第十八話 Schicksal
今回の話の題名はシックザールと読みます。ドイツ語です。
そんな感じで本編です。
智昭はジョアッキーノに殴りかかった。
それと同時に玲奈もどこからか取り出した薙刀を持って切りかかる。
ジョアッキーノはそれら二つを躱し、反撃する。
その反撃は今までとは異なり、魔術によるものだった。
───バチンッ
ジョアッキーノの手から電撃が飛んでくる。
玲奈は咄嗟に地面を蹴り上げて、そこらへんに落ちていた石ころを目の前に上げる。
ジョアッキーノから飛んできた電撃をその石で止め、更なる追撃を警戒し後ろへ下がる。
その一方で、智昭はそのまま突貫し、電撃を受け止めたまま次なる一撃を叩きこむために一歩踏み出す。
それ自体は避けたが、ジョアッキーノの顔には驚愕が張り付いていた。なんとも珍しい表情である。
「一体全体どういうことだ? 君にはあの電撃が当たっただろう。だが、明らかにダメージがない・・・。君は何をした?」
驚いた表情をしたまま、ジョアッキーノは口を開く。
「へっ。俺にそんな攻撃は効かねぇ」
構え───素人なので、腕を前に上げただけだが───たまま、そう答える智昭。
「なるほど。さっきから思うけど、君は非常に打たれ強いみたいだね。あるいは・・・まあこれは徐々に探っていくかな」
言い終わるか終わらないかのタイミングで魔術を発動させるジョアッキーノ。
今度は何が出てくる?と玲奈は注意深く見ている。
───ドカンッ
そんな音が聞こえる。
玲奈は慌てて周りを見渡す。
今の音は異常だ。何かが激突したような、そんな音。
先程の攻撃から、ジョアッキーノが雷系の魔術しか使わないと玲奈は思っていた。だが、現実は違う。
一体何が起こったかは直撃した智昭の方が良く分かる。
智昭は音と共に僅かな衝撃を感じた。
だが、それは彼にとって大したものではない。精々が、一般人において一瞬強い感じの風が吹いたかな?程度のものだ。通学途中の男であれば、一瞬何かを期待してしまうような、そんな風程度の威力だ。
寧ろ、わかりやすい変化があったのはジョアッキーノの方であった。
彼の表情は先程と同じように驚愕に彩られ、口をあんぐりと開けていた。何とも間抜けな表情である。
「何故、この威力でさえ耐えられる? 君は一体何者なんだ?」
奇しくも、智昭の質問と同じである。
それ程までにジョアッキーノにとって衝撃的なのであった。
今の魔術は、ただ衝撃をぶつけるだけの単純な魔術である。ただ、その威力が問題なだけで。この魔術の威力はわかり易い形に直せば、数トンは下らないほどの衝撃だった。
ジョアッキーノが間抜けな顔をしたとしても仕方がないレベルではある。
それを食らって平然としている智昭も智昭であるが。
玲奈はそれを呆然と見ていただけである。目の前の非常識な光景に言葉を失っていたのだ。
さっきのものから、智昭は不敵な笑みを浮かべ、魔術など恐れるに足らないと判断し、動く。
ジョアッキーノはそれを良しとせず、更に魔術を行使する。思わず、智昭の歩みを止めてしまうほど大規模なそれを。
玲奈は思わず目を疑った。
ジョアッキーノのかざした手のひらの上に直径数メートルはある火の玉が浮かんでいたからだった。ほとんどドラ〇エのメラ〇ーマである。
と、ここらで気付く人は気付くだろう。さっきから玲奈は何もしていないことに。辛うじてしていることは、息を呑んだり、呆然としたりしているだけである。理由はどう考えても役に立たず、戦いに参加するよりかはこの戦いを傍観したほうがいいだろうと思ったからだったりする。
『だって、既に人同士の戦いじゃないでしょう』とは本人の談。
話は戻るが、ジョアッキーノはメ〇ゾーマを智昭に投げつける。いや、投げつけると言うより叩き付けるの方が表現としては正しいだろう。
いくら頑強でも、これでは大ダメージも必至だろう、とその場にいた誰もが思った。勿論受けた本人は除くが。
そして、着弾時の煙が晴れたとき、その場の誰もが驚きに顔を歪めた。勿論受けた本人は除くが。
煙の中から出てきたのは、服がボロボロではあるが、ほぼ無傷の智昭だった。
この結果は誰も予想が出来なかった。勿論受けた本人は除くが。
「この程度で俺を倒せると思ったら大間違いだっ! 確かに俺以外だったらヤバかったかもな。お前は予想できなかっただろうけどな。勿論俺は除くが」
と言いながら、大きく踏み出した智昭は、未だ呆然とした様子のジョアッキーノを大きく振りかぶった拳で思いっきりぶん殴った。
吹っ飛んでいったジョアッキーノは地面で何度か大きくバウンドして、そのまま横たわる。
これで終わっただろうと思った智昭は、やり遂げた感のある晴れ晴れとした顔をしていた。が、実は内心思っていたことがある。
先程のセリフがどうもどこかで被っていた様な気がするのだ。もしや、これが噂のデジャビュか・・・とか、全く関係のないことを思っていた・・・。
「くくく」
どこからともなく笑い声が聞こえてきた。
なんだ、なんだ?と智昭と玲奈はあたりを見回す。
すると、ぶっ飛ばされたジョアッキーノが身を震わせて笑っていた。地に体を横たえたまま。
「くく。なるほど・・・君は〈神殺し〉だったというわけか。それなら話は早い。君を全力で倒し、その力を奪えばいいのだから」
そう言って、笑いながらよろよろと立ち上がる。
智昭は、ヤバい。逝っちまったか・・・と別の意味で戦々恐々としていた。
ゆらゆらと立ち上がったジョアッキーノはぶつぶつと何か唱え始めた。
何だアレ。怖ぇ、とか智昭は思っている。緊張感も切れて、全然関係ないことばかり考えているのだった。
そして、ジョアッキーノは何かを唱え終えた。
玲奈は気付く。あれは禁術であることに。
「気を付けてください、蓮華君。あれはとても危険です。使用者の命を削って、途方もない力を得るための魔術です。くれぐれも」
と言って、そろそろと智昭から離れていく玲奈。
巻き込まれないための対策であるが、なかなかに薄情である。
そんなことには気が付かない智昭でも、ジョアッキーノの纏っている雰囲気が違っていることはわかった。
界〇拳なのか、超サ〇ヤ人なのか区別はつけづらいが、強くなったことは感覚的にわかるのだ。
突然、智昭は危険な感じがして、身を投げ出して転がる。
───ドカンッ
地面が爆発した。
実際は爆発したわけではないのだが、傍目から見ると、そうとしか見えない。
転がった智昭がそこに目を向けてみると、ジョアッキーノが立っていた。
どうやら、先程のはジョアッキーノが地面を思い切り殴った際に起きた音らしい。
智昭は冷や汗が流れるのを感じた。
これは拙い。下手したらやられる。
自分の力にはある程度の自信を持つ智昭でさえそう思うほどの威力。
あの魔術が子供の遊びに思える。
こうなったら手段を選んでいる場合じゃねえな・・・と智昭は思う。
その間もジョアッキーノは攻撃してくる。
だが、その全てを智昭は避ける。
どうして避けられるのか・・・そう疑問に思う人は少なくない。現に玲奈もそう思っている。
それは何故か。
理由は智昭の異常ともいえる勘の良さだ。本能が警鐘を鳴らすほどの威力。それを勘のままに智昭は躱しているだけだった。
ジョアッキーノはこのままでは有効打を与えらないと判断し、攻め方を変えるべく一旦距離を取る。
智昭はこれ幸いと、今まで隠してあった切り札を取り出す。
「あれは・・・?」
玲奈は一体何だろうと目を凝らす。
それは無骨な作りの拳銃のようなものであった。本当の拳銃とは似ても似つかないような形の。辛うじて輪郭から、リボルバー式の拳銃のように見えるそれを智昭は構える。
そして、ジョアッキーノが一直線に突っ込んでくるのに合わせて、それを撃った。
いきなり、ジョアッキーノは吹っ飛ぶ。勢いよく。あまりにもだ。地面に対して平行のままとんでいっていることからも明らか。そしてそのままの勢いで公園の遊具にぶち当たる。ぶつかった後、ズルズルと地面に滑り落ちて再び起き上がることはなかった。
遅れて
───ズドンッ
という物凄い大きな音が鳴った。
思わず玲奈は耳を塞いでしまう。しかし、間に合わなかったようでキーンと耳が鳴り、しばらく音が聞こえなくなった。
やがて、玲奈の耳も復活し、ジョアッキーノの方を見るが沈黙したまま。
彼ら二人の戦いは終わったのだ。
そこで、ようやく方波見に連絡することを思いついた智昭は、早速電話で連絡して事後処理を頼むのである。
◇
方波見が来るまでの間に、耳が復活した玲奈は智昭が手に持つそれについて尋ねる。
「それはなんですか?」
「ああこれ? なんでも神器とか呼ばれるものらしいな」
特に何でもなくそういう智昭に玲奈は二重の意味で驚く。
一つは、神器を所有していること。
もう一つは、それを何でもないことだと思っていること。
「何でそんなものを持っているんですかっ!?」
「何でって、貰ったから」
どことなく遠い目をしながら智昭は言う。
それを見て、若干落ち着きを取り戻しながら、更に尋ねる。
「それの名前は?」
「これの名前か・・・。これは運命だ」
神器の説明はここではしません。いずれ本編で説明があると思うので、その時に任せます。
ジョアッキーノの使った魔術はそんなもんだと思ってください。この作品においての魔術は基本的に何でもありなので。限度はありますが。