第十五話:隠し通路の先
壁の向こうに口を開けた通路は、人一人がやっと通れる幅だった。
天井も低い。湿った空気が流れ、長い間開いていなかった匂いがする。
管理人の老人は青い顔をしていた。
「こんなものがあったとは……」
「知らなかったのか」
父が聞く。
「この倉庫自体、昔の建物を使い回してるだけだ。地下の奥まで調べた者なんてほとんどおらん」
なるほど。
建物ってそういうのあるよな。前世でも古いオフィスビルほど、意味不明な配線とか使われてない倉庫とかあったし。意図的に閉じられてるのは気になるが...
異世界でも一緒か。
俺はエリアサーチで通路の先を探る。
長さは二十メートルほど。途中に段差。終点は小部屋。箱が三つ。あと、金属っぽいのがいくつか。
「先に部屋がある」
「宝か!?」
ガロンが食いついた。
「たぶん」
「行くぞ!」
「待て」
父が首根っこを掴む。
「ぬお」
「お前が先に行くと壁ごと壊れる」
「ひどい!」
「正しい」
ミリアが真顔で頷いた。
俺たちは慎重に進むことになった。
先頭は父。その後ろに俺、ガロンは“でかすぎて通路に詰まりそうだから最後尾”、ミリアは入口待機となった。
「なぜ先頭はダメなんだ?」
「体積の問題」
「おお、難しい言葉だ、わかった」
「理解したふりするな」
父が小さく息を吐く。
「騒ぐな」
「はい」
さすがに俺も怒られた。
通路の中はひんやりしていた。土と石の感触、足元の湿り気、壁に残る古い削り跡。人工の通路で間違いない。
そして、奥の小部屋。
扉はない。崩れた石の先に、四畳半くらいの空間がある。
箱が三つ。
壁に古い棚。
金属片。
そして――骨。
人骨が一つ、壁際に座るような形で残っていた。
「うわ」
さすがに声が漏れる。
父は静かに周囲を確認した。
「古いな」
たぶん何十年単位だろう。衣服もほぼ朽ちている。
俺は小部屋の構造を探るが、罠っぽいものはないようだ。
「大丈夫そう」
「そうか」
父が箱を一つ開ける。
中には古い帳簿らしきもの、硬貨、そして革袋。
「管理人」
父が呼ぶと、入口側から老人が恐る恐る顔を出した。
「な、なんだ」
「倉庫の旧記録っぽい」
老人が目を見開く。
「旧記録!?」
反応がやたら大きい。
「重要なのか?」
俺が聞くと、老人はうなずいた。
「この倉庫、昔は領主家の管理下だったんだ。帳簿が残っていれば、権利関係や保管物の記録がわかるかもしれん」
なるほど。宝箱というより行政爆弾である。
でも現実的でいい。
もう一つの箱には古い工具や鍵束、三つ目には銀貨が入っていた。
ガロンが目を輝かせる。
「おおおお!」
「静かにしろ」
父に低く言われてすぐ口を押さえる。やっぱり素直だな。
そして気になるのは骨だ。
壁際に残っていた人骨の手元には、小さな金属板が落ちていた。父が拾う。
「ギルド証?」
「昔の、だな」
父は裏面を見て少し眉を動かした。
「探索者か」
古い冒険者か、それに近い人間がここで死んだらしい。誘い込まれて、閉じ込められたのかもしれない。
俺は小部屋の空気を吸い込み、少しだけ背筋が冷えた。
ダンジョンですらないただの倉庫地下でこれだ。
外の世界ってやつは、本当に“知らないまま死ぬ”ことがあるんだろう。
その時、エリアサーチで別の違和感が見えた。
小部屋の奥の床下。
薄い空洞。
「まだ、ある」
俺が言うと、父が振り向いた。
「何が」
「父さんの床の下。薄い空間」
管理人が本気で引いていた。
「お前、本当に何なんだ」
「今日はほんとに勘が冴えてる」
誤魔化しになってないが、もう勢いで通す。
父が床石の継ぎ目を探り、一枚を外す。
そこにあったのは、小さな革箱だった。
鍵は古びていたが壊れている。父が開ける。
中身は手紙と、青い石のついた指輪。
俺は思わず目を細めた。
指輪の石、オーラのような魔力っぽい反応が見えるある。
正直 “魔力”なんてまだよく分かってないが、それでも普通の金属とは違う感覚を持つ。
父も一瞬、表情を変えた。
「……魔導具のようだな」
「すごいの?」
「わからん」
「盛り上がる答えじゃないな」
俺が言うと、父は苦笑した。
「だが、ただのガラクタではない」
管理人は完全に混乱しているようだった。
古い帳簿、銀貨、指輪、冒険者の骨。
地下倉庫の整理依頼が、一気に“ちょっとした事件”へ変わった。
そして俺は、その混乱の中で思う。
やっぱりこの能力、ダンジョン攻略向きだ。
隠し通路。隠し部屋。見落とされた物。
見つかるだけで盤面が変わる。
面白い。かなり面白い。




