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それが運命(さだめ)と彼女は言った  作者: 神無月 夜空
第一章 神を超えし者と神を超えんとする者
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第九話 呼び出し

 嫌がらせ問題も解決して、そんなに日も経たないある日のことである。

「蓮華と城戸崎、あとで職員室に来い」

 方波見は授業が終わると、2人を名指しで呼ぶ。

「何だ何だ? 遂に不純異性交遊でアウトか?」

 無駄に(はや)し立ててくる和宏を無視しながら、智昭は玲奈に話しかける。

「何か心当たりあるか?」

 玲奈は考え込む。

「おそらく・・・アレですね」

「おいおい。アレって何。まさかそんなことをもう・・・ブベッ」

 煩いし、放置しておくと危険なので(智昭にとって)、和宏を殴って黙らせる智昭。

「アレって・・・何?」

 智昭は背後に途轍(とてつ)もない殺気を感じた。

 振り返ると・・・そこには微笑む有希の姿。

 一体何処からこれほどの・・・と、心胆寒からしめられる智昭。

「アレって言えば、この間のことですよ」

 有希の様子にはまるで気が付かないのか、平然とした玲奈。

「この間のことって、あのお騒がせ事件のこと?」

 納得したのか、さっきまでのは一体?と思うほどに態度を変える有希であった。

 このままじゃ心臓に悪いな、と独り言ちる(ひとりごちる)智昭がそこにいたが、誰にもその呟きは聞こえなかったそうな。

「そうだと思います。一応当事者ですし。昼にでも行きますよ」

 その言葉で、とりあえずこの場はお開きとなった。



 宣言でもないが、休憩時間に話した通り職員室に向かう智昭と玲奈。

 方波見の机に向かうと、彼女は逆に智昭達の方へと歩いてきた。

「お前たち、ここだと人の耳もあるし、準備室で話すぞ。ついて来い」

 スタスタと歩いていく方波見。

 それに遅れまいとついて行く2人。

 言わずと知れたことだが、方波見は数学教師である。言わずとは言っても何処かで言ったのだろう。だから知っているわけだ。え?知らない?言ってねえじゃねえか。

 と、そんなわけで数学準備室に入る3人。数学準備室は本当に必要なのか疑問だが、これはここで議論するような問題ではないので棚に置いておく。いつか落ちてくるかもしれないが。

「お前等、というよりも蓮華にいつものような頼みがある」

 そう言って話を切り出す方波見。人がいないせいか、お前たちではなく、お前等になっている。

「いつものっていうと、あっちの方ですか」

 嫌そうな顔をする智昭。

 それを無視する方波見。

「今回は、この街に邪教の信徒が3人ほど潜伏し始めたらしい。だから、そいつ等をひっ捕らえろってのが今回の任務だ」

「マジすか」

「そうだ。それで、今回は城戸崎にも手伝って貰おうと思ってな。呼び寄せたわけだ。どうせそっち側の人間だしな。いいだろ、別に」

「仰る意味がわかりません」

「惚けても無駄だ。王生機関の(ひめ)だろ、お前は。ここに来てる思惑も大体掴めてるしな。手伝え」

 『媛』という言葉によって、一瞬玲奈の表情が凍る。

 方波見はそれを意図していたようだ。

 一方、何のことだかわからない智昭は質問しようとして口を開こうとする。

 しかし、それは玲奈が返事をすることで遮られてしまった。

 結局、ある時が来るまでずっとその真意について知ることが出来なくなったのだった。

「わかりました。手伝いましょう」

「それはいいが、城戸崎、お前一体どんな術を使える?」

「そうですね。西洋系の錬金とか、陰陽系とかはちょっと無理ですが、それ以外なら特に問題はないですね」

「ふーん。なかなかやるな。一番得意なのは?」

「武器を使った近接戦闘でしょうか。薙刀や弓が使えます」

「思ったよりやるな」

 しきりに感心している方波見。

 智昭は、といえば話に少々ついて行けてないようで目を白黒とさせていた。

「こう聞いては失礼かもしれませんが、方波見先生はどのくらいの遣い手なのでしょうか?」

「まあその疑問ももっともだ。そうだな、私はそこそこだと自負している」

「鉄拳制裁」

 ボソッと智昭は呟く。

 これを聞いて焦るのは方波見であった。

「お前、それを言うんじゃない!」

 滅多に見られない赤くなった方波見を見て、玲奈は場違いながら思った。結構可愛い、と。

 その後、驚く玲奈。

「っていうか、〈鉄拳制裁〉ってもしかして・・・」

「そうだ。勿論方波見先生の二つ名だよ。本人は恥ずかしがってるけどな」

 〈鉄拳制裁〉とは、素手で数十人の敵を一人でバッタバッタと倒している方波見を見て、仲間の魔術師が面白がってつけたものだ。最初はあくまで冗談のつもりだったらしいが、毎回そう呼ばれていたので、いつしか定着してしまったというわけだ。

 本人の様子を見る限り、かなり嫌なようだが。女性につけるようなものではないからな。

 今回玲奈が驚いたのはその二つ名を恥ずかしがっている方波見に対してではなく、方波見がそう呼ばれていることに対してであった。

「そういう問題ではなくて、〈鉄拳制裁〉さんは私たちの業界では有名です。なんでも、途方もなく強い人で、更にフリーの魔術師だと」

 若干興奮気味の玲奈。噂でしか聞いたことのない人が目の前にいたら、当然の反応だと言える。

「買いかぶり過ぎだ。強さだけで言うなら、そこの蓮華の方が圧倒的だ」

「俺も先生には敵いませんよ。いろんな意味で」

 最後だけボソッと言う智昭。

「本気を出せば別だろうが」

 寝ぼけたことを言うな、と智昭は方波見に小突かれる。

「それにしても、フリーってことがなんか関係あるのか?」

 さっきの玲奈の言い方が気になった智昭はそう聞く。

「ええ。フリーってことは、相当の実力がないと仕事が回ってきません。つまり、フリーで活躍しているってことはかなりの実力者、という訳です」

「へえー。思ってたより先生は凄かったんですねえ」

 日頃の恨みでもあるのか、大袈裟に驚いたふりをする智昭。意趣返しになれば、と思っていたが、その思惑は見事に打ち砕かれる。

「まあ、それなりだ」

 智昭の言葉を額面通りにとったらしく、特に智昭の様子を気にせずに返事をする方波見。

「そんなことはどうでもいいんだよ。兎に角、ここに来た原因となるその任務について話し合おうぜ」

 思ったよりも嫌味の効果が薄かったためと休憩時間が残り少なくなってきたために、本題に入るように2人を促すのだった。

「そうだな。邪教の信者だったかが3人ほど潜伏してるところまでは話したな?それで、そいつ等をひっ捕らえるわけだが、いくつか注意点がある」

 いつになく真剣な雰囲気の方波見。

「そいつ等は危険ってことですか?」

 それが気になったために、わざわざ確認する智昭。

「その通りだ。邪教の信徒っていうぐらいだから、何してくるか読めない。それが一つ目の注意点。二つ目は、連中がこの街で何をしているのか、ということだ。おそらく、邪教なんていわれているぐらいだ、生贄でも調達しているかもしれん。人質がいるかもしれないから注意しろ。因みに、ひっ捕らえるときには、生かして捕まえろ、とのことだ」

「邪教徒ですか。一体どのようなものです?」

「さあ。私もそこまでは聞いていない。取り敢えず、捕まえられれば何でもいいと思っていたからな」

「どんなものかはっきりすれば、まだ対処の方法もあったのですが・・・」

 だめだこりゃ、といった顔をする玲奈。

「どんなものかで対処が変わるってどういうことだ?」

 智昭は興味を持ったらしく、玲奈に尋ねる。

「一口に邪教といっても、様々な種類があるのです。故に、種類によって主にどんな魔術を使うか、とか生贄がいるか、などはわかるものなのです」

 2人が知らないことを知っていたせいか、若干自慢げな玲奈である。最後にエッヘンとかつきそうだ。

「へえー。知らなかった」

「私はなんだろうとやることは同じだからな」

 感心する智昭と、まるで興味のない方波見が対照的だ。

 それを聞いて、玲奈はそろそろ疑問に思っていたことを訊こうか、と考える。

「そう言えば、何で先生は蓮華君に自分の仕事を手伝わせるのですか?」

「そういう星の下に生まれてきたからじゃないか?」

 あまり真面目に答える気がない方波見。

「そうじゃなくてですね・・・どうして自分の仕事を手伝わせるんですか? 自分一人でもできるのに」

「そうだな・・・まあ、私一人でもこれくらいなら余程のイレギュラーが発生しない限り容易く達成できるだろうな。けれど、敢えてコイツに手伝わせる理由としては、実戦経験を積ませるためかな」

 玲奈のしつこさを考えて、これは逃げられそうにないと判断した方波見は仕方がないので、本当の理由を喋るのだった。

「実戦経験ですか・・・」

 それを聞いて納得したかのように首を振る玲奈。

 智昭は予想外の理由に驚きを隠せないでいた。

「そうなの? 俺はてっきり自分一人だと面倒だからだと思っていたんだが・・・」

「何を言っている。私だって一応はプロだ。仕事ぐらい本来なら一人でこなすわ」

 怒った方波見に智昭は頭を叩かれる。

「さいですか・・・」

 思った以上にしっかりとした理由があったことに、少しだけ感動した智昭は怒られたことに若干凹みながらも嬉しそうだった。

 それを叩かれたことに喜んだように見えた玲奈は、内心引いたらしいと付け加えておく。

「それで方波見先生は───

 ───キーンコーンカーンコーン

「ん?何か言ったか?」

 チャイムによって質問が掻き消されたので、何だかそれ以上聞く気になれなかった玲奈は何でもなかった振りをする。

「何でもないです」

 時間がヤバいので、とりあえずは待ち合わせの場所と時間だけ確認して3人は準備室を去ったのだった。




 

 ◇





「いくつか質問があります」

「なんだよ、改まって」

 有希も和宏も用事があるとかで、一緒に帰れなかったので、現在2人きりの帰り道。

 智昭の学校の男子生徒が見れば、羨ましさのあまり歯を食いしばり、地団太を踏み、更には血の涙でさえも流しそうな状況ではあるが、幸いにも、道路には誰もいなかった。そんなことはどうでもいいのだけれど。

「方波見先生は貴方が〈神殺し〉だと知っているのですか? それとも、そういう家の出だと思っているだけですか?」

「それは答えなきゃいけないことか?」

 いまいち玲奈の真意が掴めない智昭は、その質問に答える必要があるのか聞いてみる。

「そうです。それによって今後の対応が変わって来ますので」

「それなら仕方ない・・・のか? まあいいや。知ってるよ。というより、一番初めに俺が〈神殺し〉だということを知ったのはあの人だからね」

「そう・・・ですか」

 初めて知ったことに動揺を隠せない玲奈。

 そんな玲奈を気遣ったのか気になったのかどうか良くわからないが、智昭は唐突に話題を変えるのだった。

「それは置いといて、今日は2人とも一緒に帰れないってのは一体どうしたんかねえ」

「一体どうしたのでしょうか?」

 玲奈も疑問に思っていたらしく、首を傾げる。

 真相は、2人とも唯の用事であり、それ以上でもそれ以下でもないのだが。

「さてと、今日は仕事の為にさっさと帰って時間まで休むかな」

「そうした方が良いかもしれません」

 2人でそんなことを言いながら、一旦家に帰るのだった。





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