第二話:森の武装集団
父は家に戻ると、鎌を持ち出した。
形は農具だ。
だが握り方が農民のそれじゃない。重心の置き方が洗練されすぎている。
「お前は残れ」
「俺も行く」
即答した。
父が眉を上げる。
「危ないぞ」
「敵の位置がわかるなら、いた方がいい」
前世の俺なら危険な現場から全力で距離を取っただろう。だが今は違う。見えている情報を伝える人間が必要だ。
父は少し黙ってから頷いた。
「俺の後ろから離れるな」
「了解」
村の裏手から森へ入る。
湿った土、落ち葉、木漏れ日。普通なら視界の悪い森だが、俺には頭の中の地図がある。木の根も窪地もわかるから、音を立てずに進めた。
「右の斜面の陰に二人」
小声で言うと、父は足を止めずに問う。
「武器は」
「短剣と弓。前にもう二人」
「そこからなんで見える」
「今日は調子いい」
「調子がいい?なんにせよ便利だな」
父が苦笑した次の瞬間、姿が消えた。
「は?」
気づいた時には右斜面の男の首筋に父の手刀が入っていた。
もう一人は口を塞がれたまま鳩尾を打たれて沈む。
速い。
いや、速いなんてもんじゃない。
人間の速度かそれ。
父はそのまま前方の二人にも突っ込み、一人を鎌の柄で顎に打ち、一人を蹴り飛ばして終わらせた。
四人、制圧。
早すぎる。
「父さん」
「なんだ」
「普通の農民って、盗賊四人を十秒で片づける?」
「ちょっとできる農民もいる」
「絶対いない」
父は答えず、盗賊の荷物を調べる。縄、乾パン、粗末な地図、見張り用の笛。偵察隊で間違いない。
「やっぱり盗賊か」
「たぶん」
俺はエリアサーチを森の奥へ広げた。
そして、息を呑む。
四人の先に、もっと大きな集団がいた。
焚き火の跡。
荷馬車。
散開した見張り。
二十……いや三十近い。
「父さん」
「どうした」
「本隊がいる」
父の空気が変わる。
「どれくらいだ」
「三十前後。西の沢を越えた先。野営してる」
「……見間違いじゃないな」
「そっちだったら嬉しい」
父は短く息を吐いた。
「戻るぞ」
「ここで潰さないのか」
「一人で飛び込んでも取り逃がす。連中の狙いが村なら、守る準備が先だ」
村へ戻る道すがら、俺は盗賊の配置を追い続けた。
隊列は雑だが、あいつらは慣れている。村を襲うことに躊躇がない動きだ。
戦力差は絶望的。
父が強いのはわかった。化け物じみて強い。
だが一人で三十人を相手にしながら、村人全員を守りきれるかは別問題だ。
つまり。
「このままだと村は壊滅する」
俺が呟くと、父が横目で見た。
「だろうな」
「だから正面からやるのは駄目だ」
「……ほう」
そこで父の口元が少し上がる。
「考えがあるのか」
「まだ途中。でもたぶん」
「なら戻って聞かせろ」
村へ戻った時、ミリアが真っ先に駆け寄ってきた。
「レイン! 何してたのよ!」
「森の散歩」
「嘘つけ顔が違う」
そこで父が低く言う。
「ミリア、今から村長を呼んでこい」
「え?」
「急げ」
ミリアの顔から軽さが消えた。すぐに頷き、走り出す。
勘がいいだけじゃない。空気も読める。
父はそんな彼女の背中を見送り、俺に言った。
「お前が見た敵の位置、全部教えろ」
俺は地面に枝で森の地図を描き始めた。
沢、倒木、野営地、見張りの位置、進行しそうなルート。
説明するほど、自分でもわかってくる。
この能力はただ便利なだけじゃない。
戦場そのものを変えうる。
父は描き終えた地図を見て、低く言った。
「厄介だな」
「うん」
「だが、お前がいるなら、手はあるかもしれん」
その一言が、妙に重く胸に残った。
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