4、彼の優しさを体が覚えているのです
~前話あらすじ~
主人公は婚約者に逢うことができて、二人はゼロ距離になった。
触れても怪我をしなくなった主人公なのに、唇に彼の温もりを感じた途端、眠気に襲われる。
「なんで?」
私は目を開けて叫んだ。
何故かベッドの上で寝ていた。
何が起きたのか分からない。
「あっ、目が覚めたのですね」
私が起きたことに気付いて部屋へ若い兵士さんが入ってきた。
夢じゃないよね?
唇には、まだ温もりが残っている。
「彼は何処へ?」
「戦場へ向かわれました」
「嘘。あんなに弱っていたのに?」
「いいえ。元気に向かわれました」
「元気に?」
「どう伝えれば良いのか分かりませんが、姫様の力が注ぎ込まれたと言えばお分かりになりますか?」
「私の力が彼に、、、。では、彼は、どうして弱々しくなっていたのですか?」
「それは能力の使いすぎだからです」
彼の魔法の能力は、戦場で役に立つの?
それって人を傷付ける能力なの?
「彼は、どんな能力を持っているのですか?」
「それは触れた物を武器に変えることができます」
「何それ? 彼は人を傷つける物を作り出しているのですね?」
「そうですが、それは国を守るための仕方のない犠牲です」
酷い。
そんなことをさせるために、私の力を彼に与えた訳じゃないのよ。
行かなきゃ。
私はベッドから立ち上がり彼の元へ向かおうとした。
「きゃっ」
何か見えない壁にぶつかった。
私は目の前の空間に手を伸ばす。
見えない壁があった。
「すみません。姫様を此処から出すなと上官様に言われておりまして、僕の透明な箱を作る能力を使って出られないようにさせていただきました」
「出してよ」
「すみません。この戦が終わるまでは、お待ちください」
閉じ込めるなんて信じられない。
彼が人殺しの兵器になってしまう。
またボロボロになっちゃう。
どうしよう。
そう思っていたら、いきなり若い兵士が倒れた。
眠っているようだ。
そして、その後ろから見覚えのある顔が現れた。
「体の元の持ち主さん。どうしてですか?」
「彼女が危険察知の能力で教えてくれたんだよ」
「それは、ありがとうございます。本当に彼女さんの能力は私に負けないくらい無敵ですよ」
「俺も、そう思うよ。だから彼女を守り抜きたい」
体の元の持ち主さんの言葉には愛が溢れていた。
私も彼に言いたい。
彼を守り抜きたい。
体の元の持ち主さんと彼女さんにお礼を言って、私は急いで彼の元へ走った。
遠くから怒声が聞こえる。
その場所に彼はいるのだと思う。
空気が違う。
緊張や恐怖、悲しみや怒りなどたくさんの感情が混じりあう。
これが戦場なんだと思った。
「姫様、何故ここに」
彼は私を見つけて驚いている。
彼は少し疲れているようだった。
「私は、あなたを守りに来ました」
「ここは危険です。どうかお戻りください」
「いいえ、私はあなたの心を守りに来ました」
彼の心は傷ついている。
優しいあなたは苦しいはず。
私が傷ついただけで悲しむ、あなたなのだから。
「姫様を近付けるな。戦に負けてしまう」
中年男性が若い兵士達に指示をする。
私は若い兵士達に腕を掴まれ、引っ張られる。
「やめて!」
私は叫ぶことしかできない。
彼のために何もできない。
「触るな!」
彼が叫んだ。
今まで聞いたことのない怒りのこもった低い声で。
彼は私に近付き、私の手を取る。
若い兵士達は彼に怯えて私から手を離していた。
彼は私を抱き締めた。
「やっと、貴女に触れることができるのに。ワタシの手は汚れているのです」
「あなたの手は汚れてなどいないです」
私は彼の腕の中で彼を見上げる。
彼は悲しそうな顔で私を見ていた。
彼の心を救いたいのに、言葉じゃ伝わらない。
私は彼の胸を押し、一歩後ろへ下がった。
私が彼から距離を置いたことで彼は嫌われたと思ったのか、私から視線を外した。
私は、そんな彼の両手を私の両手で包んだ。
彼の手に力が入ったのが分かった。
彼は怯えている。
「私は知っています。私が怪我をする前に本当は助けようと手を伸ばしていたことを」
「えっ」
「あなたは汚れた手で私に触れるのが嫌だったのですよね?」
「どうして、、、」
「分かりますよ。あなたの優しさを傍で、ずっと見てきたのですから」
「貴女を守れなくて本当に申し訳ない」
「いいえ。私が怪我をした後の、あなたの行動は完璧でしたよ。何が起きてもいいようにと医者を近くに置き、私から目を離さないあなたの優しさは私の不安を取り除いてくれましたよ」
彼を見ていて、私のためにしていることが、なんとなく分かった。
もしかしたら元の体の持ち主さんの記憶を目や耳、体が覚えていたのかもしれない。
「貴女には敵わないですね。しかし貴女にはアレを止めることはできませんよ。ワタシにしかできません」
彼は遠くを見ている。
彼の視線の先を私は見る。
遠くの方で砂煙があがった。
何かが爆発したように見える。
戦場では今、この瞬間も戦いは続いている。
「私は、あなたのために此処にいます」
「えっ」
「私は、あなたの幸せのためなら命だって捧げます」
「いやっ、それは」
「私は何があっても、あなたを守り抜きます」
「貴女は自分よりもワタシを優先するのですか?」
「はい。あなたが私に、そうするようにです」
私の言葉に彼は目を見開いて驚いた。
私が何も知らないとでも思ったの?
これでも私、頭が良いって友達に言われていたのよ。
彼が私を置いて戦へ向かうなんて何か理由があるんだと気付いていた。
そして『病んでる姫』となって皆の陰口を聞いたの。
皆は私が病んでいるからって、聞いていないと思って私の傍で話をしてくれた。
彼が私を置いて戦へ向かった理由を。
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~次話予告~
主人公は望んで『病んでる姫』となった。
彼が戦へ行く理由を知るために。
そして心のない兵器となって戦おうとする彼を止める主人公が起こした奇跡とは?




