第八話:弱みの握り方
盗賊騒ぎが落ち着いて三日。
村は表向き平常に戻っていた。畑仕事も再開し、子供たちも走り回るようになった。
だが俺の中では、一つの確信が大きくなっていた。
この能力は、戦闘より人間関係で使う方がえげつない。
朝、村長に呼び止められた。
「レインくん、畑の割り当ての件なんだがね」
来た。
西外れの空き地。日当たりも水路もいい。父の家に回れば助かるが、村長はたぶん親戚へ流すつもりだ。
「西の外れ、うちに貸して」
先に言うと、村長は目を瞬かせた。
「おや、よく知ってるね」
「見てればわかる」
「いやあ、あそこは色々事情があって」
「そうなんだ。じゃあ今夜の“見回り”のついでにもう一回考えてくれる?」
村長の笑顔が固まった。
「……何のことかな」
「物置、寒くない?」
沈黙。
額に汗がにじむ。わかりやすい。
「だ、誰にも言うなよ」
「もちろん」
「絶対だぞ」
「その代わり、畑と種芋、少し優先で」
村長はがっくり肩を落とした。
「お前、子供の顔して言うことじゃないぞ」
「自覚はある」
その日の夕方、本当に西外れの土地がうちへ回ってきた。
父が不思議そうに言う。
「急に話が通ったな」
「村長が反省したんじゃない?」
村長の方を見ると、目を逸らされた。
学習は早い。
ミリアがその様子を見て、小声で言う。
「……あんた何したの」
「交渉」
「絶対きれいな交渉じゃないでしょ」
「結果オーライ」
「たまに怖いんだけど」
「気のせい」
「絶対違う」
さらに昼、見張り役の男が南の畑の陰で昼寝しているのを見つけた。
鍬を持ったまま、完全に寝ている。
俺はそこまで歩いて行き、麦をかき分けた。
「おはよう」
「うおっ!?」
男が飛び起きる。
「な、なんでわかった!?」
「さあ」
俺は笑う。
「次寝たら村長に言う」
「待て待て!」
そこへミリアが追いつく。
「……あんたさ」
「なに」
「ほんと、怖い」
「村を守るため」
「便利な言い訳ね」
でも否定はしなかった。
夕方、畑を耕しながら父が言う。
「嫌な力ほど使い道は多い」
「父さんまでそんなこと言う?」
「綺麗事だけで守れるほど、世の中優しくない」
それはたぶん真実だ。
前世でも、今でも。
俺は夕焼けに染まる村を見る。
平和だ。
その平和を守るためなら、少しくらい性格が悪くてもいいかもしれない。
少しくらいで済めば、だが。
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