第四話:軍師レイン
夕暮れの村は、普段よりずっと静かだった。
炊事の音さえ小さい。子供たちは倉庫へ移され、老人もまとめられている。
見張りは配置につき、男たちは倒木や石を運んでいる。
俺は中央の広場で、最終確認をしていた。
「西は絶対に深追いしない。押して引く。足止め優先」
「わかった」
「南は踏み抜かせたらすぐ離れる。戦うな」
「了解」
「北が一番危ないから、父さんは最初そこ」
父が腕を組む。
「本命は西なんだろ」
「だからこそ、みんな西を見る。北は“裏を取った”と思って油断する」
父の口元が上がる。
「性格が悪い」
「褒め言葉として」
「受け取るな」
受け取ります。
ミリアは縄を抱えて走り回っていた。
「倉庫の水、あと二つ!」
「そこに置いといて!」
ただ避難しているだけじゃない。年下の子を安心させ、必要な物を運び、母の手伝いもしている。こういう時に動ける人間は強い。
準備の合間、ミリアが俺の横へ来た。
「はい」
「何これ」
「薬草茶。リディアさんが落ち着くからって」
リディアさんとは、母さんのことだ。
「ありがたい」
受け取ると、彼女はじっと俺を見る。
「……ほんとに大丈夫?」
「ああ」
「即答した」
「でもやるしかない」
ミリアは少し黙ってから、ふっと笑った。
「なら、せめて死なないで」
「物騒だな」
「盗賊来る夜に何言ってんの」
確かに。
日が落ちて、村は闇に包まれた。
中央の物陰に陣取り、俺はエリアサーチを広げる。
半径1kmの盤面。
西の入口、南の畑道、北の獣道、倉庫、井戸、家畜小屋、全部見える。
森の奥の盗賊たちも見える。
西二十、南六、北四。
その動きは、青白い駒みたいに頭の中を流れていく。
父が隣に立つ。
「緊張してるか」
「してる」
「俺もだ」
「嘘つけ」
「少しはな」
父は軽く肩を回した。
全然少しに見えない。楽しそうにすら見える。ほんと何者なんだよ。
やがて、乾いた音が響いた。
西の罠だ。
「来た」
俺は息を吸う。
「西二十。南六。北四。父さん、まず北」
「了解」
父が闇へ消える。
俺は広場で叫んだ。
「西、先頭三人詰まってる! 押せ、でも出るな!」
村人たちが長い棒を突き出し、倒木越しに押し返す。
盗賊たちの怒声が上がる。
「なんだこれ!」
「道が塞がってるぞ!」
「火を寄こせ!」
いいぞ、混乱しろ。
その間に北では、父が最初の一人を沈めた。
「北、残り三! 一人回り込む!」
声を飛ばす。
父は迷わず動く。
そしてそのたびに敵が消える。
やっぱりおかしい。いや味方だから助かるけど。
倉庫方面でミリアが子供たちを落ち着かせているのも見える。
泣きそうな子の背中を叩きながら、「大丈夫、大丈夫」と言って回っている。
この状況であれができるのは強い。
父の声が北から飛ぶ。
「一人逃げた!」
「放置! 侵入優先!」
西はまだ詰まり、南もそろそろ板を踏み抜く頃。
全部が盤面だ。
頭が熱いのに、思考だけは冷える。
やれる。
この一キロの中なら、やれる。
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