第十六話:物騒が続く
隠し通路の発見は、ギルドでちょっとした騒ぎになった。
管理人が旧帳簿と銀貨を抱えて走り、受付の女性が上司を呼び、父が淡々と事情を説明し、ガロンが「俺もいた!」を三回くらい主張した。
いや、いたのは本当だけど。
「まさか倉庫地下に旧保管室があるなんて……」
受付の女性が頭を抱える。
奥から出てきた年配の男――支部長らしい――は帳簿をめくり、眉間に皺を寄せていた。
「これは面倒だな」
「面倒?」
「かなり面倒だ」
俺が聞くと、支部長はあっさり答えた。
「古い領主家時代の保管記録が出てきた以上、所有権や未報告の資産整理が必要になる」
「面倒な爆弾だ」
「言い得て妙だな」
前世でもたまにあった。見つからない方が平和だった資料ってやつだ。
だがギルドとしては損だけではないらしい。未整理の保管物が正式に回収できれば利益にもなる。
その結果、俺たちには追加報酬が出ることになった。
「おお!」
ガロンが歓声を上げる。
「飯が増える!」
「思考が単純」
ミリアが呆れたように言う。
だが実際、初めて町でやったこととしては上々すぎる成果だった。
その後、支部長が俺たちを見て言った。
「一つ頼みがある」
嫌な予感。
「倉庫整理に関連して、もう一件だけ軽い確認依頼を受けてほしい」
「軽い?」
父が聞く。
「旧倉庫街の外れに、使われていない物置がある。記録上は空のはずだが、最近になって夜に人影が出入りしているという話がある」
俺は少しだけ身を乗り出した。
「盗賊?」
「まではわからん。ただ、不法占拠か密売の類かもしれん」
「で、軽いの?」
「確認だけならな」
その言い方、だいたい軽く終わらないやつだろ。
でも正直、興味はある。
町の中で人が隠れる場所。しかも旧倉庫街。俺の能力との相性が良すぎる。
「受けるの?」
ミリアが小声で聞く。
父は一瞬だけ俺を見る。
完全に判断を投げてきたな。
「確認だけならいける」
俺は言った。
「場所と構造が見えれば、危ないなら近づかなくていい」
父が頷く。
「ならやる」
ガロンが胸を叩いた。
「任せろ! 怪しい奴は殴ればいい!」
「確認だけって言ってるだろ」
「じゃあ確認してから殴る!」
「精度は上がったけど駄目だ」
旧倉庫街は町の西寄り、川沿いにあった。
人通りは中心街より少なく、石造りの古い建物が並んでいる。壁には苔、木戸は軋み、夕方の光が長い影を落としていた。
いかにも怪しい。
俺はエリアサーチを広げる。
問題の物置は、二階建ての小さな倉庫。表向きは空だが、内部には人が三人。地下に一人。箱が十個ほど。裏に抜け道。なるほど、かなり黒い。
「誰かいる」
「何人だ」
父の声が低くなる。
「中に三。地下に一。裏口あり」
父、ミリア、ガロンが一斉に俺を見る。
「何気に一番物騒な報告ね」
ミリアが言う。
「中にいたらどうする」
「表と裏を見張って、出てくるの待つ」
「賛成だ」
父が即答した。
正面突破は避ける。いい判断だ。
ガロンだけが少し不満そうだった。
「殴らないのか」
「まだ」
「まだ?」
「まだ」
言い聞かせるように繰り返す。
しばらく待つと、倉庫の二階にいる男の一人が動いた。窓際。帳簿のようなものを見ている。もう一人は一階。残り二人は地下と裏口近く。
密売か横流しだろうか。
だが、その時、別の人影が近づいてきた。
五人。
武装。
「……追加」
「何人」
「こっち来る。たぶん仲間」
父の目が細くなる。
「面倒だな」
「うん」
軽く見るだけと言った町での初依頼は、やっぱり軽く終わりそうになかった。
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