表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半径1kmの神様  作者: ずむずむ
第二章:辺境ギルドとおバカな巨人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/23

第十二話:冒険者ギルド

 町へ向かう朝は早かった。

 まだ空が白み始めたばかりの時間、俺と父、それから大きな籠を背負ったミリアが村の入口に立っていた。

「忘れ物ない?」

 母が聞く。

「ない」

「大丈夫」

「ほんとかしら」

 主に俺の方を見て言うのはやめてほしい。否定しづらい。


 村から森を抜け、丘を越え、小川沿いに続いている。村の中だけで生きてきたレインの記憶にもある道だが、今の俺には全部が少し新鮮だった。

 そして何より、エリアサーチの感覚が違う。

 村を中心にしていた頃は“自分の縄張り”だったが、移動するとその1km圏も一緒にずれていく。当然といえば当然だが、実感すると面白い。

 森の獣道、崖の窪み、小川の浅瀬、旅人の位置。

 全部が流れるように頭の中を通っていく。

「楽しそうな顔してる」

 ミリアが横から言う。

「わかるか?」

「なんとなく」

「便利な言葉使うな」

「真似」

 少し悔しい。


 町が見えてきたのは昼前だった。

 低い石壁に囲まれた、村とは比べ物にならない規模の集落。門、見張り台、露店、荷車、人、人、人。

「おお……」

 思わず声が出た。

 前世の都会ほどではない。だが、辺境の村から見れば十分に“町”だ。匂いも情報量も違う。焼いた肉、革、汗、馬、薬草、酒。いろんな臭いが混ざっている。

 ミリアも目を丸くしていた。

「すご……」

「迷うなよ」

 父が釘を刺す。

「子供扱い」

「実際まだ子供だ」

 否定できないのがつらい。

 門をくぐると、通りの両脇に店が並んでいた。鍛冶屋、食堂、雑貨、布、露店。客引きの声が飛び交い、荷車が通り、子供が走り抜ける。

 俺はエリアサーチで周囲を確認する。

 店の奥、路地裏、人の流れ。死角が死角じゃないのはやっぱり強い。

 そして一つ思う。

 町、秘密多そうだな。

 いや考えるな。初日から嫌な見方をするな。


 父が向かったのは、通りの一角にある石造りの建物だった。

 看板には剣と盾の紋章。

 冒険者ギルド。

「来たか」

 父の声が少し低くなる。

 中に入ると、熱気と酒の匂いが迎えてきた。

 広いホール。依頼書の貼られた掲示板。受付カウンター。荒っぽい格好の冒険者たち。筋肉率が高い。あと声がでかい。

 受付の女性が父を見るなり立ち上がった。

「エドさん。お待ちしてました」

「手続きの続きだ」

「こちらへどうぞ」

 父は慣れた様子でカウンターに向かう。やっぱり“昔ちょっと”じゃ済まないだろこれ。

 村の依頼報告などで何度かはこの町へ来ているらしいが、やりとりのスムーズさに言い表せない違和感がある。


 俺とミリアは少し離れた場所で待つことになった。

「どうする?」

「とりあえず見る」

 こういう場所は観察が大事だ。前世の展示会営業と同じである。違うのは客が剣を背負ってることくらいだ。

 掲示板には依頼が並んでいた。

 薬草採集、荷運び、魔物討伐、護衛、捜索。

 ランクごとに分かれていて、下の方は雑用も多い。なるほど、生活がかかってるな。

 ミリアは薬草関係の依頼に目を留めている。

「こっち、採集依頼ばっかり」

「興味ある?」

「ちょっとね」

「弓じゃなくて?」

 つい口にすると、ミリアがぎくっとした。

「こ、この前の丘でのこと?」

「練習してるんだろ」

「この前は遊びで…!」

「毎朝見てたけど」

「見てたの!?」

「いや、正確には、見えてた」

 慌てて弁解するが、だいたい同じかもしれない。

 ミリアは真っ赤になった。

「言わないでよ、それ」

「言ってないだろ」

「今言った!」

「他人に、って意味で」

 彼女はしばらく睨んできたが、やがて小さく息を吐いた。

「……冒険者、ちょっと興味あるだけ」

「知ってる」

「ほんと、そういうとこ腹立つ」

 でも怒りきれない顔だった。


 その時、ギルドの奥から騒がしい声が聞こえた。

「だから言ってんだろ! あの荷車は俺が先に見つけたんだ!」

「てめえ一人で持ち上がるわけねえだろうが!」

 冒険者二人が揉めている。

 片方は痩せた男。もう片方は――でかい。

 とにかくでかい。

 身長も肩幅も明らかに一回りおかしい。頭一つどころじゃない。大樽が歩いてるみたいな巨体だ。

 しかも顔は妙に幼い。

「俺なら持ち上がる!」

「無理だって言ってんだろ!」

「じゃあ試す!」

 周囲が止める間もなく、巨体の男がホールの隅に置かれていた荷樽に近づく。

 俺は思わずエリアサーチで床を見る。

 あ、まずい。

 その辺、床板古い。

「待て」

 言うより早く、男が樽ごと持ち上げ――

 床が抜けた。

「うおおおお!?」

 巨体ごと半分沈む。すごい音がした。周囲が一斉に静まり返る。

 俺は思わず呟く。

「バカだ」

 ミリアが真顔で頷く。

「バカね」

 床にハマったまま、巨体の男は真剣な顔で言った。

「……持ち上がった」

「論点そこじゃねえよ!」

 誰かが叫ぶ。

 俺はその時、なぜか少しだけ笑ってしまった。

 町は広い。

 そしてどうやら、面白い馬鹿もいるらしい。

読んでいただき、ありがとうございます!

もし良ければブクマや評価をつけていただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ