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半径1kmの神様  作者: ずむずむ
第二章:辺境ギルドとおバカな巨人

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第十一話:はじめての町

 父が町から戻ってきたのは、昼を少し過ぎた頃だった。

 荷袋を背負い、いつも通りの無表情で歩いてくる。だがその後ろには荷車が一台ついていて、村人たちがざわついた。

「なんだあれ」

「補給か?」

「いや、荷車だけじゃないぞ」

 俺もエリアサーチで確認する。

 荷車の中には縄で縛られた盗賊の頭領、それから書類や袋。町での報告は無事済んだらしい。

 父は村の広場に着くと、荷物をどさりと下ろした。


「ギルドから報奨金が出た」

 その一言で、村長の目の色が変わる。わかりやすいな。

「ほ、報奨金!?」

「盗賊団壊滅の協力報酬だ。村にも一部回る」

 広場の空気が一気に明るくなる。

 そりゃそうだ。小さな村にとって臨時収入はかなり大きい。

 父は俺の方をちらりと見た。

「あと、ギルドの職員が言ってた」

「何を」

「『敵の動きを正確に把握した奴がいるなら、そいつは相当使える』だそうだ」

 嫌な予感しかしない。

「名前は?」

「出してない」

 父が即答したので、少しだけ安心した。

「ただし、近くの町じゃ盗賊団の件でちょっとした話題にはなってる」

「そりゃそうか」

 三十人規模の盗賊団が辺境の村でほぼ壊滅。しかも村はほぼ無傷。

 普通に考えて変だ。

 変だから、噂になる。

「で、町はどうだった?」

 ミリアが食いつく。

 彼女も父の帰りを待っていたらしい。さりげなく近くにいるのが自然でいい。

 父は少し考えてから言った。

「人が多い。うるさい。飯はそこそこ。ギルドは酒臭い」

「最後だけ偏見じゃない?」

「事実だ」

 すごく事実っぽい。

「俺も行く」

 気づけば口にしていた。

 父が眉を上げる。

「急だな」

「急じゃない。前から言ってた」

「そうだったか」

「覚えとけよ」

 父は少しだけ笑った。

「まあ、いい。次に町へ行く時は連れていく」

「ほんと?」

「ただし見学だ。ギルドの登録はまだ先」

「年齢?」

「それもあるし、お前はまず体力がなさそうだ」

「そこは否定できない」

 ミリアが横から割り込んでくる。

「え、ちょっと待って。レインだけ?」

「何が」

「町。私も行く」

「遊びじゃないぞ」

 父の言葉に、ミリアは胸を張った。

「薬草の売り物あるし。リディアさんの手伝いってことにすれば自然」

「自然ではあるな」

「でしょ」

 そう言いながら俺を見る。

「なによ」

「別に」

「『ついてくるのか』って顔した」

「被害妄想だな」

「最近あんた、ほんと腹立つ」

 平常運転である。

 だが、そのやり取りの最中に父が荷袋から木札を取り出した。

 古びた金属の縁取りがされた、見慣れない札だ。

「これ、何」

「昔のギルド証だ」

「へえ……」

「もう使えんがな」

 そう言って父は何気なく俺へ放る。

 受け取って見た瞬間、裏面の刻印に目が止まった。

 ランク表記。

「……S?」

 思わず声が漏れた。

 父がしまったという顔をした。珍しい。

 ミリアが固まる。

「え」

 俺は木札と父の顔を見比べた。

「父さん」

「なんだ」

「昔ちょっと、の“ちょっと”が国を滅ぼせる規模なんだけど」

「昔の話だ」

「いやいやいや」

 ミリアが俺の横で口をぱくぱくさせている。

「Sって、あのS!?」

「たぶんそのSだな」

「なんで農家やってんの!?」

「畑が好きでな」

「嘘くさ!」

 村長まで遠くからこっちを見て固まっていた。

 そりゃそうだ。

 辺境の村の農民だと思っていた男が元Sランク冒険者とか、情報量が多すぎる。

 父は諦めたように頭を掻いた。

「まあ、色々あった」

「便利ワードやめろ」

「便利だからな」

 親子で会話の逃げ方が同じになってきた気がする。嫌だな。


 その夜、家の前で夜風に当たりながら、俺は町のことを考えていた。

 ギルド。依頼。冒険者。外の世界。

 半径1kmの中では強い。でも外へ出れば、相手も規模も段違いになる。

 それでも、行く価値はある。

 情報が集まる場所なら、この能力の使い道も広がるはずだ。

 その時、隣にミリアが腰を下ろした。

「行くんでしょ」

「町?」

「そう」

「行くつもり」

「ふーん」

 彼女は少しだけ膝を抱えて、空を見上げた。

「じゃあ私も行く」

「だから遊びじゃないって」

「薬草売りに行くって言ったでしょ」

「建前っぽいな」

「うるさい」

 少し黙ってから、彼女はぼそっと続ける。

「……あんた一人で行くと、なんか余計なことしそうだし」

「信頼がない」

「あるわよ。別方向に」

 それは信頼なのか。

 でも、その言葉は少しだけ嬉しかった。

「町までなら半日で往復できる」

 父の声が背後から飛ぶ。

「明後日行くぞ」

 俺とミリアは同時に振り向いた。

「急だな」

「早い方がいい。報奨金の手続きも残ってるし、薬草もまとめて売る」

 父はそう言って、さっさと家へ入っていく。


 俺は夜空を見上げた。

 いよいよ村の外だ。

 胸の奥が少し熱くなる。

 怖さより、今は期待の方が強かった。

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