第十八話:でかい駒、増える
倉庫街の件は、ギルドにとって予想以上の当たりだったらしい。
捕まえた連中は、町の商人から流れた品を横流ししていた小規模な密売グループだった。大物ではないが、放置すると厄介なタイプ。
支部長は珍しく機嫌が良かった。
「倉庫地下の発見といい、今回といい、ずいぶん仕事が早いな」
「勘のいい奴がいるからな」
父がさらっと俺を見る。やめろ注目を集めるな。
ガロンは胸を張った。
「あと俺が強い!」
「それも間違ってはない」
実際、間違ってないのが腹立つ。
ミリアはカウンター横で呆れたように肩をすくめた。
「でかい駒よね」
「駒ってなんだ?」
ガロンが聞く。
「強くてわかりやすくて、前に置いとくと相手が嫌がるやつ」
「おお! 褒められてる!」
「まあ半分くらいは」
喜ぶんだ、それで。
俺は椅子に腰かけながら、ガロンを改めて観察した。
巨体。膂力。素直。単純。考えるのは苦手。でも指示に従う気はある。
……強いな、これ。
父みたいな完成された化け物とは違う。粗い。隙も多い。だが、扱い方を間違えなければかなり役立つ。
何より、読みやすい。
腹が減る、嬉しい、困る、悔しい、その全部が顔に出る。こういう相手とは組みやすい。
支部長が報酬の袋を机に置いた。
「今回の分だ」
中身は銀貨と銅貨。思ったより多い。
ミリアが目を丸くする。
「けっこう入ってる」
「危険込みだからな」
支部長はそこで少しだけ真面目な顔になって一言。
「ただし、あまり表立って“レインの有能により解決した”は言わない方がいい」
「あんたもそう思うか」
父も合わせるように言う。
「当然だ。便利すぎる人間は囲われる」
支部長の言い方は軽いが、目は笑っていなかった。
俺は黙って頷く。
やっぱりそうか。
町に出れば、村よりずっと多くの人間がいる。善人も悪人も、利用価値を嗅ぎつける奴も。
「だから表向きはこうだ」
支部長が指を立てる。
「エドの経験、ミリアの観察、ガロンの力、そしてレインの勘がいい。これで通す」
「勘が便利ワードすぎる」
「便利だからな」
父と支部長の返答が揃った。
ちょっと嫌だなこの一致。
その後、ギルドの食堂スペースで遅い昼食を取ることになった。
ガロンは山盛りの肉とパンを頼み、ものすごい勢いで食べている。
「うまい!」
「幸せそうだな」
俺が言うと、ガロンは真顔で答えた。
「飯は大事だぞ!」
「知ってる」
「あと仲間も大事だ!」
「急にいいこと言うな」
「今のいいことだったのか?」
「たぶん」
ガロンは満足そうに頷く。
バカだ。
でも嫌いじゃない。
ミリアがスープを飲みながら、ぼそっと言う。
「この人、騙されやすそう」
「よく言われる!」
「自覚あるんだ」
「でもお前らは騙さない顔してる!」
それを真っ直ぐ言えるの、ちょっと強いな。
俺は少しだけ視線を逸らす。
"騙さない"か。
俺はたぶん、必要なら相手の秘密も弱みも使う。そういう戦い方を選ぶつもりだ。
でも少なくとも、仲間にする相手には別の線を引きたい。
そう思うくらいには、こいつらといるのは悪くなかった。
「ガロン」
「おう!」
「今、定住してるのか」
「してない!」
「そう」
「依頼受けて、飯食って、寝て、また依頼!」
「すごくシンプルだな」
「シンプルが一番!」
たぶん生活力は低い。
だが、だからこそ声をかけやすい。
俺は父を見た。
父は少しだけ面白そうに口元を上げる。
完全に読まれているな。
「……しばらく村に来るか?」
そう言うと、ガロンは肉を咀嚼したまま止まった。
「村?」
「飯は出る。たぶん」
「たぶんなんだ」
「畑仕事も手伝ってもらう」
「俺、力仕事得意!」
「知ってる」
ミリアが横から言う。
「でも家潰さないでよ」
「潰さない! たぶん!」
「その“たぶん”不安しかないんだけど」
ガロンはしばらく真剣な顔で考え、やがて大きく頷いた。
「行く!」
即決だった。
「早いな」
「飯と仲間があるなら十分だ!」
前向きすぎる。
でも、その単純さが妙に頼もしかった。
こうして、俺たちの仲間は、驚くほどあっさり増えることになった。
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