頭でそう考える。
どうしてなのか、ぼんやりとする、まるで霞がかかったような思考の中、昨日あったことを思い出す。
そう言えば・・・と少女はたっぷりと一分以上かけてその答えを思い出した。
昨日、怪しげな覆面に追いかけられていた少女を助け、それでも警戒されていたが、智昭の大魔王も真っ青? な言葉によって家に連れてきて、それで朝しっかりと起きなくては、との考えから、目覚ましをセットしたことを思い出したのであった。
そこまで思い出したところで玲奈の顔は先程とは打って変わって青くなる。
保護(したつもり)の少女の姿が見当たらないのだ。
まさか・・・と不穏当な思いが玲奈の頭に浮かぶ。
慌ててそれを確かめるべく、寝起きで乱れた服装のまま立ち上がり、探しに行こうとしたところ。
ひょっこりと、燿の顔がのぞき、
「アンタやっと起きたの?」
玲奈は驚き、そして時計を見て時刻を確認する。
時計の短針は6と7の間をさしていた。
「まだ、こんな時間ですけど・・・」
驚かされたことと、『やっと』という言葉に若干の不満を抱き、不機嫌そうな顔のままそう答える玲奈。
「もう、こんな時間だけど・・・」
燿は不思議そうな顔をする。
「まだ6時半にもなってませんよ」
どうしてそんな顔をするのでしょうか・・・と思いながら玲奈はそう口にする。
玲奈の朝はそんなに早くない。学校に行くのに8時に家を出れば十分に間に合う。だから、そのための準備があるとしても7時ちょっと前ぐらいに起床すれば問題はない。そのため、このような時間に起きるのは最近では滅多になかった。
起きれるかどうか、ということに関しては問題なく起きれるような時間ではあるのだが。
燿はようやっと得心がいったという顔をしながら、
「まあそこら辺はどうでもいいわ。取り敢えず朝食作っといたから」
この言葉に驚愕したのは玲奈であった。というか、この場には玲奈と燿しかいないため、玲奈以外が驚いたとしたら燿か、それ以外の何物かしかいない。もし燿が驚いたのなら、自分で作っといて何言ってんだ、コイツ? となるし、玲奈でも燿でもなかったら、一体誰だよ、ここにはまだ誰かいたのかよ、怖っ! ということになる。
まあ特に予想を覆すことなく、驚愕によって表情を変えたのは玲奈だけではあったが・・・。
「え? 朝食ですか?」
「そうよ。私は朝5時くらいに起きたし、その位は当然でしょう」
やや目を逸らしながら、もごもごとそんなことを宣う燿。
どうやら昨日ほどの悪感情は抱いてないようだ。
そう考えた玲奈はホっとする。警戒されるよりかは打ち解けられた方が良い。そう思ってのことだ。もちろん、なんにせよ例外はあるので、あまり打ち解けたくない人物というのもいたりはするけれど。この場合はまるでそんなことはないのであった。
もぐもぐと燿の作った朝食を食べる玲奈。
「意外とおいしいですね」
玲奈は陸でアオウミガメを見たような、そんな意外そうな顔をしながら、朝食の味を評価する。
「・・・あんたって何気に失礼ね」
顔に若干の青筋を浮かべながら、笑い顔をするという非常に器用なことをしている燿は──とは言っても笑い顔は引きつっているのだが──そう口にする。
燿はどうやらそれなりに家事スキル──料理しかわかっていないが──が高いようだ、と玲奈は判断した。あまり高くない自分と比較したら悲しくなってくる程度にはレベルが違うようですね・・・とも思ったのだった。
因みに、朝食のメニュー自体は特に奇を衒ったものとかではなく、こんな言い方をするとアレだが、由緒正しい純日本風の朝食であった。
茶碗に盛られた艶のある見事な白米、カツオのいいだしが効いた味噌汁──味噌は白味噌だ、鮭の切り身、ほうれん草のお浸し、金平ごぼうと、とても朝から豪勢である。
余談だが、ここ最近玲奈はこのような朝食を摂ったことがない。
十数分かけて黙々と食事をし、それが終わると
「はい、お茶」
と燿がいつの間に淹れたのかわからないが、日本茶を出してきた。
玲奈は衝撃に顔を歪めた。
嗚呼、何ということでしょう。今まで住んでいた私よりも遥かにこの台所を使いこなしています・・・と玲奈はいろんな意味でダメージを負った。どうでもいいことだけどな。
それでは、と玲奈は
「取り敢えず、隣の蓮華君を呼んできます」
と、席から立ち上がり隣の蓮華君の部屋を訪ねに行った。
燿はふーん、と何の感情も浮かんでいない顔でそれを見送った。
◇
一方、呼ばれる側の智昭はどうなのかというと・・・
──まだ寝ていた。
この男、自炊している割に自分の弁当を作ったりすることはないのである。
普通なら、弁当だの朝食だの作るとしたらそれなりに早い時間に起きなければならない。弁当の中身が自分で作ったものではなくて、冷凍食品ばかりであったらその限りではないが。
───ピンポーン
と呼び鈴が鳴る。
だが、智昭はそれには気付かず寝たままである。
かなりどうでもいい話だが、智昭は一度寝たら相当なことがない限り自分で目覚めるまで起きることない。たとえ近くで誰かが騒いでいようと、ベッドから落ちようと、それが原因で起きることはない。
つまり、何が言いたいのかというと、智昭は呼び鈴程度では目覚めない。こう見えても生活習慣は良いのでいつもの時間になれば、勝手に目が覚めるのだが、こういう時は全く以て迷惑なものである。
しかしだ。玲奈はそんなことを知る由もない。というか、知ってたらストーカー的な何かである疑いを向けられてもおかしくはない。なぜなら、いつもは既に登校準備を終えた8時くらいから会うのだ。それ以前のことなどどうやって知ればいいのだ。やっぱりストーキング行為ぐらいしかない。
そんな訳で、智昭がなかなか目覚めない性質であることを知らない玲奈は取り敢えず呼び鈴を連打してみる。なかなか出てこない人にそれなりに効果が認められている技だ。
───ピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンポーン
傍から見ると非常に馬鹿らしい行為ではあるが、やっている本人はそれなりに本気だったりする。それでも出てこない智昭に業を煮やしたのか、ついにドアを叩き始める玲奈。
「居るのは分かっています。もうあなたは包囲されています。いい加減観念して出てきなさい。故郷の両親も悲しんでいますよ」
だんだんわけのわからないことを言い始めた玲奈。いい感じで壊れてきている。若しくは元から。
一人盛り上がっている玲奈は気付いていないが、これは結構近所迷惑なので気を付けましょう。
ご近所迷惑な行為を繰り返しても尚智昭は出てこなかった。
そこで、やっと智昭が実はまだ寝ているのでは? という考えが浮かんでくる。
玲奈は怪しげな笑みを浮かべながら、何処からともなくいくつかの工具を取り出す。
ドアに向かって何かし始めた。具体的には言えない。が、工具を持って何らかの工作を行ったのだろう。
───ガチャリ
鍵が開いたようだ。何をしたのか、は深く追及してはならない。自分の身が可愛ければ・・・。
玲奈は、軍の特殊部隊並みの動きで音も立てずにドアを開け、するりと自らの身を滑り込ませる。難なく智昭宅に侵入し、目的地を目指す。
廊下も抜き足差し足忍び足で足音もほとんど立てず、進む。
目的地である智昭の部屋まであと5m。
玲奈は更に息を潜め、気配を殺しながら進む。
一歩また一歩と。
ここで、何故私はこんなことをしているのでしょうか・・・? と玲奈は思った。
かなり唐突感があるが、その疑問も尤もである。
まだ寝ているのなら起きるまで待てばいい話である。どうせ今日だって学校があるのだ。ほっといても学校に行くまでの時間に目が覚める。
それなのに、なぜ態々犯罪めいたことまでして私が起こしに行かなければならないのでしょう。とそんな考えに至ったのだった。
因みに───これは立派な犯罪です。犯罪めいたことではなく、犯罪そのものなのでご注意を。
とはいえ、ここまで進んできて今更戻るというのも癪である、ということで結局は智昭を起こすべく進み続ける玲奈。
先程までは静かに歩いていたが、もうどうにでもなれ、という感じで普通に歩いている玲奈だったりする。
しかし、前述の通り智昭はこの程度では起きないので、足音ぐらいでは静かに歩こうが音を立てようがあまり関係はない。
やがて、目的地の前のドアに辿り着いた。
静かに開ける。
智昭は・・・予想通り寝ていた。
この時、私はこの時間に起きていますのにあなたは何故寝ているのでしょう・・・と意味の分からない(智昭にしてみれば)理不尽な怒りを、玲奈は抱いた。
故に。
その怒りを対象にそのまま暴力という形で叩き付けた。
おかしいな~。本当は朝の一幕はもっと短く収まるはずだったのだけれど・・・。何故こんなに長くなったのか? 迷宮入り事件レベルの謎ですね。