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第4話 陰湿

「な、何だよあんた。何であんたに付いて行かなきゃなんないんだよ」

さっきソラを引きずり倒した背の高い少年が言った。光瀬ほどではないが170センチはあるだろう。

まあ、彼の疑問はもっともだ。

大学生に対してタメ口というのは気に入らないが、僕だってそう言うだろう。「『実験』ってなんだ」と。


「ついて来た方がいいよ。君たちの為に言ってるんだ」

相変わらず余裕の笑みで誘う光瀬を、僕も3人の少年も訝しげに見つめた。

けれど、

「君たち3人は、猫が好きかな?」

と言いながら自分の携帯を取り出してカメラのレンズを指さした光瀬に、少年3人は急におびえた表情になった。

なぜだ?


「一緒に行くよね。君らが仕掛けた実験だ。そして、実験は結果を見るためのものだ」

もちろん僕にはその光瀬の言葉の意味がまるで分からない。

けれど驚いたことに3人の少年は仲間同士で顔を見合わせたあと、おとなしく光瀬にしたがって歩き出した。

なんだ? どういう事? 訳がわからないのは僕だけなのか?


光瀬の後ろを、まるで亡者のように3人の少年はゾロゾロと不安そうについていく。

「いったいどんな呪文をかけたんだろう」と、僕がソラに聞くと、ソラはただ肩をすくめるだけだった。

彼も知らないのだろう。

仕方なしに、僕とソラも彼らのあとに続いた。


どうやらあの3人は学校でも頻繁にソラに絡んできているらしい。

並んで歩きながら、ソラはポツリポツリと話してくれた。

ぶつかって服が汚れただの、ソラは家を持たずホームレスのような生活をしているだの、妙な病気を持っているだの、よく分からない難癖をつけてはソラに絡むのだという。

1カ月一緒に寝起きしているが、そんな学校でのイジメのことは少しも知らなかった。

光瀬にも相談したことは無いという。そんなソラが意地らしくて不憫で、そして自分が不甲斐なくて辛かった。

イジメを目撃した光瀬は、きっとそれ以上にはらわたが煮えくりかえっているのではないだろうか。


「今回の化学のテスト、今までにないほどいい点を取ったんです、ボク」

ソラは照れながら、突然そう言った。

「へえー。良かったじゃない」

光兄みつ・にいのおかげです」

「光瀬の?」

「光兄が元素について徹夜で教えてくれたんです。水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム・・・。ただ順番に覚えるだけの退屈な周期表がぼくは嫌いだったんだけど、光兄は素粒子の話からじっくり教えてくれたんです」

「クオークからってこと?」

「はい。電子は素粒子だったんですね。陽子も中性子も素粒子であるクオークから出来ていて、その同じものの組み合わせで、この世の全ての物質が出来ているんだよって。いっぱい図を書いて、教えてくれました」

「そうだけど、・・・でもテストに出ない知識ばかり詰め込まれて迷惑だったんじゃない?」

「いえ、ただ順番に丸暗記するだけだった元素に、すごく愛着を感じることができました」

「物理はロマンだって言われなかった?」

僕は笑いながら聞いた。

「はい。ロマンだそうです」

ソラが、色白で中性的な顔をほころばせて笑った。


「そのお陰でぼくトップの成績を取れたんだけど、・・・あの3人がカンニングをしてるのを見たって言ってきたんです」

「は?」

「先生やみんなにバラして欲しくなかったら何でも俺たちの言うことを聞けって。昨日は、学校から家まで裸で帰れって言われて。もちろん、無視して帰りましたけど」

「バカバカしい! やっぱり光瀬に殴らせておけばよかった」

僕はあまりにも低レベルな言いがかりと陰湿なやり方に思わず声をあげ、前を歩く3人を睨みつけた。


「光兄はそんな乱暴なことしませんよ」

「・・・残念ながら、そうみたいだね。そのかわり3人を処刑場にでも連れて行くのかな」

「まさか」

ソラはカラリと笑った。



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