第五話:夜の戦闘
最初の悲鳴は北から上がった。
短く途切れた声。
父が一人目を落としたのだとわかる。
「北、残り三! 一人は家畜小屋側!」
俺の声に合わせ、父が村内へ飛び込んだ侵入者を叩き伏せる。
速い。影みたいだ。
西では盗賊が倒木を乗り越えようとしていた。先頭三人が詰まり、後ろが押す。渋滞が起きている。
「西、左から二人回る! 畑側!」
ゲイルたちが動く。
槍の穂先で押し返し、また下がる。殺しきる必要はない。混乱させれば十分だ。
「見えねえ!」
「何人いるんだ!」
「伏兵か!?」
暗闇は人を弱くする。
しかも向こうにはこちらの数がわからない。村全体が起きて囲んでいるように感じているはずだ。
南では六人が畑道から接近し、水路を踏み抜いた。
「南、二人転倒! 残り四!」
父が移動する。
西から北、北から南へ。人間の機動力じゃないだろ。
ミリアが倉庫で年下の子を抱きしめているのが見える。そのすぐ外へ、北から逃げた盗賊の一人が回り込もうとしていた。
「父さん! 倉庫裏、一人!」
父の軌道が変わる。
短剣持ちの盗賊が倉庫へ飛び込む直前、父の蹴りが脇腹に入った。男は壁に叩きつけられて沈む。
倉庫の中で子供たちが泣き声を上げる。ミリアが必死に「静かに」と抑える。
そのまま南。
父は水路を越えた二人を一瞬で落とし、弓持ちに石を投げた。異常な命中率で腕に当たり、弓が落ちる。
「父さん、ほんとに農民?」
「今さらか」
いや今さらだけども。
西では後方に一人、冷静に指示を出している男がいた。斧持ち。こいつがまとめ役だ。
「西の後ろ、でかい斧! 賢い!」
「最悪だな」
ゲイルが吐き捨てる。
「同感」
ならもっと混乱させる。
「湿った枝に火! 煙を出して!」
村人たちが急いで枝束へ火を移す。白い煙が西の入口を覆い、盗賊たちの視界を潰した。
「見えねえ!」
「下がれ!」
「押すな馬鹿!」
いいぞ。
その中へ父が飛び込む。
「そこ、斧!」
俺の声で、父の鎌の柄が斧男の顔面へ叩き込まれた。男がぐらつく。返す足で吹き飛ばし、後列を巻き込んで倒す。
空気が変わる。
統率が死んだ。
「今! 大声! 囲んでるふり!」
村人たちが一斉に叫ぶ。
「逃がすな!」
「後ろも回れ!」
「挟め!」
もちろん挟んでいない。後ろも回っていない。
だが夜と煙と恐怖の中では、それで十分だ。
盗賊側が崩れた。
「話が違う!」
「こんな村じゃなかっただろ!」
そりゃそうだ。今夜のうちはな。
南の残党も父が片づける。
そして西の奥で、新たな五人が動いた。
その中心に、他より強い気配。
「……ボスか」
俺は息を吐いた。
「父さん、まだ奥に五。でかいのが一人」
父の口元が獰猛に歪む。
「やっと親玉か」
「嬉しそうに言うな」
「締まるだろ」
「締まらなくていい!」
この状況で会話が軽いの、ほんとおかしい。
でも、その軽さのおかげで俺も頭が回る。
まだ終わらない。
だけど、村は持ちこたえている。
それだけで十分すぎる成果だった。
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