第三話:村を襲う盗賊団
集会所には、いつもの牧歌的な空気がなかった。
村長、狩り経験のある男たち、父、母、そして俺とミリア。全員の顔に緊張が浮かんでいる。
「本当に三十人もいるのか?」
村長が青い顔で聞く。
「十中八九それくらいだ」
父が答える。
「子供の見間違いでは」
「ない」
父の一言で空気が黙る。
圧が強い。
普段はただの無口な農民っぽいくせに、こういう時だけやたら説得力がある。
村長が唾を飲み込んだ。
「どうする。男を集めて迎え撃つしか……」
「無理だな」
父は即答した。
「相手は襲うことに慣れてる。こっちは農具持ちの村人だ。正面からやれば潰される」
沈黙。
誰も反論できない。
そこで俺は口を開いた。
「まとめて来られるから無理なんだ」
視線が集まる。痛い。俺は目立ちたくない派なんだが。
「分ければいい」
「分ける?」
ミリアが聞き返す。
俺は地面に村の見取り図を描いた。
「西からの森道が本命。狭い。倒木と石でさらに塞げば、先頭が止まって後ろが詰まる。南は畑道、水路を外して踏み抜かせる。北の獣道は細い。少人数しか通れない」
「それで」
「相手が一度に村へ入れないようにする。焦って分かれたところを、こっちは各個に叩く」
狩人のゲイルが目を細める。
「なるほど。分断か」
「そう。それに相手は村の構造をちゃんと知らない。こっちは知ってる」
正確には俺が立体で知ってる。
村長が腕を組む。
「だが、それで勝てるのか」
「勝つんじゃなくて崩す」
俺は西の入口を指した。
「楽に奪えると思ってた村が、夜の暗闇でいきなり予定外の動きをしたら、盗賊は混乱する。見えない、進めない、どこに敵がいるかわからない。それだけで統率は崩れる」
「お前、なんでそんなことがわかる」
「悪い奴って、予定が狂うと弱いから」
前世知識です。
小物管理職と盗賊はだいたい同じだ。予想外に弱い。
母が静かに口を開く。
「でも、敵の動きを読む人が必要ね」
「いる」
父が俺を見た。
うわ、そこで振るか。
俺は観念して言う。
「たぶん、夜でも敵の位置がわかる」
ざわめきが起こる。
「どういうことだ?」
村長が問う。
「森のどこに何人いるか、だいたい。だからどっちから回るか、今どこにいるか、伝えられる」
「そんなことができるの?」
ミリアがじっと俺を見る。
その視線が鋭い。
全部はわからなくても、何かおかしいと気づいている目だ。
「よくわかんないけど、見える」
「……」
ミリアはさらに何か言いたげだったが、今は飲み込んだ。
助かる。
父が言う。
「今夜はレインの指示を優先する」
「子供に?」
村長の顔が微妙に歪む。
父は平然と言った。
「意地を張って死にたいなら止めん」
正論が強い。
村長は苦い顔で頷いた。
作戦は決まった。
西を詰まらせる。
南は足止め。
北は少数侵入を叩く。
中央には明かりを多く置いて人がいるように見せ、実際の戦力は入口付近に集中させる。
音の罠も使う。桶、板、縄。触れれば鳴るようにする。
会議の後、村人たちは一斉に動き始めた。
その中でミリアが俺の隣へ来た。
「ねえ」
「何」
「あんた、ほんとに見えてるの?」
「なんとなく」
「便利な言葉ね、それ」
「便利だろ」
ミリアはため息をついた。
「でも、今のあんた、ちょっと怖い」
「褒め言葉?」
「違う」
言い切られた。
でも彼女は離れない。
「で、私に何やれって?」
そう聞いてくる。
この子、いいな。
「倉庫組の手伝い。子供たちの面倒見て」
「了解、軍師様」
「その呼び方やめろ」
「似合ってる」
全然嬉しくない。
でも、その軽さに少し救われた。
夜が近づく。
森の奥で、盗賊たちが動き始めた。
西に二十、南に六、北に四。
予想通りだ。
俺は息を吸う。
怖い。
でも、頭は妙に冷えていた。
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