第二十一話:父抜きの初依頼
ガロンが村に来て三日。
結論から言うと、めちゃくちゃ目立った。
そりゃそうだ。
村にあんな巨体が増えたら、目立たない方がどうかしている。
「ガロンおにーちゃん、でかーい!」
「だろう!」
「すごーい!」
「だろう!」
子供には妙に人気だった。
なお大人たちからは、「納屋の梁に頭ぶつけるな」「畑を踏むな」「井戸の縁に座るな」と厳重に管理されていた。
妥当である。
俺は畑の端でその様子を見ながら、つくづく思う。
「扱いやすい大型犬みたいだな」
「犬の方がもう少し賢いんじゃない?」
隣でミリアが真顔で返した。
「ひどい!」
遠くにいたガロンがなぜか聞きつけて叫んだ。耳もいいのかこいつ。
そんな朝、父が町から戻ってきた。
荷袋を軽く揺らしながら、いつもの無表情で歩いてくる。だが、家に入るなり言った。
「お前ら向けの話がある」
嫌な予感と期待が同時にきた。
父が卓に置いたのは、ギルドの依頼書だった。
「近場の浅いダンジョンで、最近やたら事故が増えてる」
「ダンジョン?」
ミリアが身を乗り出す。
俺も自然と視線がそこへ吸い寄せられた。
父は続ける。
「元は低ランク向けの採集洞窟だ。薬草、鉱石、たまに小型魔物。危険度は高くない。だが、ここ数週間で迷子と負傷者が増えてる」
「魔物が増えたとか?」
「それもあるらしい。ただ、帰ってきた連中の話が妙なんだ」
「妙?」
「道が変わっていた、壁が増えていた、通れるはずの場所が塞がっていた、逆に行き止まりだったはずの先に空間があった。そういう話が噛み合わない」
俺の頭が少し速く回り始める。
地形変動。そんなことあるのか。
あるとして、普通の冒険者には厄介だが、俺にはかなり相性がいいだろう。
「行きたい」
気づけば口にしていた。
父は頷いたが、次の言葉は予想外だった。
「今回、俺は行かん」
「え?」
思わず聞き返す。
ミリアもガロンも固まった。
「いや、そこは行く流れじゃないの?」
俺が言うと、父は腕を組んだ。
「俺が行くと、だいたい全部終わるだろう」
「否定できない」
「今回はお前らの仕事にしろ」
あまりにも正論だった。
この父親が同行したら、たぶんダンジョンの問題は全部暴力で解決する。訓練にもならないし、物語としても困る。いや最後のは言わないけど。
母が静かに湯呑みを置く。
「いいんじゃないかしら」
「母さんまで」
「レインは見て考える。ミリアは支える。ガロンは前に立つ。ちゃんと形になってるわ」
そう言われると、少しだけ背筋が伸びる。
父抜き。
つまり、本当に俺たちだけだ。
「護衛枠として、ギルドから一人くらい軽い手伝いはつくかもしれん」
父が言う。
「だが基本はお前らで回せ」
「……了解」
怖い。正直、かなり怖い。
かなり大人ぶった言動をしているだろう俺にも怖いものはある。
でも同時に、妙に胸が熱くなった。
これは初めての“自分たちの依頼”だ。
父の背中に隠れず、俺たちが全てやる。
ガロンが胸を叩く。
「任せろ! 俺が前だ!」
「そうだな」
「じゃあ私は?」
ミリアが聞く。
俺は彼女を見る。
「後ろで俺の補助。弓と観察」
「了解」
「俺は?」
ガロンがまた聞く。
「だから前」
「おお! わかりやすい!」
助かる。
父は俺を見て、少しだけ真面目な顔になる。
「レイン」
「何」
「見えるからって、全部どうにかなると思うな」
胸に刺さった。
「……うん」
「見えた情報をどう使うか、そこが勝負だ」
「わかってる」
たぶん、本当に大事なのはそこだ。
見えるだけなら地図だ。
そこから判断して、人を動かして、危険を避けて、勝ちに変える。
それができて初めて、力になる。
その夜、寝床でエリアサーチを広げながら考えた。
村の中ではもう慣れた能力だ。
でもダンジョンは違う。地形、空洞、隠し通路、魔物の位置。全部がむき出しで価値になるように思う。
「……相性いいよな」
小さく呟く。
怖い。でも、面白そうだ。
初めて父抜きの依頼。
そこで俺の能力がどこまで通じるのか。
試すには、ちょうどいい舞台だった。
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