Epilogue
そんなわけで事件は無事終了したかのように見えた。
実際は終了しているけれども。
だったら、紛らわしい言い方をするな、とお怒りの皆さんがいるかと思うが、現実的に見れば、これで全てが終了したわけではない。勇者が魔王を倒したからそれでおしまいというわけにはいかないのだ。いろいろと面倒な事後処理もあるので。
そして方波見に連絡した後、方波見がやってきていろいろと事後処理をしてくれたのだった。
この時は文句の一つも言わず、なんてすばらしい人なんだ・・・とか智昭と玲奈は思ったらしいが、後始末が終わってから智昭はその考えを修正したらしい。
何故かと言えば、後始末のせいで仕事が増えてイライラした方波見のストレスのはけ口となったからである。具体的に言えばサンドバッグ。
そんなことがあれば、あっという間に評価などストップ安となるのは想像に難くない。というよりもそうならない方がおかしい。それでなければ危険な嗜好の持ち主となってしまうだろう。こわい。
◇
「まったく貴様らは少しは私に助けを求めるとかそういうことは出来んのか?」
いろいろと面倒な仕事を押し付けられて不満げな顔の方波見。
「あの時はそれどころではなかったですから」
そんなもん知るか、という態度の智昭。
「そうですね・・・。そんな余裕はありませんでした」
「とは言ってもなんとかなるだろう? そこのバカもいることだし」
「誰のことです? 先生のことですか?」
「お前に決まってるだろう。聞いたぞ。散々殴られたり魔術使われたりしたんだろ?」
ニヤニヤしながら尋ねる方波見。
智昭は憮然とした顔をしながら答える。
「それより先生の一撃の方が強烈でした」
智昭と方波見の間の空気がなにやら険悪になってきて、慌てだす玲奈。ベッドの上から必死に声を掛ける。
「まあまあ二人とも落ち着いてください。無事に解決したんですから」
「一番重症の奴は静かにしてろ。あと病室では静かにな」
ピシャリと方波見はそう言う。
そうなのだ。一番ボコボコにされていた人物は全く以て軽傷であり、ほとんど攻撃を食らっていない玲奈が最も重症であった。何かが間違っているような気がしないでもない。そうは言っても、仕方のないことではあるのだが。
いくら訓練したとしても、人間なのである。その体はそれ程丈夫ではなく、ほとんど人間やめた奴の一撃をまともに受けて無事であるわけがない。一般人に比べれば頑丈ではあるにしてもだ。所詮は脆弱な人の身に変わりがあるわけではないので。
けれど、入院しているからといってそこまで心配するほどでもなかったりする。一応腹部を攻撃されたので、内臓に問題がないかどうかの検査入院に等しい。つまり、重症とは言っても、智昭に比べればといった程度なのである。
「全く間違ってるよな。一番攻撃食らってる奴が無事で、一撃だけ殴られた奴が重症だなんて。可笑し過ぎるぞ」
「「うっ」」
智昭も玲奈も思うところがあったらしく、言葉に詰まるのであった。
「まあ何はともあれ、一応奴は捕まったんだ。それに二人とも命に関わるような怪我もしてない。良かった良かった。終わりよければすべてよしともいうし、これで問題はないな」
それだけ言うと、徐に方波見は立ち上がり、病室を後にする。
と見せかけて、ドアのところで一旦立ち止まって振り返る。
「私はこれで帰るが、変なことはするなよ。ここは病院だからな」
「「なっ」」
最後にニヤッとした笑みを浮かべて、今度こそ方波見は病室を去った。
病室には顔を赤くした二人だけが残される。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人とも顔を赤くしたまましばらく黙ったままだった。
二分ほど経っただろうか。
流石にこの沈黙に耐えられなくなったらしく、玲奈が声を掛ける。
「昨日は結局有耶無耶になりましたが、どうして神器を持っているのですか? これを個人所有するのは難しいことだと思うのですが」
「昨日も言っただろ? これは貰ったんだよ、本来の持ち主からな」
「では本来の持ち主は?」
「もういねぇよ」
玲奈はそれを聞いて一瞬息を呑む。自分が無神経なことを訊いていることに気付いたのだ。
「すみません」
「気にすんな。大したことじゃないから」
智昭は手をヒラヒラさせながらそう言う。
それでも玲奈はそれについて根掘り葉掘り聞くわけにもいかないと思い、質問を変えることにした。
「そう言えば、神器とはどういうものか知っていますか?」
智昭はいきなり変わった質問に面食らったが、これが玲奈なりの配慮だとわかり、表情を和らげてその質問に答える。
「強い武器だろ」
何を聞いているんだ?という疑問がその声には混じっているけれど。
その答えから、玲奈は本当に知らなかったのか、と頭を抱えたくなったらしい。
「確かにそうかもしれませんが、実態は全く違います。神器とは、そもそも人が創り出したものです。そしてその目的はカミを倒すためだったそうです。故に、この間のような強い威力を持つものが多いのです」
ここまで話したところで、智昭によって話は遮られる。
「ちょっと待て。とすると、弱いのもあるってことか?」
「ええそうです。いえ、そういうと語弊が生じますね。正確には攻撃には向かないものもある、というのが正しいです。尤も私も全てを把握しているわけではありませんが」
「へえ~。そうだったのか。なんかいろいろ教えてもらってばかりで悪いな」
「そ、そんなころないですっ! 私だって助けてもらいましたし」
「あれは助けたとは言えないだろ」
智昭は途端に苦い顔をする。それも当然と言える。智昭はあらゆる能力であの男を上回っていたのだ。それなのに、実際は神器を持ち出さないと勝てなかったのだから。
そこら辺は男のプライドとか矜持とかそんなところに関係する。
「それでも私が助かったことには変わりありませんから」
玲奈はそう言って微笑む。
智昭はまたも顔を赤くして、視線をずらす。
そして、わざとらしく腕時計を覗きこんで
「もうこんな時間か。それじゃ俺は帰るから」
と言って、立ち上がって病室を出ていく。
その後ろ姿を見て、玲奈は
「退院したら、また一緒に学校に行きましょう」
と声をかける。
智昭は振り返ることはせず、手だけを上げてそのまま病室を出て行った。
◇
「────以上で報告を終わります」
薄暗い部屋、三人の男女がテーブルを囲っている。
二人の男女はソファに深く腰掛けていて、その向かいにいる一人は立ったままだ。その姿はさながら王に従う忠臣のようで、その部屋には厳かな雰囲気が漂っていた。
「なるほどな・・・なかなかいい感じではないか」
「そうですね。もう少しです」
座ったままの二人は彼の報告を聞き、そう漏らす。
「それでは計画は次の段階へ」
女は報告をした男にそう命じる。
「はっ」
そう言って、男は退出する。
「くっくっく。これでもうすぐ我等にあれが・・・」
そんな呟きが漏れた。が、それを聞く者ももう一人以外にはいなかった。
何はともあれ、これで第一章は終わりです。
微妙な長さでした。
第二章は暫く時間がかかるでしょう。一応投稿予定は10/7(金)を予定しています。これより遅くなることはないですが、早くなることはあるかもしれません。あくまで可能性ですが。
あと、一章が終わったので簡単な人物紹介でも載せようかと思っています。