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第5話 ブラックボックス

処刑場に行くには余りにも爽やかな風が僕らの頬をなでた。

歩いたのはほんの5、6分くらいだろうか。

光瀬が足を止めたのは、もう何年も放置されている朽ちかけた民家の前だった。

門扉はなく、ただ伸び放題の雑草が、庭への侵入を阻んでいる。この家はけっこう悪名高い。

近隣の住民が文句を言っても自治体が動いてくれず、ちょっとしたお化け屋敷と化していた。

誰かが不法投棄していったタイヤや家電製品、廃材が雑草に埋もれて転がっている。


光瀬は敷地内に入っていくと、雨ざらしで錆びかけた黒い小型冷蔵庫の横に立った。

最近ではお目にかからない旧式ワンドア、高さ80センチくらいの冷蔵庫だ。


おとなしく付いてきた少年達は更に不安そうな表情でお互いを見合っている。

いったい何が始まるというのだろう。

ソラも不思議がっているだろうと横を見ると、彼は光瀬の方を目を輝かせて見つめている。

きっとソラに取って光瀬は兄というよりカリスマ的存在なのだろう。何をやり出すか好奇心満々と言った目だ。

ただの偏屈な物理オタクなんだということを、早いうちに教えてやった方がいいだろうか。


それにしても少年達はなぜあんな理不尽な誘いに乗ってきたのだろう。

光瀬と彼らにすでに接点があったのだろうか。

けれど少年たちの様子から、とてもそうは思えない。


光瀬はポンと土埃とサビまみれの黒い冷蔵庫を叩き、3人の少年を見渡したあと言った。

「さて、一番背の高い少年Aくん。この中には何が入ってると思う?」

「な・・・何って、何だよ」

少年Aと呼ばれたことに反論する余裕もないほど少年Aはたじろいでいた。

先程見てきた映画にも「少年A」「少年B」が出てきた。

いずれも犯罪者だったことを知ったらこの少年Aは怒るだろうか。

光瀬は眉を上下させてもう一度丁寧に少年達に聞いた。

「このドアを開けて、中を確かめる勇気が君たちにはあるかい?」


背の高いキツネ顔の少年Aが嫌なものでも見るように眉をひそめた。

色の浅黒い痩せた少年Bと、少し肥満気味の少年Cが顔を見合わせる。

「何の事ですか。こんな冷蔵庫興味ありませんよ。変な言いがかりを付けるんなら僕らにも考えがあります」

少年Aはここへ来て敬語だ。逆に好戦的だ。

「お、いいね少年A」

「少年Aじゃありません!」

やっと彼は光瀬の付けたネームに反論した。


「けれど少年A。君たち3人がここまで素直に付いてきたのには、理由があるんじゃないか? 後ろめたいことが」

そう言って光瀬はさっきと同じように自分の携帯を3人の前にかざした。まるで印籠を罪人にかざす水戸黄門ドラマのクライマックスシーンのようだ。

僕はなんだか面白くなって、口を挟まず成り行きを見ることにした。

ソラも僕のとなりでクルリとした目をさらに大きくして4人を見つめている。


光瀬はポンともう一度冷蔵庫を叩くと、

「よし、3人を代表して少年A、君がこのドアを開け」

「は? なんですかそれ」

少年Aは更に顔を歪めた。

「あれ? おかしいな。君たちは実験してたんじゃないのか? 昨日、この時間、ここで、このブラックボックスを使って」



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