第三話 なんでもありです
更新遅れて申し訳ない。
見苦しい言い訳をするなら、一度書いたものを展開が気にいらないからもう一度書いたからなのだが……少々遅くなってしまった。
正直これからも更新は不定期になるだろうと予測される。
というわけで、楽しみにされている皆さんには申し訳ないが、暫く不定期更新になります。
ついでに、一つ吉報(?)を。まあ吉報と言っても基本作者にとってであって決して読者さんに吉報であるわけではないのだが、PVがついに一万を超えました。他のランキングに載っているような作品に比べれば大したことはないけれど、それでもやっぱり嬉しかったりするものだから不思議なことでありますね。
そんな感じで本編へ。
智昭がいつもの面々と連れ立って教室に入ると、何故だかいつもと雰囲気が違っていた。ピリピリとした緊張感が教室中に満ちている。しかも入った瞬間、クラスメートたちが一瞬ざわめく。だが、それは決して冷やかしでも何らかの負の感情でもない。寧ろ、奇妙なほどの生ぬるい感情であるように感じる。
明らかにおかしなクラスメートの態度に、理由がわからなくてたじたじになる智昭たち。
「よ、よう。どうした?」
若干どもってしまうのも無理からぬことだ。昨日までは何ともなかったのに、突然このような態度をとられて平然としている方が異常。そう言えるほどの状況。
いつの間にか、教卓の前に立って腕を組んでいるクラス委員長の土門 桐斗が重々しく口を開き、言った。
「今日からあの行事の準備期間だ。何をすればいいか、勿論わかっているよな・・・」
智昭と和宏と有希は何のことかすぐにわかったらしく、ああ、あれか・・・と言う感じに頷いている。
一方、玲奈には何のことかさっぱりだ。転校してきたばかりなのに、どんな行事があるのかしっかりとわかっている方がおかしなことではあるので、当たり前のことだが。然もありなん、ということである。
「待ちたまえ。君たちはもっと城戸崎さんのことを考えろ。彼女はまだこの行事のことを知らないのだ」
内心首を傾げる玲奈に助け舟となる声が教室の隅から聞こえてくる。現在教室にいる全員の目がそこに向かう。そこには、”紳士”と呼ばれし男───葉佩 秀───が普段と全く変わらない様子で座っていた。普段と変わらない様子、つまり授業を受けるときと変わらない背筋を伸ばした綺麗な姿勢である。
そして、葉佩の言葉で教室中から、そうだな、などの呟きが漏れてくる。
委員長ですら見落としていたことを指摘するとは矢張り”紳士”だと皆が確信する。そもそも何故彼が”紳士”などと呼ばれているかは彼の出生に大きくかかわることだが、ここではあまり関係がないので割愛しておく。なお、取り敢えず彼が変態の方の意味ではなく、純粋に純正に純一の正しい意味での”紳士”であることだけを覚えておいてくれればよい。
そんなわけで、『例の行事』について玲奈に説明がなされる。代表して委員長がそれを行うことになった。
「あー、これから『例の行事』について説明するが、城戸崎覚悟しておいてくれ。これは色々と規格外だからな。まず一つ言っておく。これから起こることは戦争だ。クラス対抗戦だなんてそんなチャチなものじゃない。正しく勝者は栄光を掴み、敗者は惨めに蔑められ虐げられる。そんな性質を持った行事だ」
玲奈は目が点になるのを自覚した(とはいいつつも、あくまでもこれは慣用的表現であり、実際に目が点になるわけではない。寧ろ、なったら見てみたいものである)。呆れてものが言えないとはこのことか・・・と玲奈は思った。
「それはつまりどういうことでしょうか・・・?」
「詳しい説明をするとだ。これから俺達はクラス対抗戦という名の戦いが一年に数回行われる。それの主な種目はスポーツなのだが、事実中身は戦争だ。そう、オリンピア祭と同じさ。あれもスポーツによる平和を謳っておきながら、中身は各国の代理戦争のようなものだ。話が脇道にそれたな。一応、体育祭のようなものと思ってくれて構わない。大きくは異ならないからな。大同小異というやつさ。で、結局何が言いたいかというと、これから行われるクラス対抗戦というものは表向きは体育祭だが、実際は諜報・裏切り・陰謀何でもござれの醜い争いだ。汚いなんて言葉は存在しない。『勝者が正義』『勝てば官軍』それだけ。そして、あらゆる準備が今日から開始される、そういうことだよ」
あまりの予想外過ぎる内容を聞いて、玲奈はぶっ飛びそうになった。あまりに無茶苦茶な内容。こんなのが果たして学校行事としてあっていいのだろうか。また、それとは別に玲奈は一つ気になったことがあった。
「それは良いとしてですね・・・何故皆さんはそれに勝つためにそこまで必死になるのでしょう?」
これが玲奈の疑問点であった。勝つために手段を択ばないというのは、学生としてどうなのかなどと思うところも無きにしも非ずではあるが、それよりも気になるのは、何故そこまでして貪欲に勝利を求めるのか、という一点に収束する。
勝つことに何らかのメリットがなければ、名誉だけであればそこまでして勝とうとは思わないはずだからである。勿論、その名誉が何をしてでも欲しいと思うなら別なのだが。そんな生徒はこの現在の社会において少数しか存在しないだろう。何と言おうとも、学年の内で一番のクラスになっただけの名誉だけなのだから。
「まあ当然そこは疑問に思うよな。なんでそこまでして勝とうと思うのか、については単純にして明快な理由がある。簡単に想像できると思うが、有体に言えば、勝つことによる見返りがあるからだ」
大体予想通りの解答である。というか、貪欲に勝つことを求めるのに、それ以外の理由があった方が恐ろしい。具体的な褒賞なしにただルールなしの混沌とした戦いを起こせるような学生ばかりだったら、それは何処に存在しうるというのか。有り得ない。有り得ないなんてことはないと言うけど、それはない。
「えと、具体的にそれはなんですか?」
「問題はそこだ。この戦争において、勝者はご褒美が与えられるのだがそれは決まっていない。何がもらえるのか生徒側は分からない」
そうなんだよ、そこが問題なんだよなぁ・・・という声がいたる所から聞こえてくる。誰もがそこには不満を抱いているようだ。
「わからなくても、必死になるってことはそれなりに良いものがもらえるのですか?」
「いや、そうとも限らない。ある時なんかは商品券五千円がクラスの一人一人に貰えたなんてことも有ったが、ある時なんかは辞書並みに分厚い参考書が一人一人に配られたこともあるし、更にはクラス四十人いるのに中には十個しか入ってない菓子折りのみだった時もある」
最初は良いが、その後はご褒美なのだろうか、と玲奈は思った。ご褒美と言うよりも罰ゲームに近いのではないだろうか。参考書とかもらっても喜ぶ人なんてほとんどいないし、明らかに足りてない菓子を争って、クラスの中で更に血で血を洗うような抗争を繰り広げるのでは意味がないのでは、とも思う。本当におかしな話だ、お菓子の話なだけに。
「・・・それでも皆さんは勝利を求めるのですか?」
玲奈は話を聞いている内に徐々に自分の顔が引きつってくるのを感じていた。
なんなのだ、ここは。本当に高校なのだろうか。なんか怪しい構成員でも育成しているのではなかろうか。クラス自体にも変なのが少なからずいるようだし。
そう思ってしまうのも無理はないほどに変な学校であることに今更ながら玲奈は気付く。
でもまあ、一番おかしいのは彼ですが・・・と、近くでボケッとした顔をしている男を見る。
彼はそれには全く気が付かないようで、ボケッとした顔を晒しながら、時折隣の和宏と話している。
「そして、ここが一番うまいところなんだが、一つ一つの戦いに勝利しても貰えるものが今一つだったりする場合があるから、必死にならない生徒がやっぱりいるんだよ。しかし、ここからが大事なんだが一年の内に最も成績が良いクラスは、ある程度の限界はあるにしても何らかのお願いを聞いてもらえる。それはもちろん、聞いてあげただけだよ、などというふざけたものではなく、実現可能であればちゃんと叶えてもらえるのさ。だから皆必死になって勝とうと思う訳だ。これを考えた人はなかなか凄いと俺は思うよ」
「な、なるほど・・・」
それは確かに上手いと思う。貰えるものが今一つな可能性がある以上、モチベーションが上がりきらないことも有り得る。だが、最終的な餌が大きければ、その前の微妙な餌であろうと食いつかざるを得ないということか・・・と玲奈は戦慄した。
「さて、と。これから準備が始まるな。まず、クラス外に恋人がいる奴の監視。それとハニートラップの注意からだ。その後は、それぞれの競技における人選だな」
土門は玲奈への説明が終わったと判断し、クラス中に指示を飛ばす。
「なんか・・・今非常に聞き捨てならないことを聞いた気がするのですが・・・」
玲奈は今のは冗談だよね?という思いを込めて智昭に問う。
「それは残念ながら冗談ではない。他クラスに恋人がいる場合、意図的に寝返る奴もいるし、ふとした時に作戦を漏らす可能性がある。また、ハニートラップは言うまでもない。城戸崎さんは初めてだからかなり驚くかもしれないが、これがこの学校の戦争と言われる所以だよ」
その問いに答えたのは智昭ではなく、土門であった。どうやら、玲奈がわからないことがあれば、その都度説明してくれるようだ。説明こそが自分の役目とばかりに。
それよりも不思議なことは、何故自分のクラスを優勝させようとしないで他クラスに寝返るのか、ということである。
「なぜ、裏切る人が出てくるのですか?」
ついでに、と言わんばかりに土門に質問する玲奈。毒を食らわば皿までの精神だ。用法は間違っているが。
「そんなのは本当の戦争や争い事では良くあることだよ。スパイとして働く代わりに、相手に何らかの見返りを貰うのさ。その為だけに情報を流したりするんだ」
「しかし、それは言うほどのメリットがあるのですか?」
当然の疑問を玲奈は投げかける。実際の戦争などで裏切ったりしても他国へ逃げればよいが、このクラス対抗戦みたいなものは裏切ったことがばれても何処かに逃げることなどできようはずもない。そうするためには転校ぐらいしか方法がないではないか。
玲奈はそれを指摘したかった。
「当然のことだけど、ばれたら皆にかなりバッシングされるだろうね。でも、それを含めての戦いさ。だから、数週間は叩かれるかもしれないけど、ずっと叩かれ続けるわけじゃない。裏切りもその回だけ、なんてことも多々あるしね」
いい加減玲奈は頭が痛くなってきた。まだ朝のはずなのに猛烈に帰りたい。家に帰って、惰眠を貪って、先程から聞き続けているこの話をすべて忘却してしまいたい。玲奈は切にそう願った。
「おい、大丈夫か? なんか顔色が若干良くないぞ」
玲奈が内心頭を抱えていると、智昭がそう尋ねてくる。意外とそういうことには目敏いのだな、と思ったがそれを指摘するだけの気力はもう残されてはいなかった。
「ええまあ。何かあまりの非常識な行事に頭が痛くなってきました」
「そうだろうなあ。俺も正直この行事はどうなんだろう、とは思うが、あっても別にいいんじゃないか? 何事も経験だろ。あと、頭が痛いなら頭痛薬でも飲めばいいんじゃないか? 確か『ハヤクズツウナオール』とかいう薬があったと思う」
何その薬の名前。飲んだら寧ろ悪化しそうだなー、と二人の話を聞いていた和宏と有希は思った。
これから訪れる行事に向けて、クラスはこれからの方針を立てている為に騒がしい。その騒がしい教室でありながらも、智昭達四人の周りは比較的静かであった。
そして。
いろいろと計画を練っている生徒達を黙らせるように始業のチャイムが学校中に鳴り響いた。